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Oasisの話題になるとついていけなくてしんどい人は、映画"Supersonic"で一気に勉強しましょう

 イギリスの国民的ロックバンド、オアシス。みなさんはどこまでご存じだろうか。

 ビートルズ以降一番売れたと言われているだけあって、ここ日本でもオアシスの活動をリアルタイムで追っていた世代からその若い世代まで非常にファンが多い。

 その結果、というのもなんだが、「ロックが好きなら当然オアシスもわかるよね?」のようなシチュエーションに出会ったことがある人も少なくないのではないだろうか。これが俗にいうオアシスハラスメントである。

 音楽なんて言うものは個人的な趣味であるので、何に詳しくて何に疎かろうが個人の勝手であるにも関わたず、こういったバンドのことを知らないだけで音楽に詳しくない人というレッテルを貼られてしまうのは非常に腹立たしい。

 

 さて、先日私が住んでいるNYでオアシスの伝記映画"Supersonic"が公開された。バンドやミュージシャンがいわゆる大成功のラインまで売れると大体作られるアレ、ジョンレノンの”ノーウェアボーイ”やらエミネムの”8マイル”とかの類の映画である。日本では12月の24日の公開だ。

 監督は以前エイミーワインハウスの映画を手掛けたマット・ホワイトクロス。ちなみにエイミーワインハウスの映画ではアカデミー賞、長編ドキュメンタリー賞を受賞してる。今回の映画も大いに期待して大丈夫なクオリティに仕上がっている。

 ということで早速見てきたので、日本公開に先駆けての映画のレビュー・見どころ紹介と、オアシスをあまり知らない人でも映画を見に行きたくなるように、オアシスというバンドについておさらいしていこうと思う。

映画のトレーラー


※内容について多く触れるのでネタバレの可能性あり。楽しみに取っておきたい諸君は映画の後に読んでね。

 

ここで簡単にOasisのおさらい

 

 ではまず映画の内容に入る前にオアシスというバンドについて軽くおさらいしておこう。

 オアシスは1991年結成、イギリスのマンチェスター、労働者階級出身のロックバンド。

 日本人にとって”労働者階級”と言われると中々ピンとこないかもしれないが、工場で働いているちょっとガラの悪そうな人たちみたいなのがステレオタイプ。この辺りの空気感は映画を見ていただけるとバッチリわかる。オアシスはお国柄か、階級に絡めて語られることが多いバンドでもあるのでその辺りを感覚的に掴める、という点でもこの映画はうってつけだ。

 ちなみに眉毛がつながっているのは労働者階級は関係ない、どちらかというとギャラガー家の遺伝子の問題。

 

 音楽性・ジャンルは90年代に世界的に盛り上がったブリットポップというジャンルの代表格。というかオアシスが流行ってブリットポップが有名になったという方が正しいかも。

 一つのブリットポップの代表各バンド、ブラーは中流階級出身で、労働者階級出身のオアシスとよく比べられるので覚えておこう。

 大事なメンバー編成だが、真ん中で歌ってる方が弟のリアムでギター弾いてるのが兄のノエル。他のメンバーは兄弟がヤンチャし過ぎるせいかコロコロ変わっていたので、結構オアシス好きってタイミングになるまでは覚えなくて大丈夫だ。

 2009年にノエルの方が脱退して事実上の解散となった。

 

映画のあらすじと構成

 映画で描かれるのは結成当初の1991年から1996年のオアシス史上最大の25万人を動員したネブワースライブまでの経緯。ノエルとリアムのナレーションを中心に展開される。

 ギャラガー兄弟の幼い頃写真やビデオ、VHS特有のザラついた、時代を感じるバンドの秘蔵映像が盛りだくさん。ドキュメンタリーと聞くと退屈で眠くなる映画が多いが、この映画は写真のカット、雑誌の切り抜きや手書きのイラストなどのコラージュが多用されており、観ていて飽きないようにできている。

 オアシスを既に知っている人にとってはマニアックな秘蔵映像やらと、ファンには堪らない内容になっているし、知らない人でも順を追ってオアシスというのがどういうバンドか知れるという良映画に仕上がっている。

 

見所1. ギャラガー兄弟が起こしたスキャンダルの分かり易い説明

 数え切れないDQNスキャンダルを残したギャラガー兄弟だが、その詳細が貴重な映像と本人らのナレーションにより、面白おかしく解説されている。

 ツアー中に酔っ払ってドラッグをキメまくり、殴り合いの喧嘩をする事は日常茶飯事。ホテルの備品を片っ端からぶっ壊す事が多々あり、ホテルから宿泊拒否される始末。

 また、ツアー先のオランダへの移動中、船の中で大乱闘の末にメンバーが強制送還されたエピソードの詳細も描かれていた。

 個人的に面白かったシーンが、厳しい事で有名なアメリカの入国審査で「何しにアメリカに?」の質問に、リアムが「俺はロックスターだ」と、デカイ態度で答えて別室(更に厳しい尋問を受ける部屋)送り。

 入国審査官にも怯えないリアム。完全なる中二病だが、ここまで逸脱していると正直カッコ良く見えてきて、徐々に引き込まれて行く。

 

見所 2. 何故かモテるクズ男代表、リアム・ギャラガー

 諸君の周りにもいないだろうか。頭も酒癖も口も悪くて、すぐ人を殴る。自分に根拠のない自信があり、アホみたいにプライドが高いので話していて面倒くさい。周りから相当嫌われているのに、何故かモテる奴。

