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2016/01/22

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思い知れ!これが海外の楽器屋だ!プレミア物だらけのNY老舗ギター屋 "Chelsea Guitars"

時間がある日は、地下鉄に乗らずに、勤め先の37丁目から14丁目まで6番街沿いを歩いて帰る事が多い。
途中、23丁目のチェルシーホテルの並びにあるドーナツ屋に寄り道するので、ダイエットの為に歩いて帰った意味がなくなるという、脂肪強化週間が続いている。そんな寄り道をしていて、気になるお店を発見してしまった。チェルシーホテルに隣接する小さな楽器屋 “Chelsea Guitars”だ。

チェルシー地区ってどんなとこ?

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古くからアーティストが集う街と言われていたチェルシー地区。
10年位前までは、東京で言うとこの下北沢のようなアンダーグラウンドなエネルギーに溢れていたものの、現在は高級アパートが立ち並び、完全に観光地化されてしまった。申し訳程度にアートギャラリーが残っているものの、悪い意味でハイソでお金の臭いがプンプンするので何となく近寄りがたい。余談だが有名なゲイエリアなので新宿二丁目的な役割も果たしている。そんなチェルシーに古くから佇んでいるのが、かの有名なチェルシー・ホテル。洋楽をかじった事がある人なら名前位は聞いた事があるかもしれない。1978年、セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスの恋人、ナンシー・スパンゲンが刺殺されているのが100号室で発見されたエピソードが一番有名かと思われる。他にも、ボブ・ディラン、トム・ウェイツ、ジャニス・ジョプリン等が長期滞在していた事があったり、名作「2001年宇宙の旅」が執筆されたホテルだったりと、芸術家にとことん愛されている歴史あるホテルだ。

Chelsea Guitarsってどんな楽器屋?

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チェルシーホテルの隣にあり、縦長で12畳あるかないかのお店にはギター、ベース、アンプが所狭しと並んでいる。床はアンプだらけで足の踏み場が殆どない。
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06元々、チェルシーホテルのレストランだったエリアを改装して楽器屋にしたらしい。ギター、ベース、エフェクター、アンプの他にはウクレレ、マンドリンやバンジョー等の弦楽器を中心に取り扱っている。プライベート・クラブみたいなお堅い場所じゃなく、誰でも立ち寄れて、音楽に情熱のある変人達が集まる地下室の様なお店にしたい…というコンセプトを元に作られた。店主のダンさんがコレクター気質なので、彼が面白いと思える商品はお客さんも興味を持って貰えると睨んで、彼のコレクションである多数のビンテージ品が店頭に並んでいる。しかしながら、高騰し続けるニューヨークのテナント代に反比例するように、売り上げそのものは芳しくないらしい。ダンさんいわく、「毎日面白い発見があって飽きない」と、売り上げに関わらず楽しく運営を続けているそうだ。有名人も頻繁に訪れるらしく、レニー・クラヴィッツやジャスティン・ティンバーレークなどのミュージシャンを始め、アン・ハサウェイなどのハリウッド女優から映画監督、有名画家などあらゆるアーティストのお気に入りギターショップでもある。

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って事で、オーナーのダンさんに直接お話を伺った。

真ん中が店主のダンさん

真ん中が店主のダンさん

客層とその変化

マンハッタンのど真ん中、名所のチェルシーホテルに隣接しているだけあって、客層はかなり幅広い。
老若男女、世界中から人種国籍問わず色んな人が訪れるらしい。
60%以上のお客さんがヨーロッパとアジア圏とのこと。

ダンさん(以下D):「本気で真剣に音楽と向き合っているのは、アメリカ人…ニューヨーカーではない。(※だから客層の6割が非アメリカ人)アメリカ人はあまり自分の(音楽)文化に注意を向けていない。気にしていない、と言うのは言い過ぎになるけど、アメリカの音楽文化や歴史そのものが当たり前の事と思い込んでいる。自分たちの音楽の素晴らしさに気を払っていないのは勿体ないと思うよ。例えば、今現在、世界的に腕の良いギタリストはアメリカ人じゃない…日本人だったり、イギリス人だったり、ロシア人だったり。僕がビジネスを始めた27年前のベスト・ギタリストはアメリカ人だったんだけどね。」
ーそれって(アメリカ人として)悲しいと思う?
D:「ノー!素晴らしい事だよ。アメリカから良い音楽が時代を超えて世界中に伝わって、腕のいいミュージシャンが日々生まれる。音楽がすべての人間の為になりつつあると言う事だよ。("Music for Humans”) 良質の音楽を媒体に、僕たちはみんな一つなんだよ。」

