ヒグチアイは真面目すぎてバカを見てる
そりゃ聴く側にとっては芸術だったり娯楽だったりするかもしれないが、売る側からしたら音楽とはどこまでも商売だ。
話はちょっと飛ぶが、最近バーチャルYouTuberとか流行っているが、かわいい女の子のデジタルモデリングに若い女性の声が乗ってるもんだからとてもフローラルでうららかな心持ちで俺たちは動画を眺めるけれども、ああいうものこそ大勢のおっさんたちの手によって作られている。清潔な偶像の背後には必ず(金とかに)汚いおっさんたちが腕組みして立っている。場末のサウナのような悪しき熱気が、コンテンツの動力源なのだ。
バンドもそうだ。メジャーであればあるほど多くの裏方の手が加わっている。
服装一つ、歌詞一つ、ツイートの傾向なんかに至るまで大真面目に会議をし、客であるみなさんを喜ばせる為全て計算づくで手を尽くした企業努力の結晶が、みなさんが普段YouTube越しに、ステージ越し見ている華々しい姿なのだ。なんて、メジャーレーベルのでかいビルのフロアにパンパンにデスクが詰められているのを見るたびに思う。
のだけれど、中にはそういう商売臭さとは真逆を行くようなアーティストもたしかにいる。そんでもってそういうアーティストには良くも悪くもライト層みたいなのがつかないため、セールスが振るわない。もうちょっと売れてもいいのに、というかもっと売れる方法あるんじゃないの?と勝手にやきもきすることがある。でもそういう愚直なところが好き、というダブルスタンダードなんだけれど。
「ヒグチアイというシンガソングライター、良いよ」
と、このサイトで記事を書いている人に勧められて聴いた先日そんなことを思った。
元々名前ぐらいは知っていて、何曲か聴いた事はあった。
ココロジェリーフィッシュという曲がおススメということで、当時聴いたときは、ずいぶんまっすぐな歌を歌う女性だなという印象だったんだけれど、見せられた今年5月末の映像はより抜き身になっていた。
普通、メジャーデビューしたアーティストって逆になるんじゃないの?逆っていうのは、もっと客に寄り添った歌というか、言葉を選ぶのは面倒だからあけすけに言ってしまえば安直に売れそうな路線になるんじゃ?と。ほら、なんか、あいみょんとか、ああいう。ああいうさ。伝えようとしたけど嫌いだから悪口しか出てこない。ああいう。
音楽が売れるのに最も重要視されるのは共感というやつで、音楽市場のメインターゲット層の女子高生たちが「わかる」とすぐいうように。彼女たちにわからせる力。嘘でもいいから10代の女子たちのセンチメンタルを彩る材料になる歌。こんど会ったらセックスしようライクな価値観の提供。それが音楽業の核だと思うんだけれども、ヒグチアイの歌なんかは本当に誰に向けてるのかわからない。自分の事を、切々と述べるだけ。客に喜んでもらう為の言葉じゃなく、自分が言いたい言葉。そういう意味で糞真面目だなと思うのだ。
そういう点では昔の邦楽バンドに近いものを感じる。思い出すのはTHE BACK HORNとかSyrup16gで、メッセージ性が一方的だった。だからちょっと好きなんだろう。
さっきあいみょんが嫌いみたいな話をしたけれど、俺は嘘アレルギーで、嘘くさいことを言われると単純に嫌な気持ちになる。いつも。なんか作られた歌詞が嫌いなので「お前らこういうの好きだろ?」みたいな。馬鹿にされているような気持ちになる。
彼女の歌はその真逆で、嘘じゃなさ過ぎる故に多くの人から共感を得られないんだと思う。俺は好きなんだけれど。
でも一部の人間にだけ、伝われば、商売としては損を食っているかもしれないが、芸術としては正しいありかたでいられるんじゃないか。
一方通行のメッセージ性の塊。ヒグチアイはみなさんにとってどういう歌に聴こえるでしょうか。
それでは。