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谷澤 千尋

2016/01/22

記事

”良い音”とはなんだろうか

少し前の事になるが、友人のご好意でオーケストラによるストラディバリウスの演奏を見る機会があった。
ストラディバリウス、バラエティ番組などでも”良い音と悪い音の聞き分けが出来るかの格付け”などで”良い音がするバイオリン”の代表として、しばしば登場したりするのでご存知の方も多いだろう。

18世紀に今のイタリア周辺にて天才弦楽器製作者のアントニオ・ストラディバリによって制作された、約1200挺の楽器がいわゆるストラディバリウスである。
音色的には現在作られた楽器と大差ないとの研究結果もあったりするが、歴史上多くの人々の羨望され、”良い音”のシンボルであったことは紛れもない事実である。

ところで一体、良い音とは実際にはどういうものなのだろうか。
一流のミュージシャンはもちろんのこと、趣味で音楽をやっている人、リスニング専門の人もそうである。音楽に携わる人々、ほぼ全てが”良い音”を求めている。
音楽というものの永遠のテーマではあるが、今回は”良い音”について少し考えていきたいと思う。

良い音の定義

考えてみようとは言ったものの、音には「ここまで高次倍音が出ていたら良い音」みたいな絶対的な尺度は存在しない。
一部の例外を除けば、良い音とは基本的には個々の好みの問題であり、一般化にするにせよより多くの人々が良いと思える音であるとしか言いようがないのである。

だがそれぞれ好みや良い音の尺度が異なるが、音のどこの点について重点をおいて良い音とするかは、ある程度分類することが出来る。
ということで「良い音」の観点について一つ一つ紹介していこう。

 

正確な音

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早速一発目から例外である。
音において絶対的な尺度がある、珍しい価値観である。

呼んで字のごとくだが、「正確な音」とは原音に忠実=良い音という価値観である。
逆にこの価値観においては、原音から変化すればするほどダメな音となる。

例えばオーディオシステムにおいて「正確な音」とは、CDに記録された情報としての音を精確に音に変換することである。
この価値観ので場合良い音と言ったら原音に忠実であるということだが、オーディオ的に「良い音」の場合は別の価値観のことを指して言う場合も多いので注意が必要して欲しい。

 

本能的に心地よく感じる音

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人間には本能的に心地良いと感じる音と、逆に不快に感じる音がある。
例えば黒板を引っかく音あたりが本能的に不快に感じる音の代表だろう。
一説によれば人間がサルだった頃、救難信号として出されていた鳴き声の周波数と黒板を引っかくと出る音の周波数が似ているかららしい。

逆に心地よく感じる音の具体例として、真空管などを通したと際にあらわれる、歪んで奇数次倍音の現象と偶数次倍音の増加した音などがある。

 

だが、たまに黒板を引っかく音が好きとかいう変態もいるわけで、
人類共通の音の傾向とは言いにくいものの、多くの人とで共有されている音の価値観であるので”良い音”を考えるさいの良い材料ではないだろうか。

 

歴史的な音

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ここでいう「歴史的な音」とは、過去に作られたものを基点とした相対的な価値観のことである。

ここでの価値観は過去のものの扱い方によって3つに分類される。
「過去のもの近づくほど良い音」「過去のものより離れるほど良い音」「前者二つのハイブリッド」

順を追って説明していこう。

 

「過去のもの近づくほど良い音」

この場合の良い音とは、そのジャンルや楽器などの価値基準を成立させたものを至高とする価値観である。

「ロックギターにとって良い音とは、ロックギターの価値基準を決めたその音に、如何に近いかである」
定義っぽくするとイマイチわかりにくいが、具体例で示すとかなりわかりやすい。
「ロックギターの音を世に知らしめたのはジミヘンである、よって良い音とはジミヘンの音であり、ジミヘンの音に近づけば近づくほど良い音」
ということである。(ジミヘンの部分を適宜別の人物に変えて読んで欲しい)

先ほどのジミヘンの例は極端ではあったが、実際にエレキギターで良い音とされるものを辿っていくと、エレキギターの黎明期のサウンドに近づいていくので「過去の音に近づくほど良い音」という価値観は、かなり共有されているものであることがわかる。