人気ギター&ベース

売れ筋エレキギター
Fender テレキャスター
Fender ストラトキャスター
Gibson レスポール
Gibson SG


売れ筋アコースティックギター

Marten全般
Gibson全般


売れ筋ベース

Fender Precision Bass (P-Bass)
Fender Jazz Bass
Gibson EB-2
Gibson EB-3

なるほど、売れ筋はあまり日本と変わらないみたいだ。
D:「 最近の若者は、アコースティックギターから入る子が多いね。昔は好きなギタリストに憧れて、全く同じモデルのエレキギターを買ってギターを始める子が多かったんだけど。インターネットの普及により、音楽知識が豊富な上に音楽制作にもとても詳しい子が増えたよ。特に好きなジャンルの音楽に特化して詳しかったりする。」

ー日本のギターは取り扱っている?売れている?
D: 「もちろん!物凄く売れているよ。憧れのミュージシャン達が使っている上に、日本製ギターは丈夫な上に音質が良くて安い。アメリカのロックキッズが初めて買うギターは殆どが日本製ギターだよ。」

売れ筋日本製ギター
ESP
アイバニーズギター
ヤマハ
タカミネギター

日本人として自国製の商品が海外で人気と聞くとなんだか嬉しくなるものだ。

日本人ギタリストのお客さん諸々、ダンさんの印象

D: 「90年代は日本が経済的なゆとりがあったのもあって、何の躊躇いもなく$5,000(約60万円)以上する50年モノのレスポールを買って行く人も結構いたな。最近のお客さんだと、日本ではギタークラブのような組織が高額なギターを買ってくれる。そのクラブ名義で$20,000 - $30,000(約240万円- 360万円)のギターを購入して、クラブ会員が一つのギターをシェアするというシステムになってるらしい。日本人は楽器に対して本気で敬意を払っているし、扱いももの凄く丁寧だから頭が上がらないよ。あと、物事を真剣に捉える国民性が反映されてるのが日本の楽器雑誌!僕は全く日本語が話せないし読めないけど、一昔前まではギターの情報収集の為にわざわざ日本の本屋さん(※ニューヨークには紀伊国屋がある)まで出向いて、日本の音楽雑誌を見て勉強していた。全く読めないのに、写真を見るだけでも沢山学ぶ事があった。例えばネジや塗装なんかの、とことん細部にこだわって研究を惜しまない姿勢といい、楽器雑誌に関しては世界一だよ、日本は。それに加えて、ギター修理に関しても日本は世界一だ。アメリカ人は酔っぱらって適当に音鳴らしてモテたいだけの奴ばかりだけど、日本人は違う。本気で音楽と向き合っているが故に成せる業だと僕は思うよ。」

エフェクターについて

エフェクター売れ筋
Fuzz
Overdrive
Delay
Reverb

D: 「お店が狭くて場所がないから、エフェクターはお店の後ろに置いてるんだよね。お客さんに頼まれたら見せるようにしている。うちはエフェクターは中古品しか取り扱っていない、と言うのも、1-2回使って気に入らなかったら、すぐに売りに来る人が圧倒的に多いんだ。新品に近い良いコンディションで半額で提供出来るから、お客さんもその方が買い易いと思って。故にDeath by Audio (NYブランドのエフェクター)も中古のみ置いているよ。」
エフェクターもギター同様、あまり売れ筋は日本と違いは見られない。余談だがエフェクターは英語で「エフェクツ」と発音するとこの日初めて知った。

地域による売れ筋楽器とニューヨークの音について

ー地区によって売れる楽器は違う?
D: 「ニューヨークみたいな大都市では、人とは違った、マイナーで安いギターを買おうとするお客さんが多い。特にブルッリンのミュージシャンはその傾向にある。例えば、古いノーブランドのドイツ製ギターだったり、突飛なデザインのものだったり。とにかく、安くてカッコいいギターを買おうとする人が多いな。田舎だとアコースティック、テレキャスター、Gibson 330 Hollow Body (ビートルズが昔弾いていたもの)だったり、王道が売れる傾向にあるな。」

ーニューヨークっぽい音ってある?
D: 「良い質問だ。エレクトロ、ジャズ、カントリー、ヘビメタ、ダンス・ミュージック…ニューヨークはあらゆるジャンルの音楽に強く、その音楽が混じり合ってカッコいいフュージョン音楽が日々生まれている。僕からすると、ニューヨークの音は固くてとても良いと思う。例えば、君と僕がバンドを組んだとすると、僕が君からの要素を取り入れて、君は僕の要素を取り入れて、特別な音が出来る。すごく力強いものだ。NYのほとんどの人間は、全米はおろか世界各国から来ていて、人種国籍は多種多様。そんな世界の音楽が混じり合って一つになる。だからニューヨークの音楽は素晴らしいんだよ。この街の人間は、みんながみんな全然違うし、常に人と違っていたいと思っている。僕たちを繋いでいるのは『ニューヨークを愛している』と言う事実のみ。その一つのきっかけで良い音楽が生まれるって素敵なことだと僕は思うんだけどね。」

