みんな昔は持っていた 音楽愛、手作りの輝き ラブリーサマーちゃん
最近流行りの宅録女子。その中でも近年、メキメキと頭角をあらわしているのが、「ラブリーサマーちゃん」という可愛らしい名義で活動する彼女だ。
その音楽性はというと、曲のジャンルは様々に、ウィスパーボイスの可愛らしい声で、良い歌詞の、良いメロディの曲を歌うという、そんなんもう良いに決まってるだろ!というものだ。
「それって逆に言うと、特徴がないってことにもなるんじゃないの?」
・・・そんなことを言い出す、無粋な輩も居ることだろう。
しかし私はあえて主張したい。それこそがラブリーサマーちゃんの、かけがえのない無敵の武器であると。
オリジナル曲
まず彼女の楽曲をいくつか紹介したい。
あなたは煙草 私はシャボン - ラブリーサマーちゃん
トラックメイカーデュオ・Fragment主催の音楽レーベル「術の穴」。
そのコンピレーションアルバムにも収録された、ラブリーサマーちゃん初期の代表曲だ。
まだ音楽活動を始めて間もない頃の楽曲で、全てのレベルが高い音源とは言い難いかもしれない。
しかしジャジーでメロウなサウンドに乗っかる等身大の歌詞が切なく、選び取られたフレーズの所々にキラリと光るセンスを感じる。
そして拙いながらも丁寧で、味のある音づくりやフレーズ。
歌も上手な方ではないかもしれないが、一生懸命に歌っているところがまた、楽曲の持つ切なさと相まり、グッとくる。
一から自分で全てこだわることで音源全体から滲み出る、むしろそれでしか滲み出得ない、手作り感と個性。
これぞ宅録の醍醐味といえるような楽曲である。
ルミネセンス demo - ラブリーサマーちゃん
ライブ会場で自作CDを販売していた、ラブリーサマーちゃんの代表曲のひとつだ。
キラキラしたシンセのサウンドを主軸に置いた、浮遊感のあるミディアムテンポの優しいポップバラード。
ギターサウンドがメインで、ジャジーな雰囲気だった「あなたは煙草 私はシャボン」とはまた毛色が違う。
サウンドの毛色は違うものの、宅録特有の手作り感とそのポップセンスから、統一感は感じられる。
ベッドルームの夢 - ラブリーサマーちゃん
ラブリーサマーちゃん、初の全国流通版『ベッドルームの夢e.p.』そのリード曲だ。
上で紹介した2曲とはまた毛色が違い、疾走感のあるロックサウンドである。
これは、インターネットと僕たちについてのMVです。そして、ラブリーサマーちゃん自身についての曲です。
――「ベッドルームの夢」MV Director スズキケンタ twitterより
ベッドルームで一人口ずさむメロディー あの子にも聞こえたらいいね
ずっと一人で宅録した楽曲を、インターネット上に投稿してきたラブリーサマーちゃん。
そんな彼女の楽曲が初めて「CD」という「形」で全国の店頭に届けられるということで、想いの込もった彼女の最新のキラーチューンである。
コラボ曲
次にコラボレーション楽曲を紹介したい。
日々のあわ - 宇宙ネコ子とラブリーサマーちゃん
ロックバンド・宇宙ネコ子の穏やかながらオルタナティブなサウンドに、ラブリーサマーちゃんの切ない歌声が乗せられた、ミディアムバラード。
Starlight - ラブリーサマーちゃんと芳川よしの
講談社が主催するアイドルコンテスト「ミスiD 2015」で岸田メル賞を受賞したアイドル・天川宇宙の「Hyperspace」などを手掛けた、"Ultrapop"というコンセプトを提唱する音楽家・芳川よしのとのコラボ曲。
芳川よしののワクワクさせてくれるような打ち込みサウンドに、ローファイなラブリーサマーちゃんの歌声が合わさり、絶妙な心地よさを醸し出している楽曲だ。
カバー曲
次に彼女が既存の楽曲をカバーしたものを紹介したい。
今夜はブギーバック(cover) - ラブリーサマーちゃん
これまで数々のアーティストにカバーされてきた、小沢健二 featuring スチャダラパーによる90年代J-popの名曲だ。
アコースティックギターとボーカルのみの、シンプルな構成になっている。
水星(cover) - ラブリーサマーちゃん
tofubeatsによる名曲、水星のカバー。
ピアノとボーカルのみの、こちらもシンプルな構成になっている。
この楽曲で面白いのは、tofubeatsの楽曲のカバーでありながら、このカバーの、様々なアーティストによるリミックスが存在していることだ。
上でも紹介した彼女の楽曲「ベッドルームの夢」でもそうなのだが、彼女はたびたび自分の楽曲のボーカルとコーラスのデータを自ら公開し、リミックス音源の公募をしている。
広く、沢山の人と共に音楽をシンプルに楽しもうという、彼女の素直な姿勢が見て取られる。
彼女の人となり
音楽性の論評自体からは少し外れてしまうが、彼女の魅力をさらに明らかにするためには、彼女の人となりについても少し触れなくてはならない。
先日(2015年8月31日)に開催された、彼女のワンマンライブイベントについてのレポートがあるので、こちらに目を通していただきたい。
まあ、これ私が自分で書いたものなんですけど。
しかしこれを読んでいただければ、ただライブをするだけでなく「自分を応援してくださるファンの方々を楽しませるためにはどうしたらいいか」という部分に、彼女がいかに力を注いでいるかがわかると思う。
そしてその姿勢が目に見えて感じられるからこそ、ファンもより、相手を応援したくなる。
「お金」や「関係性」を越えて、演者とファン、お互いの「気持ち」で成り立つべき音楽業界、ひいては「エンターテイメント」というものの、あるべき形の一つであると私は感じた。
さいごに
ここまで読んでいただけたならわかるだろうが、彼女には節操がない。もちろん良い意味で。
自分が良いと思うサウンドで楽曲制作に取り組み、そのジャンルも様々だ。
良いと思ったなら貪欲にコラボレーションにも参加するし、好きな楽曲があれば好きなようにカバーする。
あちらこちらに手を出し、それで軸がとっちらかっているかと言えば、またそうでもない。
素直な姿勢で音楽と向き合う彼女の楽曲にはどれも、その手作り感からどこか、根底に彼女らしさが流れているのを感じられる。
その純粋な音楽愛。
音楽が好き。音楽が楽しい。そしてそれを応援してくれるファンの方たちへの、感謝の気持ち。
「バンド始める前の方が、音楽好きだったな・・・」
「曲を作るようになってから、純粋な気持ちで音楽聴けないな・・・」
めっちゃよく聞く話だ。
そんなお前らスーパー自尊心に殺されバンドマン達は、ラブリーサマーちゃんの若さと輝きにもっと殺されろ。
そして気付いて欲しい。彼女が眩しいのは若さのせいだけではないと。
思い出して欲しい。楽器を弾くのが、歌を歌うことがただ楽しかったあの頃の気持ちを。
はあ若いっていいなあ