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2016/07/16

記事 邦楽ロック

名前にCity付けちゃうシティ・ポップバンド『Awesome City Club』

 

2013年春、それぞれ別のバンドで活動していた atagi、モリシー、マツザカタクミ、ユキエにより結成。2014年4月、サポートメンバーだった PORIN が正式加入して現在のメンバーとなる。「架空の街 Awesome City のサウンドトラック」をテーマに、テン年代のシティ・ポップを RISOKYO から TOKYO に向

思わず途中で引用やめちゃったけど、凄い勇気だと思う。バンド紹介で「RISOKYOからTOKYO」って言っちゃう勇気ではなくて、テン世代のシティ・ポップを名乗って「架空の街 Awesome City のサウンドトラック」ってコンセプトを打ち出した上にバンド名にCityをつけてる。

これで少しでも芋臭いスメルを出そうものなら全国のシティ・ポップソムリエにキリンジ殺法でボコボコにされそうだけど、公式HPのバイオグラフィーを見た時点でもう既に半端じゃないアーバンっぷりが分かっちゃう。

まず撮影場所が都会 of the 都会。東京の象徴である東京タワーをさり気ないアクセサリーみたいな扱いで写真に収めている。タワーの使い方がもう都会人のそれ。タワーの真下やタワーの展望台から撮ったりなんかしない。

31QS7WJP2BL

*くるりのデビュー・シングル

 

メンバーの写真映りもそれぞれに個性が出ていて、なおかつ滑ってない。キノコヘアー一辺倒の皆様に於かれましてはぜひ参考にしていただけたら幸いでございます。

おまけに公式HPの英数字フォントもシャレてる。あと女子メンバーが可愛い。

 

ところで今更ながら最近シティ・ポップって言葉が乱用されすぎてもう定義がグッチャグチャになってるけど、その辺について書き出すと

cityという感じでホントにキリが無いので、とりあえず今回は最広義の定義を簡潔な言葉にして話を進める。

「オシャレか否か」

これでよろしく。

余裕がある。

間違いなくこれはシティ・ポップ。都会で流れている音楽。一等地の音楽。

一等地の音楽ってなんだよハゲという人に説明すると、まず余裕がある。とてもある。駅前タワービルの高層階に構えるホワイト企業(私服勤務OK)の社員みたいな余裕。毎日17時には上がって隠れ家的な店で一杯引っ掛けてから帰りますよ、みたいな余裕。

 

真面目に言うと、どの曲もBPMが落ち着いている。もうちょっと速くしても曲として成り立つし、なんならそっちの方がノれるかもしれないような曲が多いけど、そこを抑えているから聴いていても胃もたれしない。

各楽器のサウンドについても「オレすごいでしょ」みたいなテクニックの押し付けが無く、かといって埋もれたりもせずにさりげなく存在をアピールしている。その調和の取り方が上手い。

特に言及しておきたいのがシンセの音作り。音楽に携わる方なら分かるだろうけど、ツマミ一つをチョロっとイジるだけで音色の印象は大きく変わる。

YMOみたいなトラディショナルな奴もAphex Twinみたいなゴアな奴もシティ・ポップにはそぐわない。

ちょうどいい塩梅の音を作るのはなかなか難しいし、作れたところで同じ音色ばっかり使ってたら耳の肥えたリスナーを満足させることはできない。

そこへいくと彼らはどの曲でも、波形の選び方からエフェクトのバランスまでドンピシャでシティ・ポップに馴染む音を命中させてくる。

生粋のシティな音。生まれてから一度も田んぼとか蝉とか見たことがなさそうな。鮭は切り身の状態で泳いでるって思っていそうな。

 

遊びもある。

あんまりにもお上手なシティ・ポップなので「ちょっと気取り過ぎなんじゃないですかねぇ……」って思った。涙目で。そしたらこれ。

小籠包も踊り出す
君はいなせな上海ガール
火力の違いを見せつけろ
無問題 It's alright!!

alright!!じゃねえよちくしょう。泣きっ面に蜂。

ジャッキーの映画が脳裏によぎるオリエンタルで大真面目なサウンドにハズした歌詞を乗せてくる。ツバメのスープにマヨネーズかけるような暴挙。

しかもそれが意外とイケるみたいな。

歌詞だけじゃない。この曲もそう。表題通りに行進曲を思わせるドラムを下敷きに終始明るいサウンドだけが鳴らされている。既存のシティ・ポップで押し出されがちな妖しさや艶やかさといった面はあまり感じない。

全国のシティ・ポップソムリエの皆様に言わせれば、海原雄山ばりに「これは紛い物だ」なんてちゃぶ台をひっくり返しそうだけど、そもそも厳密な定義付けがあるわけでもない音楽業界において、シティ・ポップを自称するバンドの作った曲が売れて評価されればそれはもうシティ・ポップだ。やっちゃったもん勝ち。

awesome city tracks 2に収録されている「Gold」もそうだけど、そうやってシティ・ポップの枠組みからはみ出そうな曲がいくつかある。ラップもある。

そういう曲を作れるのは彼らなりの余裕と遊び心があるからで、それらをちゃんと形にするための方向性も定めていて、実現できるだけの腕前があるからだ。

2013年の結成からわずか2年でメジャーデビューしているから、その辺は本物だ。

下手な鉄砲は数撃っても当たらないよ。

 

抜かりはない。

最初の方でも言った「架空の街 Awesome City のサウンドトラック」を作るというところから始めるスタンスそのものが異色。バンドってモテたいだけで何も考えずに始めるものじゃなかったんだね。

モテたいだけで始めたバンドじゃないから、その売り出し方も複雑。ライブ会場で配布したコースターをスマホで読み取るとアルバム曲が先行ダウンロードできたり、こんな風に360度自由に見回せるPVを作ってみたり。シティの成せる技。田舎にはこんな映像の撮れるカメラは無いし、あったところでせいぜい紳士服量販店やTSUTAYA、すき屋とかパチンコ店しか無いような街並みでは何も撮れない。

soundcloudやYoutubeにも音源やPVをモリモリ掲載している。この記事でこれだけ引用してもまだ余る。

曲という商品に対しての考え方が他のバンドとは違うんだろうか、とにかく出し惜しみをしないし、曲以外の部分でもリスナーにアプローチを仕掛けてくる。触れなかったけど上の方に引用した動画もPVもかなりユニーク。

したがって、彼らの音楽への門戸は非常に広い。弾数が多いのにそれを勿体ぶるバンドと、そうで無い彼ら。どちらがリスナーにとって好印象であるかは言うまでもない。

そういう取り組みもそのうちスタンダードになって、Awesome City Clubのようなバンドがこれからのシーンを牽引してくれそうな気がする。

そうして次の世代の田舎キッズ達も彼らの後を追って、頑張って上京して東京の歌を書いて欲しい。

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