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2016/10/26

レビュー

水曜日のカンパネラがもう4段階気が狂ったらこんな感じか CHAI

「水曜日のカンパネラ 魅力」で検索すると、一番上にヤフー知恵袋の"水曜日のカンパネラの魅力は何ですか?"というページが出てくる。以下はそのベストアンサーだ。

彼女らの音楽の魅力は、言葉遊びと、リズム感とコンテンポラリーな解釈のMVですね。EDM等の最新のセンスを感じられるリズム・打ち込み。アジアンな母音・子音を持つ日本語の言葉の響きとのマッチング、言葉遊びのうまさと面白さ。こんな絶妙なバランスで彼女らの音楽は成り立っていると思うのです。
あなたは、現代美術など音楽以外の芸術に触れたことはありますか?それぞれに解釈の仕方に幅があり、作り手のアイディアを受けてが汲み取って感じていくことが容易にできるのです。それが上手くいってこそ現代の音楽・芸術に意味があるのです。言葉上表面だけでなくじっくりと聴いてなにを表現したいのか、なにから影響を受けてどんな音楽を聞いて欲しかったのかを考える視点をもつと包括的に考えられ面白さが増すと思いますよ。
ついでに言うと、音楽・芸術は実力がありさえすれば上手く演奏・表現すれば売れるとかいうわけではありません。革新的なものを考え世の中に広めた人が評価されるというのが今までの流れです。歴史上の音楽や美術の流れを見ていくと明らかなことですが、ご参考までに。

 なるほど、なるほどね。まったく何を言ってるのかわからん。

「あなたは、現代美術など音楽以外の芸術に触れたことはありますか?」「歴史上の音楽や美術の流れを見ていくと明らかなことですが」と、淑女をエスコートする紳士の手慣れたレディーファーストの如く、至極自然な流れで質問者を強く罵倒。そして同時に自分の知識素養をアピールするという高等テクニックを見せつけるなかなかの名文。

 一つの歌にも聴く人によって解釈はそれぞれあると思う。彼が言うように

コンテンポラリーな解釈のMVや、EDM等の最新のセンスを感じられるリズム・打ち込み。アジアンな母音・子音を持つ日本語の言葉の響きとのマッチング、言葉遊びのうまさと面白さ。こんな絶妙なバランスが…

と思って水カンを聴いている人も、いなくはないでしょう。けど、それは少数派なんじゃないかと。少なくとも僕の場合は「ハッハ、意味わからんコレ、おもしろ~」ぐらいの感じ。

 

 一時流行った"シュール"という言葉があるけれど、水カンをこの言葉に当てはめるのであれば、彼女らの魅力っていうのは以下のようなことなんじゃないか。

シュールな笑いは「わけがわからないからおもしろい」わけです
(中略)
面白い人には確かに面白いんです
しかし「なぜ?」と言われても困ります。説明できないんですね
おそらく、論理的に説明できない=言葉では説明できない領域、だと思います
普通考えつかないタイミングで、誰も思いつかない概念がポンと出てくるんです

 これは「シュール 面白い なぜ」で検索して何番目かに出てきたページの引用だ。権威の意見でも大衆の意見でもないが、彼の論は「確かにそういうことだな」と僕の腑にはストン落ちた。

 不条理で相手を混乱に陥れ、その隙を突き魅了する。システム的にはセクシーコマンドーみたいなもんである。人が理解できる範疇をちょっとだけ超えることで人を混乱させ惹きつけるのである。

 また、そうやって人気が出始めると「なんか私にはよくわかんないけど、みんな良いって言ってるからたぶんこれはきっと良いものに違いない!」みたいな、理解できないことが恥ずかしいという同調圧力で、アンデルセンの裸の王様に似た一種の集団催眠のような作用も現れ始める。それが水カンの魅力なんじゃないかなと僕は思っているのだ。

 ただこの「人が理解できる範疇をちょっとだけ超える」というのがなかなかに難しい。絶妙なバランス感覚が要求されるのだ。水曜日のカンパネラはそこらへんがとても上手で、あの気の狂った感じもちゃんとギリギリ客がついてこれる塩梅を計算し尽くしてやっている。同じ気狂いでも堀内健やジミー大西のような天然もののマジのクレイジーではなく、りゅうちぇるのような人工のクレイジー。だからこそお客は安心して楽しめる。

