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2017/09/13

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邦楽が洋楽に勝っている部分 ~邦楽の良さは歌詞だ~

今回は「邦楽が洋楽に劣っている部分」の続き的な話。そちらを呼んでから是非どうぞ。

 

 こんにちは、面倒くさいオタクです。

 都市伝説レベルの話ではあるが、フランス人は計算が苦手という話を聞いたことがあるだろうか。

 この話には一応もっともらしい根拠があって、フランス語を齧ったことがある人ならご存じだと思うが、フランス語では数字を表すときやたら面倒な表現の仕方をするのだ。

 例えば99をフランス語で言うとquatre-vingt-dix-neufとなるのだが、これは4x20+10+9という意味。直感でわかるがクソ面倒くさい。

 かくして、フランス人は数字の数え方が複雑なので計算に弱いという話が出来上がったのだ。(実際に遅いかはなんともいえない感じらしいが、日常生活レベルの計算はやっぱ遅い傾向があるらしい)

 さてフランス語の例でもおわかりいただけると思うが、日常的に言葉を使って生きている我々は少なからずとも各々使用する言語の特性の影響を受けているのである。

 例えば「英語は論理的な言語なので特にビジネスのときにおいてはハッキリとした表現が好まれる」とかそういった具合だ。

 言葉が国民性などに影響を与えるが、それは音楽も例外ではない。というかむしろ言語的特徴と音楽とは密接な関係にある。

 少し話は変わるが、みなさんは日本の古来の音楽をご存知だろうか。西洋の影響を受ける前の時代の音楽、純粋な日本人の音楽である。

 一番わかりやすい例がこれである。みなさんも絶対聴いたことがあるはずだ。正月の時に流れる雅楽、タイトルは越天楽という。

 パッと聴いただけでも今のポップミュージックとは似ても似つかないと感じるとは思うが、音楽理論的な側面から見てもかなり違っていて、現在の音楽の3大要素であるリズム、メロディー、ハーモニーのうち、リズムの概念がかなり薄く、ハーモニーも西洋音楽的な和音とはまた概念の違う、どちらかというと倍音に近い概念で作られている。日本人が日本人の血の流れるままに音楽をするとこういう音楽になるのだ。

 こちらはまだまだ研究が進んでいない分野ではあるのだが、個人的には”純日本音楽”は日本語と密接な関係があると思う。

 言語そのものが持つリズムという分類では日本語は「モーラ言語」というやつに分類される。簡単に説明すると「ダウンビート」といった時には「だ・う・ん・び・い・と」という具合で6音節数えるという感じのイメージだ。

 対して英語は一般的に「強勢リズム」をもった言語とされる。"Down beat"といった場合には2音節、"Down beat"という具合だ。強勢がない部分は音楽理論的にみると裏拍と捉えることが出来る。

 

 現在みなさんが普通に聴く音楽、広義の意味でのポップミュージックのリズムは、英語のリズムが由来のビートの上に成り立っている。つまりポップミュージックにおいて良しとされるリズムは、母語の特徴的な面で、日本人の得意としないものなのである。日本人が得意とするのは先ほどの雅楽のような音楽なのである。雅楽までいくとちょっと極端な例になりすぎしまったが、例えば童謡の”さくらさくら”とかそういうのが得意なのである。音楽的に言うと頭拍にアクセントがくる音楽だ。

 先日当サイトの別のライターが書いた記事「邦楽が洋楽に劣っている部分」という記事では、幾つかの面において日本人の作る音楽は西洋のそれと比べて劣っているというように書かれているが、それもそのはずである。

 イギリス人やアメリカ人が得意とするルールの中で生まれた音楽の中に、別のものを得意とする民族がツッコんていけば当然こういう結果になるだろう、ということである。

 

日本語の良さ

 さて、「邦楽が洋楽に劣っている部分」の記事に対して、邦楽のほうが優れている部分の記事を書こうとしたら、返って邦楽が劣っている理由を強めてしまうような話になってしまったが、先ほどのやつは今からの話の序論である。

 邦楽が、洋楽に勝っている部分、それは歌詞表現の豊かさである。

 

 冒頭に言語ごとにそれぞれ特徴がある、という話を書いたがその続き、日本語は何に優れた言語であるか。皆さんご存知だろうか。

 一般的には日本語は気持ちを伝えるのに向いている言語といわれている。

 一応それっぽい根拠もあって、現在我々が使用している言葉日本語は元々和歌や小説などに用いられていた言葉であり、論理的な言葉は漢語で書かれていたという。

 まあこの話も都市伝説的なところがあるが、とにかくニュアンスはそういうことだ。

 端的な部分では、みなさんもよく聴いたことがあると思うが日本語の一人称の豊富さ。

私、私(わたくし)、僕、俺、俺様、自分、儂、あたし、あたくし、あたい、わい、あだす、うち、おいら、おら、おいどん、吾輩、某、麿、小生、あっし、あちき、妾、拙者、手前 

