歴史の中に埋もれたシューゲイザー”裏名盤” Chapterhouse - Blood Music
イギリスのシューゲイザーバンド、Chapterhouseが1993年にリリースした2ndアルバムBlood Music。
タイトルにはドカンと”裏名盤”と称したが、語感のまんま「商業的な成功はしなかったものの、一歩間違えたらエポックメイキングになりえたほど良いアルバム」という意味で使った。
そういったものの多くは聴く人を選ぶものだったり、一般のリスナーには理解しがたい”ミュージシャンズミュージシャン”的なものであったりといった理由のものが多いが、今回の場合は(アルバムの知名度にしてみれば)割と色んな方に勧めやすい方のアルバムであると思う。
ということでこのアルバムの位置づけ、音楽的な魅力、そして何故歴史の中に埋もれたのか、早速紹介していこうと思う。
シューゲイザーという大きな流れに翻弄されたアルバム
1990年前後にイギリスで流行したロックのサブジャンル、”シューゲイザー”。チャプターハウスは当時のシューゲイザームーブメントの中心的なバンドの一つだ。知名度・影響力的にMy bloody valentine、Ride、Slowdive辺りのバンドをシューゲイザー御三家とするならば、そのちょっと下あたり。シューゲイザー七英雄とかなら間違いなくランクインする具合。
コチラがアルバムの知名度がない理由その1だ。いくら重要なバンドの一つであったとはいえ、結局はシューゲイザーというニッチなジャンルの中の1バンド扱い。どんなに作品が良かろうとみんな知らないものは知らないのである。
さて、このアルバム、ブラッドミュージックがリリースされた背景というか、当時の状況について説明しよう。
シューゲイザーというジャンル、音楽的にも変だが文化的にも変なところがある。シューゲイザー好きにとってはお馴染みの話なのだが、シューゲイザームーブメントの終焉はあるバンドの一枚のアルバムによってもたらされた。有名なマイ・ブラッディ・ヴァレンタインが91年にリリースした2ndアルバム"ラヴレス”である。
馴染みのない人にには「アルバムでジャンルが終わるって何言ってんだ?」と思うかもしれないが、このアルバム、あまりに出来が良過ぎて「シューゲイザーはマイブラのラブレスで完成しました。もうシューゲイザーはオワコン!」という雰囲気になってしまったのだ。
そして今回紹介するアルバム”ブラッドミュージック”のリリースは93年。つまり簡単に言えばタイミングがクソ悪かったワケだ。
My Bloody Valentine - Only Shallow
コチラはマイブラのアルバム”ラヴレス”からの一曲。シューゲイザーと聞いてピンとこない人もいるとは思うが、大体この曲みたいなのがシューゲイザーと呼ばれる音楽である。
シューゲイザーの正統進化の一形態
Chapterhouse - Don't look now
ということで、前置きが長くなったがアルバム自体の音楽性に触れていこう。
アルバムの1曲目が上の”Don't look now"だ。
シューゲイザーの音楽性をの源流を辿っていくとサイケデリックロックやインディーロックといったジャンルにたどり着くように、シューゲイザーというジャンル自体にアンチ商業主義的とまでは言わないまでも、売れることよりも音楽性を優先するといったような”インディーロック的・アンダーグラウンド的”な精神が流れている。音作りもアナログ重視で作ったり、デジタルを導入しても実験的な使いかが多いのが特徴だ。
では、今回のアルバムはどうかというと、聴いてもらえればわかるが全く逆のアプローチである。
音楽の自体はシューゲイザーをベースにしているものの、例えばギター以外の上物だったりリズムトラックだったりは、むしろ逆にアンダーグラウンド的な要素を薄くし、ある種の”メジャー的”というかサウンドクオリティが高いのが特徴だ。
アルバム”ラヴレス”が象徴するように、シューゲイザーというジャンル自体の行き詰り、このアルバムはそれに対するアンサーでもあり、次の時代でのシューゲイザーの在り方を提示するものでもあったのではないだろうか。(結局シューゲイザーは進化を果たせずにブリットポップの波に飲まれてしまったが)
ちなみにこのアルバムがこういうサウンドになった理由がある。
チャプターハウスというバンド、元々からトリプルギター体制のバンドであり、どんどん上に音を重ねそのレイヤーで表現するというタイプのバンドであった。このバランスの悪さ、メロディ・ハーモニー楽器への偏りが独特のサウンドを生み出す原因の一つであると思う。
そしてもう一つが、このアルバムを制作に入る少し前のタイミングでドラムが脱退し、リズムマシーンを大胆に導入できたことなどがある。もともとそういったものに関して積極的なバンドではあったが、脱退したことによりさらに拍車がかかったといった具合だ。
その辺りを踏まえて聴いてみると、また新しい発見があったりして面白いアルバムである。
Chapterhouse - Love Forever
こちらはアルバム最後の曲"Love Forever"。
このアルバムをお勧めする理由のもう一つが、いわゆる”コンセプトアルバム的”なまとまり感の高さだ。
アルバムをどこから聴いても完全に"Blood Music"のサウンド。曲単位ではなくアルバム単位で聴くのが良い作品だ。
全体のクオリティの高さも群を抜いているし、やっぱり時代の流れや運的なものさえあったら、一時代を築いていたんじゃないかと思う。
ということで今回はChapterhouseのBlood Musicの紹介でした。
幸いなことにこのアルバム、2008年に再版され、しかも一緒に1991年発表のEP、"Mesmerise"が収録されている。
何故アルバムにEPを乗っけて再版したかはわからないが、そちらのEPも1stアルバムからBlood Musicへと繋がる過渡期的な作品になっており、そちらも正直めっちゃ傑作。普通に結構お得なので是非手にとって見て欲しい。
では今回はこのあたりで。
On the way to fly - Chapterhouse
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