GRAPEVINEが一番好き
以前、音楽業界の偉いっぽい人(名刺に乗ってる肩書が三行だったからたぶん偉い)に
「石くんには会ってみたい人っている?」
と尋ねられたことがある。その偉いっぽい人は、憧れの海外アーティストと仕事で会う機会を得た時「この仕事をやっていて本当に良かった」と、思ったそうだ。そういう話の流れで尋ねられた。
GRAPEVINEに会ってみたいです、と答えたら「え、彼らなんかすぐ会えるよ。そういうのじゃなくて」と言われた。
大したことじゃないし、絶対悪気なんかないんだろうけど、理屈じゃなくそれがとってもむかっ腹にきてその時しばらく子供みたく黙ってしまった。尺度がレア度なら、奈良の山奥で一生ツチノコ探してればいいじゃないか。
誰かに強く憧れる人って、僕には何だか小さい人に見える。結局そいつのファンでしかないというか。少なくともあのとき僕は「仕事への感動、その程度かよ」と思ったし、なんだか底値を見てしまったような気分だった。腹いせにそんな意地悪が頭に浮かんだ。
そんな僕も、泥酔すると「GRAPEVINEの田中はマジでかっこいい」「年々かっこよくなる」「ジャッキーチェンは実践でも絶対強い」といった旨のことしか言わなくなるらしい。バッチリ何かに憧れている。完全な小物である。
会いたいと言っても、サイン貰いたいわけでも何をしたいわけでもないんだけれど、なぜだか一目見てみたい。個人に対してあんまりそういう感情は湧かないんだけど、GRAPEVINEには、そう思う。
これは動物園にトラとかゾウとかを観に行くのに近い感覚なのかもしれない。別に見て何か実益があるわけでもないんだけれど、その姿態に「すげえ」「かっけえ」と見惚れ、何度も観に行ってはそのたび感銘を受けて帰る、あの感じ。好きなバンドのライブを観に行くのも同じ感覚だ。GRAPEVINEは僕にとってトラとかゾウとかピラミッドみたいものらしい。
一番好きなバンドは?と言われると困っちゃうけれど、聴いている総時間が一番長いバンドはたぶんGRAPEVINEだ。聴くものに困ると彼らの4thを聴くクセがついている。ジーンズの皺が同じところで折れ曲がるみたいに、風待ちのところに指が止まる。
こんなに美しいままのバンドなんか他に見つけられない。ジジイになっても聴くんだろうし家が全焼してもCDを買いなおすだろう。僕はなんかちょっと恥ずかしいぐらいにGRAPEVINEが好き。
書くことがない。逆に訊きたいんだけど、ピラミッドとか金閣寺とか見て「良さを説明しろ」とか言われても困るでしょ。は?デカいし光ってるしキレイじゃん。ぐらいのことしか言いようがない。
そのレベルの説明になってしまうけど、音が好き。ヤバい。語彙力を殺される良さ。音好き。顔好き。歌詞が天才。ライブすごい。ヤバい。
ヤバ。2002年っていう数字がもうかっこいい、俺12才。何が2016年だよ。キリ悪いし来年素数だしダサい。
もう8割あきらめてるんだけどせっかくだからGRAPEVINEの良さが一人にも伝わってほしいので、彼らの音楽性について説明したい。
まず曲の振れ幅がデカい。キャリアが長いからっていうのもあるんだけど、中期ぐらいまでは同じアルバムでも楽曲ごとに色が全然違うのだ。バンドポップから、上のR&Rニアラズみたいなブルースルーツのロックチューンまで幅広い。
フロントマンの田中とギターの西川が洋楽の70s80sロックが好きで、そういうところに引っ張られてライブ映えする派手なロック曲を持ってきたり、突然打ち込みとかをつかった無機質な音楽を持ってきたり、かと思ったシングルタイトルになるようなポップな曲は全部ドラムの亀井が作ってたり。病気でやめちゃったけれど、元ベースでリーダーの西原は作曲に掴みどころがない。4人とも曲がつくれるので1イメージにはめ込めないのだ。
指先(作詞:田中和将/作曲:亀井亨)
中京テレビ『いただきマッスル!』2007年度3月エンディングテーマ。
亀井がシングル曲を手がけたのは「その未来」以来である。
一切タイアップを気にしない感傷的な一発。あんまり語り草にならないシングルだけれど、この曲のサビの入り方本当に何。何だ?