 と、考えた時にだ。昨今どこからともなく現れ、スイっと米国フェス出場オーディションに優勝したこのCHAIというバンド。こいつらは暗黒期の小梅太夫ライクな無軌道の狂気。こんなもん流行ってたまるか。今日はそういうお話です。

理解できる範疇を越えすぎ

 水カンのシュールは、なんだかんだ言って親切なシュールだ。コムアイのカリスマ感を損なわないようにあくまでも彼女は奔放にやっている風に見せているが、ちゃんとディレクション側がバッチリオシャレに面白く演出している。

 と、比べた時にCHAI。この叱れる大人が一切不在な感じがアブない。動画説明文で自分から言っちゃってるけど、出だしから岡村靖幸パクっとるしな。誰にも頼まれてないのに女4人集まって「コレやろうぜ」ってなる経緯が全くわからん。幼少期に変な心の傷とか負ったんかこの子ら。

 件の"ぎゃらんぶー"はどうやら毛の事らしい。ギャランドゥ的なことなのか。

 思えば一昨年吉澤嘉代子ちゃんが公開していたケケケという曲。これも女性から見た"毛たち"の敬虔なリスペクトの歌で、僕の知人女性陣たちからアツい支持を得ていた。まつ毛は伸びて欲しい…!でも眉毛は整えるの…ごめんね毛たちよ…!

 僕は成人男性ですので、まあ眉毛ぐらいはたまに整えますがね、女性のみなさんほど毛に対する思い入れはないわけですよ。お前らは自由に生えるわけだし、俺も気が向いたら剃るよと。そんぐらいの乾いた関係。だけど彼女らから訊くに、どうやら女性たちにとっては"毛"はライフワークに大きく関わる重要テーマらしい。我らメンズがエロいことを考えている時間と同じくらい女子は毛のことを考えているらしい。なんだよ、男の方が全然健康的じゃん。関係ないけどミュゼから出てくる女って全員ツルツルなのかな。いっつも気になってるよ。

 この"ぎゃらんぶー"のテーマはたぶん「毛がなんぼのもんじゃい」的なやつ。歌詞がわからんので正確にはわからんけど、彼女らの中で眉毛を伸ばすのがマイブームらしくたぶんそういう感じの話。これは一男性の意見なんだけど、ちゃんと剃っててほしいよ。メンズ的には。

 

 これ一番好き。音源持ってないけど。なんか普通にキャッチ―で気持ちいいサウンドしてる。ぴーちくぱーちくちゅーちくってなんか言いたくなんない?

 CHAIが惜しいのは、音源の録音がファジーすぎてサウンドの良さが全然伝わんないということ。

 記事書こうと思ったきっかけはライブなんだけれど、ヘンテコな衣装で女四人出てきて何をするかと思いきやゴリッゴリのファンク。ギターの子ES335だし。特にベースがゴリゴリ、ドラムも無意味に正確無比。

 僕は別のバンド目当てで見に行ったもんだから完全に不意打ちで「え、なにこれ。なにが始まったん。え、なに、良いじゃんこれ」とか思ってたらば、前二人の双子のアカペラパートに入ったり、お手製のうちわ掲げだしたり、ずっと意味不明なんだけれど、心構えもないまま見に来て出だしに「いいじゃん」ってなっちゃってるから、そのペースに最後まで完全に乗せられて「なんかすげえもん見たな」と、その日の印象を全部持っていかれた。

 なんだかこれって、水カンが大ブレイクするまえに彼女を見かけて「ヤバいの見ちゃったんだって!」と興奮していた人たちと同じ感情なんじゃないかと。ほとんど闇討ちみたいなもんだよね。卑怯。

 それだけに音源だといまいちそのファンクネスが伝わんないのが惜しい。はがゆい。

 頭にも書いたけれど、シュールという枠組で見た時にこのCHAIというバンドは説明部分がなさすぎる。

 女子高生が水カンを聴いたときに面白がってくれたり、ファッション性を見出して「好き」と公言してくれる画はギリギリ思い浮かぶけれど、CHAIはもうそういう次元を2歩くらい踏み越えてそういうファンを置き去りにしてる感じ。

 でもその"本当に好き放題やってる感"が彼女らのファンを惹きつける部分なのかなと、マジでギリギリのライン走るじゃんコイツら!と。

 どうでしょうCHAI。ついていけそうかい。

 ライブハウスで見かけたら、僕みたく不意打ち食らわないように気を付けて。それでは。

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