ライブ・シミュレータ・アプリが作り出す未来 〜誰が音楽を殺すのか?〜
地下室タイムズをご覧の方々は、普段どんな風に音楽を視聴しているだろうか?
ざっと考えてみても、様々な方法があるだろう(家でオーディオ組んでじっくり聞くとか、
出先でヘッドホン爆音で聞くとか)。
今回は昨今、音楽リスナーの人たちはもうとっくに活用しているかもしれない(地下室タイムズを
愉しんでいる方にもそういう人はいるのかもしれない)、ライブ・シミュレータ・アプリという音楽
アプリについての記事である。
ライブ・シミュレータ・アプリ
まずライブ・シミュレータ・アプリ(正確にはライブコンサート・シミュレータアプリというらしい)
という言葉に聞き覚えがある方はどれくらいいるのだろうか?、
筆者自身もそういったものが存在しているというのを知ったのは、ほぼ最近のことである。
現在代表的なのはBitcountが出している「StagePass」(100円)、
Rockstar App Solutionsが出している「Live Tunes®- ライブコンサート・シミュレータ」(100円)
の2個である。
では、実際にここでライブ・シミュレータ・アプリがどういうものか理解していただく為、
LiveTunes®(以降統一)、の説明を紹介してみようと思う、
https://itunes.apple.com/jp/app/livetunes-raibukonsato-shimyureta/id644106186?mt=8
ーこれがLiveTunes だ!
LiveTunes は、アイゾトープが画期的なテクノロジーで開発したリバーブレーターを用いることによ
り、本物のライブの音響効果をシミュレートすることに成功。大きなスタジアムやアリーナから、劇場、
コンサートホール、又はライブハウスやクラブ、バーまでありとあらゆるサイズの会場で行われるライ
ブのサウンド再生を可能にした。この LiveTunes のテクノロジーにより、
どんな曲も質の高いボリュームあるライブサウンドに転換出来るようになった。
まるで実際のコンサートにいるような感覚だ!ー
いるような感覚だ!!、らしい。
まあなんとなくは分かったけど、、、という方のために、実際にこのアプリを使用してみての感想の
動画がyoutubeに上がっていたので、それを見て頂いた方が話は早いかもしれない
(だったら最初からそうしろよと声が聞こえてきそうだが、気にしない)。
【iphoneアプリ】LiveTunes® - コンサートシュミレーター
いかがだったろうか?言葉で説明されるよりもこうやって動画で見せられるとわかりやすいから、
最近の時代は便利なのである。
動画を見たことによって興味を持たれた方もいるかもしれないが、ここで一つだけネックがあり、
-LiveTunes®はiOS 7.0 以降。iPhone、iPad および iPod touch 対応。 iPhone 5 に最適化されて
います-、という点である。
つまり筆者のようにiphone6だ、6Plusだと言われている時代に未だに第4世代ipod touch
(発売されてもう4年、中学校なら卒業してるな、、、)を大事に使っている人間は門前払い、
ということである。
じゃ、何だ、LiveTunes®使えないのかと悲観的になる必要はない、 「StagePass」が残っている
からである。(そもそもそんな危惧はいるのか?、、、)
StagePass
https://itunes.apple.com/jp/app/stagepass/id476661454?mt=8
ーStagePassは、音楽を驚きの経験にする新しい方法です。世界有数の会場で、オーディエンスの一人となって、
貴方だけの音を聴いてみましょう。
これは、会場の豊かな音の空間の微妙なニュアンスを再現するアプリです。約2年間の開発期間中、各会場に足を運び、生の音を聞く事で、僕達は遂にこのStagePassを作り上げ、
特製のバイノーラル・マイクを使用することで、会場の生の音を、今までにない形、音質、イメージで、
クリアに再現可能にしました。
さあ、ヘッドフォンを着けて、会場の広さ、形、そして目の前にあるステージを感じて下さいー
筆者が実際に使っているのも、(散々LiveTunes®を宣伝したくせに)こちらである。
最初はもちろんそんなに期待していたわけではない、だが聞いてみてびっくりである。
LiveTunes®ほど本格的な演出(歓声等)があるわけではないが、
とにかく’’なんかそれっぽく聞こえる’’のである。(もちろん筆者はライブハウスもフェスも経験済みである)
ライブをどう楽しむかは、もちろん人それぞれである。
ライブハウス、クラブで汗だくになりながら踊る、あの汗臭さと熱気はアプリなんかじゃ味わえないぜ、、、
もちろんそうなのであるが、実際に音だけでいえば、人間の感覚というのは(かなりいい加減というと
失礼かもしれないが)、かなり雰囲気に影響されている事は確かだと実際にこのアプリを使ってみた筆者の感想
である。
一般的に市販されているCD音源というのは、まずボーカルが映えるように構成されている。
音楽ソフトを使ったことがある人なら感覚的にわかるかもしれないが、
最前面に押し出されているのはとにかくボーカルである、
そしてギター、ドラム、ベースかな(ベース、ドラムの位置具合はそれぞれだと思うが、、、)。
曲の歌詞を、ボーカルの声で聞き、その曲を理解する。昔から歌謡曲というものはその原則で
作られてきており、その為、とにかくボーカルの音が一番聞きやすく、わかりやすいようになっている。
ライブ・シミュレータ・アプリは違う。ベース、ドラムの音がとにかくデカい。そしてボーカルがとても遠くに
いるような、そんな錯覚に陥るような仕様になっている。
これはよくライブ(特にフェス)に行っているような人間ならば、わかるかとは思うが、
実際の会場の音にとても似ている。(ライブ感があるとかないとかいわれるが)、
ボーカルの声より演奏の方が大きいなんて、ライブでは当たり前じゃん、と思われてしまうかもしれないが、
実際再現されると、ライブ感ってこういう事だったんだとよく分かる。
フェス中心、ライブ中心という音楽業界
このライブ・シミュレータ・アプリを使い続けて、筆者はある考えを抱くようになった。
「これって、ライブの音そのものを手に入れてしまったみたいなものなんじゃないだろうか?」
という考えである。
昔から、音楽(産業として)の楽しみ方として、ミュージシャン側は’’作品’’としてレコードなりCD
というものを販売し、観客側はそれをどう再現するのか、どう聞かせてくれるのか?という思いを
持って、ライブにいくという流れのようなものがあったかとは思う。
昨今の音楽業界はとにかく、フェス、ライブ中心で動いている。CD販売というものは、
あくまで宣伝の一つで、とにかくライブ、フェスにリスナーを誘導し、チケット、グッズ等で利益を上げる。
こういった流れの中で、ライブ・シミュレータ・アプリは脅威的な存在ともいえる。
そんな大袈裟な、実際のライブとたかだか100円のアプリが比較になるはずがない、という声も
あるかとは思うが、本当にそうだろうか?