良いメロディって何だろう、と考えた時に真っ先に思い当たるのがドラムス亀井の作る歌メロだ。たとえば
一番の代表曲なんだけれど、当時スマッシュヒットをカマしたのも納得のメロディ。半音で緩急つけて揺れる動きが特徴で、光についてとか棘に毒とかReverbとか、人気曲はこの亀井メロディが入っているヤツが多い。みんなこれにやられてる。
こういう純粋にポップで歌として惹かれてGRAPEVINEを聴き始めるとアルバムを買ってドツボにハマるというか。ほかの曲も歌部分はちゃんとポップでサビがあってわかりやすいんだけど色んな角度から音楽部分をぶつけてくる。バンドだということを思い知らされる。
美しい
好きだ好きだと言っているとどこまでも行ってしまうので本論に向かいたい。こんなに美しいままでいられるバンドってもう他にいないと思うのだ。
最近の曲だ。といっても二個前のアルバムだけど。
バンドって、同じことやってても「つまんない」って言われるし、かといって変化を起こすと「そんなの求めてない」とか言われちゃう。売れることより持続のほうがずっと難しいのだ。
GRAPEVINEの場合は、着実に変化している。急激に、ではなく。ゆっくりゆっくり変化している。今の音楽まで地続きでここにいる。
ちょっと話が逸れるけど、最近個人的にビックリしたことがあった。流行りの邦楽ロックバンドをやっている人と話す機会があり、会話に困ってなんとなしに普段聴く音楽や好きな音楽を訊いたのだ。そしたら最近売れてる同世代のバンドや、当時売れ線だった一世代前のバンドをたくさんあげてくれた。
僕はずっと勘違いをしていた。そういうバンドやっている人って本当はすっごい好きな音楽が他にあって、自分の趣味じゃないけど自分の趣味を押し殺して売れる為にそういう曲を作ってんだろうな。と思っていた。
バカにしてやろう!とかそういうイジワルな気持ちじゃなくて、本当に心の底からそう勘違いしていたのだ僕は。KANA-BOONとか毎日自問自答してんだろうなあ。大変だなあ。でもちゃんと売れる曲作れるからすげえよなあ。って思っていた。違うらしい、マジで邦楽だけ聴いて邦楽の先輩をまっすぐ追いかけてアウトプットしてるらしい。そりゃ、若手のバンドみんな似るよね。本当にびっくりした。
その中にもきっと良し悪しとか、工夫とか進歩とかあるんだろうとも思うし、そういうバンドを聴いて「かっこいい!」とお客さんたちが思った瞬間が偽物だとかチープだとか、そういうことでは絶対ない。努力も悩みも矜持もあるだろう。けど、枠組みの中に突っ込んでいくと行った先で行き詰ることは予想される。
「そうしなきゃ売れないから。客がそういうの求めてるから」
そう言って、ほかのバンドがやってるみたいにアイドルみたいなことして、芸能人みたいにツイッターに気を使って、恋人や妻の話もできず、流行りを察知して、ほかのバンドから大きく外れないように外れないようにする。自分から枠に入る。安心する。ちょっと売れる。似たような客を小さいところで争って取り合う。枠に入る。枠に入る。枠に入る。
何か一つの物や人や文化や形に憧れてそこに沿って何か顧客満足を満たすのは、違うのだ。ピラミッドとかトラみたいな美しさじゃないのだ。僕の中ではだけれど。
そういう競い合いにも特有の美しさがあるんだろうけど、それはゲームとかスポーツみたいで。なんか、僕は好きじゃないのだ。フィギュアスケートとか、そういうの嫌い。
なんか、カッコイイものを見てしまうと、自分の中で全然かっこよくないものが取り沙汰されもてはやされてる状況に、孤立とか恐怖を感じるのだ。すぐ何かの批判に話が向くのは、もうホントに悪いクセなんだけど、きっと「それは違うだろ」みたいなのが無意識のうちに僕の腹の底に沈殿しているんだろう。
GRAPEVINEの向きというか、姿勢というか、考え方というか、ちゃんとポップな歌を作るけどあくまでアート、創作で探求。
それ(世の中的には、わかりやすい答えがあって、それに当てていく方がスピードが早いし、楽)をやってもおもしろくない、というだけなんですよね。飽きるじゃないかっていうだけの話なんです。
CINRA、GRAPEVINEインタビューから。
初めてバンドのインタビューを最後まで読んだ気がする。億が一本人が目にしたら「お前の浅いそれとは違うよ」と思われるだろうが、ずっと音楽とか人とかに思ってたことを当然のように言葉で吐いてて、本当にGRAPEVINEは僕のヒーローだと少年のように胸打たれてしまった。
インタビューで言ってたから、というよりは、楽曲が毎作そういう探求の方向に向かっているという行動の伴い、実証があるその部分に打たれた。たとえば歌詞。
「バカな娘だった なかなかだった 朝方だった」
とか、こういう風に主語とか主旨を露骨させない歌詞性で行間を読ませたり、全体に散ちばめたワードとか言葉遊びと曲調で意味を匂わせたり、語感を重視して別の音に聴こえさせたり、歌詞一つとってもどのバンドにも負けない美しさがある。それが今作では
危機があるから俺は産まれるぜ
まことしやかな説
Kinky girl さあ恋は生まれるか
吊り橋にでも出掛けよう
奈良県
奈良県。歌詞読んでから曲を聴く派の僕は大変困惑した。吊り橋、奈良県。イービルアイ。
なぅ、らっけーん *0:28
マジでかっこいい。マジでかっこいい。マジでかっこいい。
日本詞を洋楽のメロディで歌う実験みたいなのはずっとあったけど、奈良県よ。
ここ数年の楽曲は特にポップソングで終わらない、邦楽離れしていて奇をてらわずに狂ったポップ。まともに狂っている。ほかのバンドの楽曲当てはめられないのに聴き馴染みが良い。ヒートのシンセの音もバンドに完全に溶け込んでいる。西川のアニキなんか日本で一番ギターが(主にピッキングが)上手いのに、技術を完全に道具としてみなしたギターを弾く。亀井は引き出しが無限。金戸はもう50なのに一番安定しているし、田中は老ければ老けるほどドエロい。
何かになろうとか、客にどう思われようとか、ルールがどうとか、そういうことじゃなく「良い」を突き詰めてるだけ。たぶん、どのバンドもそれがかっこいいのはわかってるんだけれど、それって本当に困難なことなんだろう。でもそれを体現できているのがGRAPEVINE。本当に美しい。
エジプトにも奈良にも京都に行かなくても、イヤホン耳につけたらどこでも美しさに頭殴ってもらえる。
本当に良いバンドです。一番好き。