 

「過去のものより離れるほど良い音」

この場合の良い音とは、既存の音よりもより進化した音が良い音であるという価値観である。

例えばへヴィメタルなんかが良い例であると思う。
へヴィメタルの祖の一つといわれる、BeatlesのHelter Skelterという曲。


Helter Skelter - The Beatles

現代のメタルから考えるとギターは歪んでないし、ベースは重低音が出ていないし、ドラムの音圧がなくて、ボーカルのシャウトが弱い。
この曲は世界初のへヴィメタル曲とされているが、今のメタル的にはダメな音をしているのである。
先ほどの過去の音を至高とする価値観とは真逆である。

この価値観では要は、過去のものに対して「より〇〇な音」が良い音なのである。
へヴィメタルの場合では過去のものより、より重たく聴こえる音が良い音だ。

他にも過去のテクノロジーでは成し得なかった音なんかもこのパターンに含まれる。
ジャズを極めたマイルスファミリーが、フュージョンに移行していく時にシンセサイザーを導入していったのはそういった価値観からだろう。

 

「前者二つのハイブリッド」

総合すれば、このパターンに分類される人が一番多いだろう。
要は「過去の音の価値観」をリスペクトするし、ダメな部分は否定するということである。

エレキギターで具体例をだしてみると、
「ビンテージサウンドのようなトーンをベースにしつつも、現代的な音楽にフィットするようにノイズを減らし、コードの分離がよい音」
みたいな感じだろうか。

もちろん、人それぞれ古いものと新しいものの、どこを取り入れるかは異なってくる。

 

機能的な音

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こちらの価値観に関しては、先にこの価値観においてダメな音を例に挙げたほうがわかりやすいだろう。

この価値観において、ダメな音は「機能を果たせない音」である。
例えば、ベースの音程が不安定な音色であった場合、アンサンブルの中で必要な「ベースとしての役割を果たせない音」となってしまう。

では機能的な音において良い音とはなにかというと、「ダメなところがない音」が良い音である。
この価値観、どちらかというと芸術的な価値観と言うよりは、制作上都合が良いか悪いかの話である。
だが、実際に音楽エンジニアなどは制作上都合が良い音を指して良い音と呼ぶのである。

 

演奏者的な音

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この価値観は楽器演奏に習熟してないとわかりにくいものである。
どういうことかと言うと、楽器からでる音によって演奏が変わるので、「良い方向に演奏が変わる音=良い音」ということである。
逆に、この価値観においてダメな音は「弾きにくい音」となる。(個々の演奏者にとって)

楽器をやらない読者のために、料理に例えてみると
あまりものを使って料理をするときコンロの火力(=楽器の音色)が強ければ、美味しいチャーハンが作れるのでそうするが、弱ければ火力が必要ない料理をすることだろう。
楽器の場合も同様で、音色によってジャンルによっては譜面的に演奏する音が変わるし、ジャンルによっては同じフレーズでもニュアンスが変わったりする。

 

いかがだっただろうか

最初にも書いたが、良い音と言うのは個人的な好みに左右されることが多いものであるので、単に良い音はこうであると定義することは出来ないが、
極端な話、ジミヘンの音は「過去のもの近づくほど良い音」的な価値観では完璧な音であるが、「機能的な音」の価値観ではノイズは多いわ、音程は濁っているわでダメな音となる。
具体的に何を指しているのかをはっきりさせずに良いか悪いかとしか言わないと、話が噛み合わないのも当然である。だが、実際にそういったことで言い争いをしているのをよく見かける。

結局どんな音であれ、ある価値観に於いては良くとも、別の価値観ではダメな音となるのだ。
故に完璧に良い音というものは存在しないのである。

結局のところ、要素別に書き出してみたところでわかったのは、
「”〇〇という側面では”良い音」の”〇〇という側面では”の部分を省略して発言するため、良い音の真理から遠ざかっていたのではないだろうか。

この記事が、良い音について考えるあなたのヒントに、
そして説明不足からくる不毛な争いを減らすことができれば幸いである。

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