弱冠17歳でメジャーデビュー ぼくのりりっくのぼうよみ の、歪さ。
俺は高校生が嫌いだ。人生にチャンスがあるから。そして成功してる奴が嫌いだ。チャンスをつかんでるから。
となってくるともうこの「ぼくのりりっくぼうよみ」くんなんてのは俺を苛む為だけに生まれたストレスの化身みたいなもんだろう。17歳、メジャーデビュー、天才の名を欲しいがままにしている。そんなんはアレックスターナーだけで十分。同じ日本人でこういうのがバンバン出てきちゃったら、今バンド頑張ってる20代は何を言い訳に音楽やったらいいんだよ。クリープハイプなんか売れたの30手前になってからだぞ。おい頑張ろうぜ俺ら……
「音楽関係者の間で大絶賛!」「業界が騒然!」
とそこら中でベタ褒めされてる彼。ちなみに俺の知人は誰一人騒然としていなかったので音楽レーベルやインディーズのバンドマンはきっと音楽関係者でも業界人でもないらしい。どこにあるんだよエルドラド。
すごく意地悪なこと言ってるけどね、ちがうんだよ。お前らは勘違いしている。俺は本当はすごく優しい人間なんだよ。公共のトイレのウォシュレットは必ず水圧を最強にしてから出るくらい親切心に溢れた好人物なんだよ。その親切心が
「こんなにスイスイうまく行ってるときっとどこかで足下救われちゃうから…」
といった風にプラスの方向に働いてこのガキボッコボコにして最寄りの湾に沈めたるけえのうっていう気持ちに昇華しちゃってんすよ。
メジャーデビューした時点で金の力でそこら中が褒めてくれる。俺がちゃんとバランス取ってやるよ。新年から覚悟しろオラ。
曲
めっちゃいいじゃん… どうしよう、もう暴力振るうしかねえじゃん…
普通に聴いたら、音楽としては至極耳障り良い。良い意味で言うこと別にない。良い意味で、俺と関係ないから全く興味わかないし普段聴きしたいと一切思えない。良い意味だよ、本当に。俺が好きなバンドは不幸に見舞われるし悪くすると死ぬ。そう思えば、売れるんじゃないこれ?
言い換えれば毒が少ない、ポップな音楽だ。クセや毒の割合が増えれば増えるほどカルト的なファンがつくが見込める潜在顧客の数は減る。そういう意味でポップな音楽。まさにメジャー指向の音楽だ。
ぼくのりりっくぼうよみ
しかし俺が「良いな」と思った楽曲の、彼が担ってる部分は全体の何%くらいだろうか。
せいぜい、声だ。声はチープな言い方をすれば今風だし、万人に「かっこいいじゃん」と思ってもらえるようなちょうどいいクセをもった均整の取れた声をしている。
その他に彼が担っている部分は、歌詞とルックスかね。ルックスは正直
まだあか抜けちゃいない。高校生に求めるのは酷かもしれない。校則とかもあるでしょうよ。でもこの若い時分からメジャーに行ったりもすれば何がどうなろうと周りの大人がなんとかしてくれるはず。無敵かよメジャーレーベル。
気になってるのはそこじゃない。こんなこと今更言うのは古いかもしれないが、韻踏まないラップって、何だ?
韻はラッパーの命
最近じゃ韻を踏むことを放棄して、歌詞の意味性に重視したラップも少なくない。狐火とかMOROHAとかね。
こんなのね、卑怯じゃん。と思ってる。アツいもん。DAOKOいるこれ?
意味に重きを置く。音楽を好きになるきっかけの一つに、歌詞による共感がある。この一点に特化したスタイルがこのポエトリーリーディングだ。
ここでぼくのりりっくぼうよみ、に話が戻る。彼はインタビューで「歌詞に意味をもたせたくない」という趣旨のことを言っている。そうだな、何言ってるんだい若いのかい!?
BASEMENT-TIMES読者諸兄は、EXILEの歌詞を朗読したことが、おありでしょうか?
(個人的にはラップパート「すぐ消える火遊びはDanger、もしやんなら後始末わすれんな」がツボ。自治体のおじさんかよ)
あれ本当にもう何いってるかわかんないから、話の趣旨が、わからん。しまいにはラーイラーイライジンサーン!だからな。
ぼくのりりっくぼうよみには、そういう側面を感じる。意味をもたせないなんて言い方はかっこいいが、落ち着いて読めば怪文章だ。
メジャー指向、そう思えばだ、EXILEの支離滅裂な歌詞だって、多くのファンに共感を与える為に特定のことを明言しない広く浅い波及を狙っているものとも考えられる。16歳の彼が考えてそこまでやってたらば、間違いなく天才だよ。
韻を踏む、という最低限のルールを失ったラップは、手が使えるサッカーのようで、武器をつかったボクシングのようで、そのゲーム性や芸術性を失いメキシコの治安のような無法地帯と化すだろう。
「かっこいいからいいじゃん!」
ファンのその感想も確かに一つの真実だが、全員が全員そんなことを言い出したらば、本当に日本のラップの本筋から韻が失われてしまうので、せめて俺は難色を示していたい。
こういうのも否定はしないが、メインロードになってほしくはない。あくまで抜け道のニッチ産業としてニコニコ動画あたりで中高生のラップ入門ジャンルとしてひっそり存在してていてほしい。
行動力と時代
本当に、本当に最近までただの一介の歌い手だった彼。紫外線というのは彼の別名儀だ。
歌い手、と嘲り笑うことなかれ、中学生が自力でやったことにしちゃ大した出来だ。創作、というにはほど遠いにしても、歌い手という競技の中で聴き比べればかなりハイレベル。15歳の自力でここまで来れれば大したものである。
そんでもって賢い彼は、ただ歌い手をするだけじゃ人の注目を集められないことに早々に気がつき、Twitter上で有名人にプロレスを挑み炎上、そこから徐々に地位を獲得。それを足がかりにトラックの作れる大人とつながり、若さと話題性を売りに音楽業界に殴り込み、大成功。これが「ぼくのりりっくぼうよみ」という絵だ。
めちゃくちゃ賢い。字にすれば打算的で、お粗末なハリボテのような様相だが、実際にこうやって結果を出していること。そしてそれがまだ17歳だということ。恐ろしい限りだ。
彼の最大の武器は、この行動力だろう。
変な時代になってきているのだ。#マッシュと繋がりたい みたいなハッシュタグつけてアプリで変形させた自撮り晒してる不細工が、そこそこ売れてるバンドよりも露出する時代。善悪はないが歪ではある。そんな状況下に育った若者の方が、きっと教養ある40のオッサンとかよりも上手く時代を立ち回ることだろう。ぼくのりりっくぼうよみは、その典型だ。
このサイトを読んでる人はきっとバンドマンや、バンド音楽が好きな人が多い。彼の存在を歯がゆく思う人も少なくないはずだ。
僻みも確かにモチベーションの源泉たり得るが、それよりも彼の軌跡を認め、そこから学ぶべきだろう。
俺は徹底して僻む。頼む、一回でいいから地獄見てくれ…!