ネット上の同人即売会 APOLLOに迫る
APOLLOは、M3 やコミケの音楽版を、ネット上で実現してしまおうというプロジェクトです。
ネット上で、リアルの同人音楽即売会のような臨場感を味わえる場を作り出すのは難しいかもしれません。 しかしながらWeb特性上、リアルの即売会に比べて、知らないアーティストの発掘(視聴)については圧倒的に容易です。
皆さんが新しいアーティスト・いままで触れなかったジャンルの音楽に容易に触れ、シーンが広がることを願って、APOLLOの開催を宣言します。(公式HPより)
2014年11月28日(金)の夜から11月30日(日)の3日間にわたり、史上初(!?)となる「インターネット上」での、同人音楽作品(CD、ダウンロード作品等)を頒布する即売会イベント『APOLLO(アポロ)』を開催する。
実に興味深い。
本当に”良いバンド”が正当に評価を受けるような時代の一端を担いたいと考え、運営している地下室TIMESとしては絶対紹介したいと思った次第だ。
嬉しいことに、APOLLO運営者とコンタクトが取れた。
インタビューという形をもって、同人音楽とは何か、そしてAPOLLO計画に迫っていきたい。
はと :地下室TIMESの『はと』と申します。よろしくお願いします。
Bitplane:よろしくお願いします。
はと :当方音楽紹介ブログですので、同人音楽とは何かということに触れつつ、APOLLOを紹介していただきたく思います。早速、
はと:同人音楽って何ぞや!?
Bitplane:す、すごく難しい。他の記事でお答えしたことと同じになってしまいますが、『同人音楽』と『ネット音楽』はまず違うということをご説明しなくてはならなくて・・・。
はと :といいますと?
Bitplane:『同人音楽』っていうのは、一般的に同人イベント・同人即売会とかで流れている音楽のことをいうんだと思います。即売会から出てきたものという認識ですね。
即売会から出てきたものと、『ネット音楽』って違うじゃないですか。『ネット音楽』の言われている中でも特に即売会とかでやり取りしている人達のコミュニティーの音楽だという考え方で、個人的に定義しています。
はと :ほほぉ~、基本的には二次創作が多いんでしょうか?
Bitplane:『ネット音楽』のが二次創作は多かったんですよ。『同人音楽』は初期の頃、劇伴作家さんですとか、ゲーム音楽の作家さんが、今より割合として多かったように感じます。
あとは例えば、プレイヤーズ王国(ヤマハが運営していた、自分の演奏やMIDIなどの音楽作品を公開できるサイト)から出てきた歌を歌っている女の子だったりとか、あれ、結構オリジナルの音楽が多くて。
それに対して『ネット音楽』の本当に初期の頃は、大別して2つの流れがありまして、一つはMIDIデータの配布。これはゲームのアレンジ中心ですね。特に、エロゲーのアレンジのMIDIが多かったんですよ。もう1つは、「ModPlug Tracker」(当時あったフリーのサンプラーソフト)などのコミュニティで、こちらは主にオリジナルのクラブミュージックが中心でした。
そういう二本柱がありつつ、ビートマニアのクローンゲーム『BMS』の流れもあってという形ですかね。BMSは二次創作とオリジナルとが半々という感じでしたが、勢いはオリジナルの方が圧倒的にありました。
その後、『BMS』にいた人が『東方』に移っていって、そちらが膨らんでからようやく、二次創作中心のシーンになった、というように認識しています。
はと :一般的認識だと『東方』=『同人』っていうイメージもあるぐらいだと思いますね。
Bitplane:『東方』があまりにも大きくなりすぎて、今では二次創作の中心的なシーンになりましたが、そもそも最初に『東方』ありきではなく、あくまで途中から出てきた印象ですね。同人音楽シーンは『東方』から発生したわけではないです。
同人ゲームの世界でも東方より前に『月姫』とか、いっぱいあったわけですし。
はと :あっ、好きです。
Bitplane:(笑) インディーゲームってよく言われますけど、日本には十数年前から同人ゲームっていう世界があって、商業ゲームに大きな影響を与えたんだよ。っていう話もしたいですが、話が逸れてきちゃいましたね。
まぁまぁ、そんな感じですよね。『同人音楽』には、元々オリジナルをやってた人たちのシーンが元からあって、それが『東方』に移ってから一気に二次創作中心の流れになりました。
『初音ミク』(ボカロ)になると難しいんですが、キャラクターを使っているという点に於いては二次創作なんですよね。ジャケットだったり、世界観側で。
はと :そういった意味だと変わってますよね。同人音楽って。
Bitplane:そうですね。まぁ、そんなのが同人音楽なのではないかと。
はと:お話聴いていると…同人音楽は音楽的、ジャンル的な縛りがない印象を受けますが、ないんでしょうか?