 ざっくりあげてもこんなにもある。かたや英語では"I"のたった一つだけである。

 一人称もそうだし、語尾の表現、推定だけでも「なのだろうか」「なのかもしれない」「なんじゃない?」「かもね」だったり。ちょっとした表現の違いによって、微妙なニュアンスや気落ちを伝えられる言語なのである。

 

 また若干話がそれるが、みなさんは英語で書かれた俳句を読んだことがあるだろうか。

 私は一度俳句を書くのが趣味という外人に出会ったことがあり、彼の作品をみせてもっらったのだが、結構微妙だった。印象としては俳句というよりも日本的な世界観”和”をテーマにした普通の英語詩みたいな感じだった。どうしても英語で俳句を書いてしまうと、誰がどこで何をした、見たいなのがハッキリとしてしまいすぎるのである。

 思うに俳句の良さと言うのはその曖昧さなのではないかと思う。

 

邦楽は歌詞だ

 先ほどの話でもなんとなくイメージは伝わっていると思うが、洋楽と比べて邦楽が勝っている部分は歌詞である。

 日本語は英語に比べてリズム面では弱いが、気持ちを表現するよいう面では圧倒的に有利である。レミオロメンの「こなぁ~ゆきぃ~ねぇ」が「パウダースノウ!Yeah!」だったら全然気持ち伝わんないだろうってことである。

 と言うわけで実際の例を挙げていってみよう。

 邦楽は西洋では通用しづらいといわれる中、欧米で大ヒットをかました名曲。ご存知坂本九の”上を向いて歩こう”だ、向こうで発売されたときの英題は"Sukiyaki"である。

 コチラの曲、ヒットしたおかげか英語詩バージョンも作られているのだが、元々の原曲と英語バージョンを見比べてみよう。

上を向いて歩こう
涙がこぼれないように
思い出す春の日
一人ぼっちの夜

坂本九 - 上を向いて歩こうより引用

こちらが原曲の歌詞

It's all because of you,
I'm feeling sad and blue.
You went away, now my life is just a rainy day.
And I love you so, how much you'll never know.
You've gone away and left me lonely.

日本語訳:
こんなに悲しくて憂鬱なのは、君のせいだよ
君がいってしまってからは、僕の人生はまるで雨の日のようになってしまった
こんなにも君を愛しているのに、君には伝わらない
君は寂しさだけをおいて、僕の元を去ってしまったね

Sukiyakiより引用

 こちらがイングリッシュバージョンだ。

 おわかりいただけるだろうと思う。これが日本語のいいところなのである。

 原曲のもつ「悲しいのに、それでもちょっと前向きに」みたいな趣深さ。その絶妙な加減が、英語にしてしまった瞬間台無しである「こんなに悲しくて憂鬱なのは、君のせいだよ」と冒頭から罵倒のバトルクライが鳴り、シメは「君は寂しさだけをおいて、僕の元を去ってしまったね」という徹底した批判姿勢。あくまでは被害者は俺、It's all because of you、坂本九も言葉を跨げばテイラースウィフト。英語にしてしまうとどうしても言語的な特徴から、物事がハッキリとしてしまいすぎるのだ。

 

歌詞が重要だからこそ成り立つ音楽

 とまあ上の例のように作る側の視点でも邦楽は歌詞に重点がおかれるが、邦楽では聞き手側も歌詞を重視して聴くことが多い。

 また極端な例だが、ファンキーモンキーベイビーズのような音楽も邦楽だからこそ成り立つ音楽だと思う。


FUNKY MONKEY BABYS - ヒーロー

 こういう言い方をするとファンの方が怒るかもしれないが、こういう曲ってメロディーやらリズムやらという音楽的な側面からみると、あまりにも安直過ぎるというか、ハッキリいえば歌詞を除いた音楽だけの部分だけみればほとんど中身がない曲といえる。

 しかしちゃんと音楽として成り立っているし、クソ売れている。

 思うに歌詞、言葉を大事にする日本人だからこそ生まれた音楽であるし、そうだからこそウケたのではないかというわけである。

 

日本人は日本人の得意なところを伸ばしていけば良い

 先の記事では「邦楽は洋楽よりも劣っている」という結論だったが、結局それは音楽の良し悪しを決める尺度が洋楽にあったからというワケである。

 個人的な意見ではあるが、洋楽的な音楽の良さは外人に任せておけば良いと思う。日本人は日本人の得意な部分をもっと伸ばしていって欲しいと思うのだ。

 では、少々頭が疲れる記事ではあったが、今回はこの辺りで。

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