僕たちはサカナクションに騙されている
気づいたら「サカナクションはカッコいい」ということが、動かしようのない常識になっていた。
世の中っていうのはいつもそうだ。コリアンダーという野菜もいつの間にかパクチーと呼ばれるようになったし。あんなセロリよりも青臭いヤバい野菜が、今やオシャレな食い物みたいになっていて、拒否すると舌が時代遅れ扱いされる。あんなん、別名カメムシ草だぞ。それを世のOLや女子大生はうっす暗いカフェに集まっては「この臭みが良い!」とか言ってな。
サカナクションも2010年くらいからなんか最近よく名前を聴くなあ、という感じだったのが気づいたら大正義みたいになっている。ポップソングとして非常にキャッチーながらも、ちょっと知的な雰囲気がある。高校生が聴いててもオジサンが聴いてても格好がつく。なかなかいない、こんなバンド。
別にサカナクションに物申そうというワケではない、むしろ僕もサカナクション大好き。好きすぎてただひたすらべた褒めするだけの記事も書いたくらい。
今日も誰の目も気にすることなく堂々とサカナクションの新曲「多分、風。」を聴いていた。
そうしたら母ちゃんに「なんでそんなダサい曲聴いてんの?」と言われた。こういう世間の感覚とは隔絶された人たちの意見はいつも突拍子もない方向から飛んでくる。
やれやれ、これだから昭和生まれは困るぜ…と思いつつも話を聴いてみると、どうやら母はなんかしらの古い曲だと思ったらしい。
「ああ確かにこの曲は80年代のテクノポップを下地に引いててね…いわゆるリバイバルってやつの…」と、この曲の正統性を母に教育しようと試みたのだがダメだった。この人、自分の興味ない話は聴かないジャイアニズムに溢れるタイプの人間だった。なぜだろう、僕に似ている。
たとえそれが実の母親だろうが、誰に何といわれようがサカナクションはカッコいいもん!とは思う。だが、心の奥底で「アレ?冷静に聞いてみると、もしかして結構変じゃね?」という疑いが芽生えてしまった。
カッコいい成分と同じだけダサい成分が含有されている。
サカナクション / 多分、風。
改めて聴いてみたところ新たな発見があった。この曲、カッコいい成分と同じだけダサい成分が含有されている。
ちょうど鯉のうま煮みたいな曲だと思う。みなさんは鯉を食べたことがあるだろうか。
ウサギの糞みたいなエサをばら撒くと荒れ狂いながらバクバク食べるあの魚。たった100円で札束をばら撒く大富豪のような優越感を得られて非常にコスパが高くて好き。
そんな身近な魚ながら鯉が一般的な食材ではないのには理由がある。アイツら水底でエサをあさる習性があるせいで、めちゃめちゃ泥臭いのである。
料理として出される場合にはその泥臭さを中和するべく濃厚な味付けがされることが多い。先ほど例にだした鯉のうま煮は代表的な鯉料理の一つである。一度食ってみると話が早いが、元の魚がなんだろうが絶対にこの味になる、というほどの濃い目の味付けでクタクタになるまで煮込まれて供される。
つまり「多分、風。」はちょうど鯉のうま煮のように臭みを、つまりダサい成分をカッコいい成分で打ち消しながらできているのだと思うのだ。
この曲のダサい部分に関しては音楽について全く知識のない我が母にだってわかるだろう。例えばサビ前とかのあの「ドコドン!ドコドン!ドコドン!パァッ!」のアレとかな。
カッコいい成分によって見事に中和されていたあのダサさ。こうやって向き合ってみるとこのダサさには覚えがある。幼いころに頭の奥の方に深く刻まれた記憶がよみがえってきた。
これ、スタイリッシュコンピューターおばあちゃんだ。
ああなんということだろう。時代をリードするロックバンドの新曲を聴いていたつもりがいつの間にかコンピューターおばあちゃん2016を聞かされていたのだ。騙された!初めて聞いたときからなんか親しみがあるなあと思っていたが、こういうことだったのか。
恋は盲目、というのはまさにこのことだろう。冷静になってみるとこの曲ツッコみどころばっかりだ。PVにでてきたコレとかマジで意味がわからんしな。なんだコレ。南国の民芸品みてえだな。
サカナクションが人面ペッパー君にならないか不安
カッコオシャレ成分を隠れ蓑に、巧妙にコンピューターおばあちゃんを聴かせていたサカナクション。
我々の奥底に眠る懐かしさをよみがえらせヒットをかますことだったのか、はたまた日本国民は一体どこまでダサさに耐えられるのか試していたのか、その真意はわからぬ。
そして、「新宝島」で手に入れられた、自分の中の新しい“テーブル”の上で、最初にローンチされた作品が、この曲だと感じています。
サカナクション - 多分、風。特設ページインタビューより抜粋
まるで何を言っているかわからないと思うので要約すると「新宝島がイケたから、この方向でイケると思いました」ということのようだ。
古臭いテクノポップを今風にする面白さ、この路線で行ってみよう!という作品だとインタビューからは汲みとれた。
Kraftwerk - The Robots
このままの路線を突き進むと2年後ぐらいにはこんな感じになってそうで怖い。
サカナクションのライブが不気味に並んだ人面タイプのペッパー君になってしまわないか心配である。
現に既に兆候が出始めていている。ライブではメンバー全員横一列に並んでノートパソコンの前に立つというクラフトワークのオマージュをしているし、『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』PVでは人面人形になってしまっている。この二つが組み合わさったらもう完全に人面ペッパー君の世界への扉が開く。
冗談ばかり書いていたがロボットサカナクションはマジでありえそうで怖い。
サカナクション - 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
サカナクション大正義みたいな扱いだけど冷静に聞くと結構やばい。
思えば彼らがリバイバルしているのは80年代あたりのテクノポップ。あのダサい音楽が進化して今ではテクノポップと言えばパフュームやチャーチズみたいな音楽になっているのに、敢えて一番ヤバかった、グロかった時代のものをひっぱりだしてきて独自調理している状態。中田ヤスタカとインファイトで殴り合う覚悟。顔的には山口一郎のほうが強そうだと思います。
結果的には「逆に今っぽい」という評価になっているけど、ダサいかカッコいいかスレスレの音楽をだしてカッコよく聞かせる選球眼。そしてそれを世間に浸透させるのに成功したってサカナクションやっぱマジでスゲエ。バランス感覚がスゲエ。サカナ最高。もっとギリギリを走る曲を聴かせてほしい。
というわけで今回はこのあたりで!それでは!