BASEMENT-TIMES

読める音楽ウェブマガジン

ホーム
アバウト
人気記事
月別索引
オススメ記事

クリープハイプに、これ以上先はあるのか?

 夜を徹して居酒屋で酒を飲んでいたら、備え付けられた小さいモニターに尾崎世界観が映っていた。めざましテレビだった。なにか、笑っていた。

 尾崎世界観。本名、尾崎祐介。酔っているのか、明るいところでまじまじと見てみると「あれ、あの人こんな顔だったっけ」と思った。今のパーマも似合っているけど、何年か前のもうちょっと緩いパーマの時の尾崎世界観が俺は好きだった。

 たぶん、一度でもバンドを志した人間で彼を尊敬していない人なんていない。クリープハイプという字並びを見て今でも真っ先に思うのは「下北沢DAISY BARで、かっこいいライブをして、手売りでCD売りさばいて、着実に勝ち上がってきた叩き上げのバンド」という像だし、勝手に「憧れの先輩」というような心持で彼らを見てしまう。

 そんな尾崎世界観が、めざましテレビで、めざましジャンケンをしていた。グーを出していた。

「へえ、祐介もこんな表情(かお)するんだ」

 ついこの間、中野サンプラザホールで見つめあったあの日は見せてくれなかったそぶりに、胸がキュッと締め付けられる。

 テレビの向こうで頑張る祐介の姿、嬉しいはずなのに、アタシ泣きだしそうなのは、なんで?

 

 

 

[amazonjs asin="B07FKQ9RJJ" locale="JP" title="泣きたくなるほど嬉しい日々に(初回限定盤)(DVD付)(丸スチール缶パッケージ仕様)"]

 5thアルバム、泣きたくなるほど嬉しい日々に。9月26日、発売です。宜しくお願い致します。

 

 左耳のMVの日付が8年前なことに驚きなんだけれど、思えばここからの躍進劇はすごかった。

 当時のクリープハイプは僕らの中では「長いことやってるしライブも曲も良いのになかなか評価されないバンド」という印象で「もっと売れてもいいよなー」なんて勝手なことを言っているうちにあれよあれよとバンドスターダムを上り詰め、朝7時、めざましテレビである。不動の地位を獲得してしまった。

 思えば、当時急激に人気を伸ばしていたライバル?に当たるバンド、例えばKANA-BOONとか、2010年代初頭を彩る邦楽ロックバンドたちの中で、最大限の成功を収めたのがクリープハイプなんじゃないか。蓋を開けてみれば、彼らの一人勝ちだった。個人的に好きだから、そういう贔屓目もあるかもしれないけど、俺から見た一等賞は彼らだ。

 今やツイッターのIDにcreephypの字を入れてるメンヘラの数は日本全国の美容室の数より多い。2015年以降のインターネットは、あのちゃん、浅野いにお、クリープハイプでできているといっても過言ではなく、この年代に生きる10代20代女性の文化生活に強烈な影響を及ぼしたバンドだと言える。椎名林檎、五十嵐隆、尾崎世界観の並びで歴史書が一冊書けると思う。

 そんなクリープハイプだけれど、アルバムリリースに際して今ひとつだけ思う事があるならば

「クリープハイプにこれ以上先はあるのか?」

 ということ。もうこれ以上ないぐらい大成功を収めた彼らは、次に何したらいいんだ?と。

売れたバンドのその後

 他のバンドはどうだろう。

 例えばONE OK ROCKとか、SEKAI NO OWARIみたく、国内で登り詰められるところまで登りきったバンドなんかは、多くは海外を意識し始めることが多い。

 

 こういう風に。

 

「別に無理して上を目指さなくても、現状維持でいいじゃん」

 そういう意見、わかります。俺もそう思う。

 だけれどバンド運営というのはそう単純なモノでもなく「上を目指している彼らを応援したい」というところも、バンドの魅力の大部分だったりするわけで、言うなればバンドは本マグロ。回遊魚であり、止まると死ぬ。上昇している感覚に惹かれるファンも少なからずいるため、ワンマンの会場がちょっと小さくなったり、アルバムのセールスが悪くなったり、そういう失速感が出てしまうと一気に人気がくすむこともある。いやまあ純粋に「その音楽が好き」っていう所でファンになって、そういうことは気にしないという人もいるんだろうけど、とにかくバンドにとって「次の目標」というのは命綱みたいなもんである。

 なんだけれど、上で上げた例のように「海外を目指す」というのは正直あんまりいい策じゃないと俺は思う。成功例がほぼないからである。

 というか日本人の趣味と欧米人の趣味は、ここ10年ぐらいでもう取り返しがつかないぐらい乖離してしまったため、日本人の若者は洋楽を聴かないし、邦楽は海外では難しい。海外進出を目指したミュージシャンの現状を見ると、そう言わざるを得ない。

 

クリープハイプの場合

 ここからがしたかった話で、じゃあクリープハイプはどこに向かっていくんだろう?と思ってたんですけど

 

 この人ら依然バチバチに国内シェア狙ってるなと。

 前のリリースの世界観も、良いアルバムだったけれど詰め込んでる曲なんかも結構尖ってる曲が多くって、タイトルもボーカルの名前を冠しているし「ファンがうれしいアルバム」という感触だった。

 俺が一番好きなのは1stアルバムなんだけど、あれは「バンド音楽を好きな人たち」を狙い撃ちしたアルバムだったし、内容も擦れてるというか、ちょっと暗い。それ以降のアルバムもやっぱりジャケットやタイトルから根の暗さを前に出したものばかりだったし、その「擦れた男女関係」というテーマ自体が彼らの魅力でもあった。のだけど、そのクリープハイプが

 

「泣きたくなるほど嬉しい日々に」
 
 つって。間違いなく今までで一番前向きなアルバム。アー写も、全員ド笑顔。

 クリープハイプは根の暗い、先行きのない恋愛みたいな、そういう歌詞性とかバンドバンドした音楽性とか、そういう魅力に惹かれるバンドのファン全員に既に届いている。バンド音楽を聴くにあたってクリープハイプを避けて通るほうが難しいし。

 今回のアルバムは、そういうクリープハイプらしい部分もありつつ、もっと「普段バンドは聴かない」っていう、一般層にも聴いてもらえるアルバムになっている。

 

 めざましテレビに出るようになったのもそうだけど、こんなハッピーなアレンジで、ほかのアーティストと一緒に歌っちゃうなんて、昔のクリープハイプじゃ考えられなかったし、尾崎世界観の「もっと表舞台でやってくぞ」という意思が見て取れる。あとこの動画スガシカオが出てくるたびにクソ面白いから絶対見て欲しい。頼む。

 

 さっきもリンクを張ったバンド版の栞は、ド初期のクリープハイプらしい曲調に仕上がっているし、以前からのファンのことも忘れちゃいない。

 なんか遠くに行ってしまったような寂しさも確かにあるけれど、ファンとしては躍進していくクリープハイプを応援すべきだし、単純に、多くの人に聴いてもらえてうれしいなと思います。

 もっと多くの人にクリープハイプが届きますように。

 それでは。

オススメ記事

記事検索

オススメ記事