考えてみてもほしい
市販されている音源さえ手に入れてしまえば、自分でライブ音源に出来てしまうのである。
しかも、聞こえてくる声や演奏は、まぎれもなく本人たちのものだ。
実際に演奏しているミュージシャン側からしてみても、市販音源というものは、自分たちにとって
ベストテイクが収められているものである、その音源をライブ仕様でたっぷり聞いて、ライブに来た
ファンに市販の音源と同じアレンジで聞かせても、耳が肥えている分、迫力に欠けるなんていう
状況に陥らないともいえない、過去のベストの自分たちが最大の敵だなんて皮肉な事である。
もちろんライブ・シミュレータ・アプリが完全に悪いもののわけではない、
(そもそもこのアプリ自体が現段階で、完璧なものではない)
筆者はこのアプリでもうとっくの昔に解散してしまったバンドを聞いたりしているが、
もう聞くことができなかったであろうライブ音声(あくまで擬似)を聞けるなんて、
こんなに嬉しいことは無い。(なんか、ア○ロっぽいな。)
転換期
もちろんミュージシャン側も、今、現在の音楽業界の流れに対して何も考えていない
わけではない。
多くのミュージシャンがこの先、どう変わっていくのか、冷静に考え活動している。
(画像はインタビュー時のものではない)
11月10日のYahooニュースに、
(サカナクションとゲスの極み乙女。にみる「フェス中心」という価値観からの転換 音楽ライター・金子厚武)
サカナクションのVo.山口一郎のインタビューが載っていた為、ここに記す。
「フェスで盛り上がるものが正義だっていう時代なんだなって。そこに絶望して。自分が作りたいものってそこじゃなかったし、だけどそこを人に求められていて、自分達が認められてるのもそこだっていう……そういうことに対する絶望があった」(『MUSICA』2014年11月号より)
フェス、ライブ中心の現在では、とにかく「盛り上がり」というものを求められる。
「4つ打ちブーム」だなんて言葉で、よく言い表せられるが、そういった求められているものに自分
たちを当てはめるというものが、ミュージシャン側も窮屈になってきているのかもしれない。
それに加えこのライブ・シミュレータ・アプリというものの出現である、実際の会場で聞こえてくる
ような音に慣れたリスナーにミュージシャン側が想像力を超えていくようなものがどれだけ見せられる
のか、聞かせられるのか?
今の音楽業界の流れが、このまま続いていけば間違いなくミュージシャン側が疲弊しきってしまう
だろう、(多い人間だと、年間50、60本ライブをやりながら、次のアルバムを作らなければいけない
のである)。
サカナクションの例を挙げたが、多くの人間が今の状況について、限界に感じている中、どう次
の段階に進むか、それをを求められていそうだ。
まとめ
今回は 「ライブ・シミュレータ・アプリが作り出す未来〜誰が音楽を殺すのか?〜」、という事で、
最近、新しく出てきたライブ・シミュレータ・アプリの視点から今の音楽業界を見直してみたが、
間違えないでほしいのは、ライブ・シミュレータ・アプリの出現をダメだ、と言っているわけではなく、
結果、それがどう今の音楽業界に関係してくるだろう、ということである。
副題に挙げた「〜誰が音楽を殺すのか?〜」という言葉は、ジャーナリストとして活躍されている
津田大介氏の2004年に刊行された書籍『だれが「音楽」を殺すのか?』からの引用である、この本
はレコード輸入権,コピー・コントロールCD,違法コピーとファイル交換,音楽配信サービスと
音楽業界で問題となっている数多くの論点を取り上げた(筆者の拙筆とは違い)名著な為、
ご興味があられる方は読んで頂ければと思う。(ちなみに週刊ダイヤモンドで、誰が音楽を殺したか?
という類似のモノもあるが、そちらとは別である。)