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前前前世は全然RADWIMPSっぽくない

 先日、実家の母から電話がかかってきた。

「あんた音楽の記事書いとるんでしょ、RADWIMPSってバンドが話題みたいだに」

母親という生き物はたまにこういうことを言い出す。

「RADWIMPSが売れた」

 そんな話題が世間様では飛び交っていたが、その騒ぎの中で僕はなんだかおかしな気持ちだった。「え、RADWIMPSなんか既にトップクラスで売れてんじゃん」と。因数分解できる人間よりRADWIMPS知ってる人間の方が多いだろと。もう知名度の天井に達していたんじゃないんかと。

 しかしどうやらそれは認識のズレだったらしく、意外と世間にはRADWIMPSはまだ普及しきっていなかったらしい。例えば僕の母。母は今回の"前前前世"でRADWIMPSの存在をちゃんと認識したそうな。そんなうちの母はたぶん因数分解もろくにできません。親孝行したいと思います。

 そのくらい、前前前世は2016年を代表するヒットチューンとなったわけだけれど、この曲ってなんだか全然RADWIMPSっぽくなくないですか。オイオイ、そんなんだったっけ洋次郎くんよ、と。

 この話、もしかしたら誰一人からも一切の共感を得らないかもしれないが、もしかしたら一部の熱烈なファンの人には納得を得られる内容かもしれないと、僕の思っている違和感を抱いてるやつがいるんじゃないかと、今回この疑問を投げかけてみようと思った。

 RADWIMPSってどうだったっけ。前前前世を通してもう一度これを考え直したい。

RADWIMPSらしさってなんだろう

 星の数ほどバンドはあるけれど、その各々に違ったファンがいるのは、各バンドに特色があるからだ。みーんな全く同じことをしているのなら新しく別のバンドを探して聴く必要も楽しみもない。

 じゃあRADWIMPSの特色とはなんだ。何に僕は惹かれているんだ。そう考えた時に一番最初に思い浮かぶのが

 

 この発明感。

 今でこそこういう曲調の楽曲、16分の複雑なリズムのドラムとクリーンギターの絡み合いで展開していく曲って今でこそ珍しくもなくなったけれど、この当時はメジャーシーンでこんなことしてる奴らなんて他にいなかったのだ。

 それに加えて歌ともラップとも独り言ともつかぬボーカルパートや、フワついていて冷静かつ確実に狂っている空気観、田舎のババアが犬の散歩で被ってるのしか見たことないデザインの帽子、何もかもが新しかった。全部洋次郎の発明。当時彼らを聴いていたファンたちには「こいつらは何か他と違う!」という感触があった。

 

 何がすごいって、発明が一回で終わらないところ。

 国内だけでも日々何百曲と新曲がリリースされてはいるものの、音楽に進歩なんか滅多に起こらないのだ。基本的には過去にあった名曲の新しい解釈や、今流行している音楽に別の要素をくっつけているだけで、革新的な変化なんてのは滅多にお目にかかれない。

 かたやRADWIMPS、毎リリース毎リリース「それどこから思いついたんだよお前」みたいな新アイデアをぶつけてくる。この人たぶんバンドじゃなくても企業でも何でも成功してたんだろうな、という圧倒的な冴えがある。

 アルバム内の曲も、海外のメロコアみたくただ愚直な楽曲から、徹頭徹尾ふざけ倒した意味不明な楽曲までバラエティに富む。なのにそのそれぞれに新要素がついて回り、ちゃんとRADWIMPSっぽい楽曲としてまとまってしまう。そういうところに彼ららしさを僕は感じていた。

 

普通

 そう考えた時に前前前世、普通すぎる。

 たしかにカッコイイし邦楽ロックの、歌謡曲の、お手本のような出来栄えの楽曲だ。でも、それだけ。上記のような真新しさや革新みたいなものは、この楽曲には一切見られない。