Bitplane:縛りはないどころじゃないですよね。もうほんとになんでもありですよね。『東方』のアレンジで、「浄水場で流れているBGM風のアレンジアレンジアルバム」なんていうものもありました。一瞬で売り切れてましたね。
はと :えええ~(笑)
Bitplane:普段その人たちはメタルばっかり作っているんですけど、そのときだけローランドの昔のMIDI音源持ち出したりして、すご~く浄水場でかかってそうな音楽なんです。
はと :イメージが沸かんとです。
Bitplane:聴けばわかります。むしろ聴かないとわからないです(笑)
結局同人音楽のいいところは、需要ベースで作っていないんです。むしろ供給ベースで作ってる。つまり、「まだ供給されてないから作る」という発想に基づいているんです。
はと :だいぶ同人音楽についてわかってきたので、『APOLLO』についてお聞きしてもよいでしょうか?
はと :このネット上の同人即売会『APOLLO』開催に至る経緯、コンセプトを教えてください。
Bitplane:経緯から言いますと、『同人音楽超まとめ』を去年の冬ぐらいから、「そろそろこれ作らなきゃまずいな。」となりまして、たまたま知人のプログラマーと作ったんですよ。
その知人のプログラマーさん経由で、『pixiv』で『booth』を作った方とつながりまして、そのpixivさんらと一緒に『KAI-YOU』さんでインタビュー取材を受けることになりました。
その場にpixivの片桐社長も参加しておりまして、
結局気が付けば『何でもいいから何か一緒にやろう、とにかくpixivのオフィスに来てくれ。』という話になりまして、早速チケット買って彼らのオフィスに飛んでいったんです。
はと :ほうほう。
Bitplane:そこで、『pixiv』としては、音楽のコミュニティを作りたいという話を切り出されたので、「『APOLLO』っていうのはどうですか?」ともちかけたんですね。で、その場でやろう、と即時決定です。
はと :思い立ったが吉日、素敵です。その場でコンセプトとかもお決めになったんですか?
Bitplane:もともとこういう場が必要だと思ってたんですよ。絶対なきゃいけないって。特に売り場の構造については10年近く前からずっとそう思ってたんです。
Amazonとか空白だらけで、意味わかんないって。だって、CDショップを考えればわかると思うんですが、売り物は隙間なく並べるじゃないですか。
売り場に隙間を作るってありえないことで、だったら面陳列しても隙間埋めろって話するじゃないですか。場所代の無駄だから。
売り場いったら、ぱっとみて100枚のCDが見れますよね。それってすごい大事で、Amazonとか行って目につくのは1枚しかないじゃないですか。
はと :確かに、下に下がっていってようやく、という感じですよね。
Bitplane:そうですそうです。そうやってようやく「このアルバムお好きですか?」とか3、4つ出てくるっていう。あれじゃあ、ジャケ買いもクソもないじゃないですか!!
はと :私事で申し訳ないですが、ジャケ買い大好き人間の私でも、Amazonでジャケ買いしたことはないですね。
Bitplane:だから、隙間なく埋めてくれたらいいのに…。という思いがありまして。例えば音楽の紹介も『HYPE MACHINE』とか、自動で何曲も何曲もかけてくれるサイトが最近ようやくでてきましたが、あれよりもっと高速にどんどん音楽が切り替わってチェックしていけるような・・・それこそランク王国形式のサイトが必要だと思っていました。
※Hype Machineとは、世界中の音楽ブログが紹介しているイケてる音楽たちをまとめてランキング形式で日々更新し、試聴出来る形で公開している音楽サービス。言及数や、再生回数、お気に入り登録の回数などに応じたランキングを公開している。
何分か聴いてる間に何十曲も聴いている状態になるような仕組みは、だいぶ昔から、それこそ80、90年代からテレビ業界にはあたり前に存在していたんです。それが、全くインターネットでは行われていないっていう。
なんだこの進化のなさは!!と。せめて正常なところまで戻さないと、という気持ちがあったんです。機能的にはそういうところが『APOLLO』にはありますね。
こういう仕組みって同人にこそ必要だから。
はと :そうですね。聴いてもらってこそですもんね。知らなければ好きになれないですから。
Bitplane:知らないものって検索しようがないじゃないですか。知らないものは買えないんですよ。
例えば、いま自分から見て地球の真裏にいるブラジルの人の名前を検索しろって言われても、知らないから名前を打てないんですよ。
知ったら打てますよ。そういう感じで、同人のいいアーティストを名前から検索しろって言われても検索できないんですよ。ブログから検索する形になると思うんですが、今はあまり情報としてまとまってないから無理なんです。
はと :(地下室TIMES…頑張らないと。)
Bitplane:ば~~~っと聴いてその場で買えるほうがいいなと思って、『同人音楽超まとめ』だと買えないので。『APOLLO』なら『booth』が持ってるその場で買える仕組みを使えるじゃないですか。
はと :なるほど。こういう仕組み、ん~なんというでしょうスッと落ちる言葉が見つかりませんが…
Bitplane:売り場ですよ。売り場。一言でいうと。あっという間に曲がたくさん聴ける。書店のような売り場をネットで作りたかったんです。
はと :売り場。しっくりきます。現在、その売り場にはどれぐらいアーティストが集まっているんでしょうか?