日本じゃ買えないプレミア商品

ダンさんいわく、レスポールを始め有名なビンテージ・ギターはほぼアメリカ製とのこと。かなりレアなギターをEbayより安くで販売している、と胸を張って仰っていた。最近だと若くして亡くなったJeff Buckleyの愛用ギターもあるらしい。(ピンと来ない人も、音楽を聴いたら必ず分かるはず)

さて、散々こんな記事を書いておきながら、私は音楽の才能が1mmもない上にバンド経験もなく、楽器の知識も無知に近い。そんな私を毎度助けてくれる谷澤先生プッシュのビンテージ商品が以下の通りだ。(※解説も谷澤先生の知恵を拝借)

1930 National Duolian

1930 National Duolian $3000 USD

$3000(約36万円)
コンディションは完璧ではないが、クラシックのバイオリンン等に比べて遥かに雑な扱いを受けやすいギターという楽器が、およそ1世紀を超えて形をとどめているミラクル。


1958 Fender P Bass Metallic Blue

1958 Fender P Bass Metallic Blue $6,000 USD

$6,000 USD(約72万円)
リフィニッシュ(塗装のし直し)が施されている。初期状態のコンディションを保っていれば、もっと高価な値段が付いたと予想されるが、基本的にビンテージ系はどこかしら手が加えられていると値段が落ちる。リフィニッシュは一番値が落ちる弄り方と思われるので非常に惜しい。


1959 Fender P Bass

1959 Fender P Bass owned by Klaus Voorman

(Klaus Voormanが愛用していたベース)
$20,000(約240万円)
Voormanは、The Beatles “Revolver”のアルバムカバーをデザインしたアーティストらしく、とてもレアな商品。モデルそのものは日本の楽器屋でも手に入るかもしれないが、上記のような有名人が使っていた商品は手に入りにくいかもしれない。塗装のはがれ方、くたびれ方がが上品で美しい。


1959 Gibson ES-330 Blond

1959 Gibson ES-330 Blond $12,000 USD
$12,000(約145万円)
Epiphoneのカジノの大元になったモデルらしい。
オリジナルケース付き。パッと見、地元の楽器屋に並んでるギブソンと見分けがつかないのは私だけか。
逆手に取ると、59年製で新品同様のコンディションという訳だ。確かに高いけど、日本で同じものを見つけるのは至難の業。好きな人に取っては破格かもしれない。


1954 Tweed Super 2×10

1954 Tweed Super 2×10 $3,500 USD
1954 Tweed Super 2×10 $3,500 USD 02

$3,500(約42万円)
旅行鞄みたいだな、と思ったらアンプ。
これも歴史的価値のある骨董品である。使い込んだ感じがすごくカッコいい上に音の鳴りも最高。


1952 Gibson Les Paul All Gold

1952 Gibson Les Paul All Gold $15,500 USD

$15,500(約187万円)
上記の50年代ギターの中より更に古いが、こちらも完璧のコンディション。
今でこそ大量生産になってしまっているが、職人肌のギブソンの初期ギターはとても丁寧に作られているらしい。一見高いようで、コンディションと年代を考慮すると、お手頃価格と言えるだろう。

上記のビンテージ商品は全て一点もの。まず日本の楽器屋では、同じ値段では手に入らないと断言できる。
ギターの事がよくわからない私でも、ビンテージの良品質でこの値段は安いのでは?との印象を受けた。
この様に、スーパーレアなビンテージ楽器の取り扱いが、チェルシーギターの最大の魅力なのだ。

いかがだっただろう?

ニューヨークの楽器屋でも、日本と同様に全米チェーンがあり、すぐにバンドが始められるくらい楽器が種類豊富だったり、最新のエフェクターが粒ぞろいだったり、お店自体が広かったりとチェーンならではの魅力はある。しかし、アメリカの音楽と芸術に憧れて渡米した私の独断と偏見で、12畳の店内にニューヨークを集約したような狭くて深い、ユニークな楽器屋さんをどうしても紹介したいと思った次第だ。ざっくりではあるが、ニューヨークの個人経営の楽器屋の雰囲気とChelsea Guitarsの魅力が伝わっていれば幸いである。

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