 そのモテ方ってのが、新興宗教レベルに狂信的な固定ファンがいるので、嫉妬も混じって「俺の方がマトモなのに、なんであいつが?」と思った事はないだろうか。この何故かモテるクズ男達に共通する、「根拠のない自信」の持ち主が、紛れもなくリアム・ギャラガーである。売れたから自信満々というか元から「俺はロックスターだ」という感じだった、その自信がヒットの要因の一つだろう。

 印象に残ったシーンで、1996年のBrit Awardsというイギリスのレコード大賞で3部門を受賞したオアシスだが、受賞の際にトロフィーをお尻に刺す (とてつもない侮辱表現) 真似をしてふざけるリアム。いいオッサンの精神年齢は10歳くらいか。

 この表彰式での舐め腐った態度に、偉い人から「お前らのキャリアは終わったと思え」と言われたらしいが、それに対し「キャリアを終わらせるか否かは俺たちが決める」とブレない回答。

 真剣に音楽に取り組んだ者が皆一度は思う「俺たちはロックスターだから、音楽で世界を変えてやる。富も名声もクソ喰らえだ」この思想は名声と共に商業化してしまい「昔は良かったのに」と言われて劣化してくバンドが多い中、オアシスは売れても偉い人に一切媚びない。一本筋が通っている。

 あれ、ちょっとカッコよくない?

 

見所3. 実は日本好きOasis

 外国人に「ニホン、ダイスキデス。」と言われたら嬉しくなるのが日本人の性。

 オアシスが94年に初来日したシーンがあったので、どんな悪口を言われるかと構えていたら、「日本最高じゃねえか!大好き!」との大変嬉しい反応。

 これだけでオアシス株が上がった者は少なくないであろう。

 メンバー曰く「言葉が全く通じない国で俺たちの音楽で熱くなってくれるなんて、信じられない」との事。

 何を言ってるかわからないけどオアシスの音楽最高!と思わせるのは、本当の意味で音楽が評価されていると言う事だ。

 西洋の人間が日本でライブツアーが出来るというのは、世界を跨いだと実感出来る一つの要素かもしれない。

 ちなみに、移動中にも滞在先のホテルのロビーにもホテルの中にも日本人ファンが至る所にいて驚いたらしい。ホテルの中…。

 この発言からも、当時の彼らの人気っぷりが伝わるであろう。

 

見所4. 音楽好きなら鳥肌が立つ, 25万人動員の「ネブワース・ライブ」の裏側シーン

 ちょうど20年前の1996年、イギリスのネブワースで2日間で25万人を動員した、ファンの間で「伝説のライブ」と語り継がれているネブワース・パークでの単独ライブのオープニングシーンで映画が締めくくられている。

 しかし、伝説と言いたがる理由はかなり納得がいく。オアシスは、結成からたった5年でこの25万人単独ライブを実現し、イギリスの音楽界の歴史を変え、世界の頂点に上り詰めたのだ。

 これだけ聞くと、マグレなんじゃねえの?って思ってしまうが、激しい私生活の暴れっぷりとは対極に、彼らの音楽にはすべてを包み込むような優しさがある。疲れた心に消毒液の様に染みる歌声は、リアムにしか務まらない。

 ノエル・ギャラガーが、“This is history! Right here, right now. This is history.” 「これが歴史だ。今、ここで、この瞬間が。これが歴史だ。」とライブ・オープニングで言い放つ。

 ショーの当日、観客の波をヘリの上空から眺め、ステージに向かうシーンを追い、舞台裏を追いかけてのこのコメント、正直鳥肌が立った。

 自分も今から、この凄いライブに参加するんじゃないか?!ってリアル思わせてくれる。オッサン達が、このオープニング映像を観てバンド組みたい!と思った気持ちが痛い程理解出来る。

 本人達のコメントで、インターネットがまだない20年前に世界中の音楽ファンの心を掴み、また音楽ファン人口を増やしたのは「時代とタイミングが良かった」との事だが、これは完全に彼らの実力であろう。

 

いかがだっただろう。

 好き嫌いが激しく別れるオアシスだが、スキャンダルの先入観から食わず嫌いの音楽ファンも多いはず。

 もう20年も経っているのに、未だに熱狂的ファンが多いのは、彼らの音楽が永久に年を取らないからだろう。何年も聴いていなくても、時々ふと無性に聴きたくなる錆びない音楽と言っても過言ではない。

 彼らの音楽は、いつ聴いても耳触りが良い。朝のラッシュも、入眠前も、いつだって瞑想トランス状態にぶっ込んでくれる。アルバムを二枚続けて聴いても疲れない。心の長旅に最強のBGMとなってくれるし、イライラした時は穏やかな気持ちにさせてくれる。

 そんなオアシスの秘密が盛りだくさんのこの映画、「オアシスハラスメント」被害者の無知な諸君も、筋金入りのオアシスファンも、音楽が好きならば誰でも楽しめる内容だ。

 特に良く知らない諸君は、これを観るだけでオアシスが何者であるかが即座に把握できる。受験直前対策の参考書みたいだが、わかりやすくまとめてあって、一度観たら忘れない、その上楽しく観れる!と言えば魅力が伝わるだろうか。

 オアシスを抜きにしても映画としてのクオリティがとても高く、瞬きするのも惜しいスピード感ある仕上がり。一人で行っても、連れと行っても問題なし!だが、知人を誘う際は音楽好きの方がいいかもしれない。

 今年のクリスマス・イブ公開の「Supersonic」、音楽好きの諸君に冬休みの宿題だ。見逃すべからず!

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