 ラッドの新曲を聴いたときの「オイなにそれ、なにやってんのそれ!」みたいな、同じ部分を何度も巻き戻して聴きなおしちゃうあの感じ。あの衝撃がないのだ。さみしい。

 コード進行もメロディも、特に変哲はない。音程の起伏も大きいわけじゃないし、リズムも表拍中心。展開はBメロで落としてサビでブレイクする一番普通のパターン。良く言えばわかりやすくて覚えやすい、悪く言えばパンチがない。何度聴きなおしても「普通に良い曲だね」という、バンドマンが一番言われたくない感想に着地してしまうのだ。

 

"前前前世"という言葉

 じゃあ駄作か。前前前世はRADWIMPSの元からの知名度と、君の名は。の興行的な大成功から抱き合わせでヒットしただけの凡作か。そう言われると、またそれも違う。彼ららしくない楽曲だ、普通だ、と散々のたまいはしたが、この楽曲、一点だけ異常にピーキーな部分がある。そう、タイトルだ。

 "前前前世"というこの字並び。ここに野田イズムを感じる。上ではRADWIMPSの音楽的な部分だけを切り取って話を進めたが、ラッドの武器はそれ以上にストーカーや変質者めいたギリッギリの歌詞性。すぐ精子の話するもんな野田。

 地球から木星にワープしようとしたり、彼女のあそこを国旗にしようとしたり、彼女側の気持ちの確認を待たずに愛が爆走することでお馴染みの彼だけれど、今作では今世に留まらず前前前世から無許可でストーキング。時空警察に通報だ。

 前世から好き、ってだけでもうある程度気持ち悪いのに、そこから二歩踏み込んで"前前前世"。このインパクト。完全に野田洋次郎にしか書けない概念だ。

 ゲスの極み乙女。の出世作「私以外私じゃないの」の例もそうだけれど、この一見意味不明なタイトリング。見たものに非常に強烈なインパクトを残しつつ、話題性も確保できる非常に有効な手段だ。実際僕もこの「前前前世」という字ヅラに目を留め、友人に「ラッドの新曲、前前前世ってヤッベえだろ。あいつもう今世31年目だぞ」と話した憶えもある。まんまとしてやられている。

 いや、ちょっと試してみてほしいんだけど、前前前世のサビの「君の前前前世から僕は」のメロディに適当に自作の歌詞を当てはめて歌ってほしい。「親が老後に再婚しました」とか「家が突然燃え始めた須田」とか、なんでもいいからやってみて。途端にクソみたいにつまんない楽曲に成り下がる。「君の前前前世から僕は」これが120点ハナマルの回答だ。

 この楽曲の音楽的に"普通"という側面は、この歌詞性のドギツさを込みで計算された塩梅なんじゃないかと。映画のタイアップのこともあり、スタンダードで万人受けする楽曲で対応しつつ、タイトルや歌詞で話題性や彼ららしさをちゃんと確保する。そういう狙いが上手く噛み合ってこの大ヒットにつながったんじゃないか。

 ただ、今回の前前前世の成功で、RADWIMPSのイメージが固まってしまうのはちょっと寂しいな。とも思うのだ。ホントは精子だのコンドームだのG行為だのドギツい歌詞と、誰も真似できないアクロバットな楽曲で、この生き馬の目を抜く音楽業界を勝ち続けてきた他に代わりの効かないバンドだということが、一人でも多くにバレてほしいな、とファンとしては思うのだ。

 今作のこのクリーンで大人しい外向きのRADWIMPSは、やっぱり全然らしくない。世を忍ぶ仮の姿って感じ。地上波向けのRADWIMPSだ。既存のファンだけじゃなく新規リスナーへもしっかり配慮がなされている状態。この洋次郎はゴムつけてる。

 俺の知っている洋次郎はそんな男じゃない。危険日だろうが何だろうが、0.02ミリも離れたりしない。生身でドカンとぶつかってくる。そういう男だっただろうと。俺はそう思うんですよ。どうすか。そんな剥き身の洋二郎が俺は好きなんすよ。

 来月末に新譜が出る。その時こそは100%の洋次郎が楽しめるはず。こんなもんじゃない。

 俺たちのいやらしい穴(耳の穴です)に生洋二郎をぶち込んでくれ、RADWIMPS。

 

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