Bitplane:約450サークルです。(11/9現在) コミケで1000なので、歴史もない一発目のイベントなので、300集まれば大成功だと思っていました。結局、「同人音楽超まとめ」などもそうですが、これらのサービスを通じて、これまで救えなかった音楽が救えたらいいなと思ってやっています。
はと :そこが響いたんだと思います。『メディアに出てこない良いアーティスト』を紹介していきたいという想いに強く共感しました。
ホームページ上の”音楽の未来のために、これからの5年間で、アーティストが「自力でアルバムを販売して稼ぐ」という選択肢を、一つの現実的な選択肢として確立させることが不可欠です。”
という言葉にグッときました。
はと :『これからの5年間』という言葉がとても気になったんですが、どのような変化のビジョンを見られているのでしょうか?
Bitplane:実は、すでにニコニコ動画が出るか出ないかの7年前ぐらいから、自力で食える時代にはなっているとは思います。ただ、その時点では、東方などの二次創作をやっている人たち限定の話でして・・・それが今になってオリジナルも盛り上がってきているので、ようやくオリジナル・二次創作両方のアーティストが食える時代になってきたと思います。
もちろん、「同人」という枠組みで利益を出すことそのものの是非についても議論があるんですが、同人音楽シーン以外の状況が壊滅的な今、このシーンを放っておくわけにもいかないと思いまして・・・。
とにかく、継続的にアーティストワークで食っていけて、かつ続けていたら自然と受け仕事も入ってくるような界隈を、この5年間ぐらいでもっとステイブルにしていかなければいけないと思います。
はと :なるほど、この5年間っていうのはTwitterやニコニコ動画、Youtubeなど、ネットの移り変わりの5年間というということでしょうか?
Bitplane:そうですね。ネットのムーブメントってだいたい5年ぐらいで変わるじゃないですか。Windows95のホームページ文化があって、2000年ぐらいでブログ文化に、それから4~5年でmixiが出てきて、
そこからまた4~5年ぐらいでTwitter、Youtube。Twitterとニコ動って7年近くやってて、最近新しいムーブメント来てないなって印象があるんですよね。
スマホ側に来てるって言われたらそうなのかもしれませんが、それって囲い込まれてる感じがします。話が逸れましたが、そういう5年っていうことですね。
はと :それでこの5年のムーブメントを作ってやろう!ということでしょうか?
Bitplane:作ってやろう(笑) というより作るのは自分ではなく、その中の歯車のひとつになればいいですけどね。最初のボタンを押す人間に。中年で酒飲みながら、あのとき、あのボタンを押したからだ。みたいな。
はと :あ、かっこいい。これでかっこよく締まりそうです(笑) この対談がスイッチになることを祈って。ありがとうございます。
Bitplane:恥ずかしい(笑) こちらこそありがとうございます。
はと :忘れておりました。私も音楽をやっておりまして、『APOLLO』計画、参加させていただきたく思います。
Bitplane:おー!!是非。一緒にロケット飛ばしましょう。
会話からでも相当のキレ者だと伝わってくるだろう。
そんなキレ者が運営する史上初(!?)「インターネット上」での、同人音楽作品(CD、ダウンロード作品等)を頒布する即売会イベント『APOLLO』は2014年11月28日(金)の夜から11月30日(日)の3日間にわたり開催される。