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Syrup16gと、メンヘラと呼ばれる人たち

「少しの間、冥途に旅してきます」

 Syrup16gはそう言い残してまた消息を絶った。

 普通、バンドの活動休止声明というやつはもっと長々しく回りくどく、暗い。応援してくれているファンに、なぜ活動を続けることが困難になったのかという説明というか、見方によっては言い訳のような、懺悔のような長文になりがちだ。

 それが彼らの場合、ちょっとコンビニに行ってくるぐらいの調子で活動休止宣言。

 ファン側もファン側で「まあ五十嵐だし」で済ませてしまう不思議な関係性、距離感だ。それは期待をしない、という優しさなのかなと思う。

 

 思えば、Syrup16gはそのキャリアの大部分を休養・休止に費やしている。

 僕が彼らを知ったのはちょうど、一度目の活動休止を宣言した年で本人不在のまま永いことファンをやっていた。

 彼らがいなかったその間、いろんなバンドがSyrup16gを目指して、跡を継ごうとしていた。身も蓋もない言い方をすれば、"根暗バンド枠"みたいな枠組みの覇権だったシロップが活動休止したために椅子取りゲームのようになっていた。

 のだけれどそのどれもが結局Syrup16gには、成り代われなかったようだ。

 自分も、新しいバンドに寄り道したり、洋楽に代わりを求めたり、色々と試してみたんだけれど結局Syrup16gに帰ってきてしまうのだ。iTunesをスクロールすれども毎回ここに行きつく。

 なぜだろう、ほかのバンドと何が違うんだろう。そういうことをちょっと考えた。

 最近のバンドと比べると、薄味だ。病院食のようだ。

 同系統の他のバンド、思い浮かべて欲しい。歌詞に死にたいとか鬱だとかそういう言葉が出てくるバンド。各々好きに思い浮かべてほしい。それと比べても極端に味が薄い。

 

 話が変わるけど、メンヘラって呼ばれる人たちは元気だなあ~と最近よく思う。

 元気、というと誤解を招きそうだが、エネルギッシュだなと。

 毎日ツイッターで薬の話とか自分の病気の話とか、嫌いな人とか世の中の事とか、率先して発信している。時にはケンカなんかしちゃったりして。嫌味ではなく、すごい元気だなあと。

 そりゃあ歳もあるだろうけど、祖父の他界をきっかけに鬱病になってしまった僕の祖母は、単純にエネルギーが切れたような様子だった。元気じゃないなあと。

 鬱病になった祖母を捕まえて、メンヘラと呼ぼうとはとても思わなかった。

 元気な(?)鬱の人も、元気じゃない鬱の人も、各々つらいんだろうけどとにかく別種の生き物という感じがした。

 

 話が戻る。Syrup16gは、エネルギーがない。あるときもあるけど、あんまない。無理して出してる感じがする。

 上の件を引用するなら、彼らは鬱であってメンヘラではないと思うのだ。

 年の事も言うなら、五十嵐隆がバンドを始めたのは20代後半、30歳が見え始めた年齢からだったと記憶している。

 

「ドラマも車も興味がないから、40万のギブソンのアコギを買いました」

 この人は元気がない。「つらいです!お前もつらいよな!世の中が憎いよな!」っていうような。主張、呼びかけがない。こっちに浴びせてくるエネルギーがゼロに近い。

 彼がバンドを始めた年齢に近づくにつれて、気持ちがぴったりと同調する。そんな字並びの歌詞だ。

 若さゆえの精神不安定と、歳を取っても尚精神不安定な人間は、似てるようで違うようだ。

 精神科の患者さんは、意外と綺麗な手首をしたおじさんが多いらしい。自殺率は男性の方が高いらしい。でもインターネットで薬の画像を挙げていたり病気の事を熱心に話している人に中年男性はあまり見かけない。

 嫌味で回りくどい、僕の性格の嫌なところが出たが、もっと直接的に言うならば、後発の「暗いバンド」たちはどうにもこうにも、メンヘラくさいのだ。アピールがすごい。歌詞がネガティブだから元気なさそうに見えて、実はめちゃめちゃ後ろ向きにエネルギッシュ。うるさいのだ。主張が。

 

 Syrup16gはそういう意味で異質で、一見暗いバンドとしてひとくくりにされて語られがちだが、ほかに似たバンドのいない、唯一なバンドだ。ちょうど、メンヘラと鬱病をひとくくりに語ってしまうぐらい、一緒にするには無理がある。

 そんなことを、手首に傷のある風俗嬢に楽しそうにお薬の話をされた日に思いました。なので帰りはSyrup16gを聴きました。

 それでは。

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