今の十代に、後悔のない音楽人生を送ってほしいんだ。
よく、僕はこのサイト上でバンド片っ端から貶し貶める悪鬼のような人間だと言われる。
たしかに、一部のバンドを取り上げて
「このバンドは僕からは良い音楽だと到底思えない」
「これを聴くぐらいならヤマダ電機のテーマをリピートしてた方がずっとマシ」
「こんなものは親類と元カノだけ聴け。他人様に聴かせるようなもんじゃない」
といったような内容を書いたりしたことはあるけれど、よくよく数を数えてみれば、10記事に1回もそんな論調の記事はない。多くは、単純なレコメンドか、バンドに対するコラムみたいなものがほとんどだ。基本的には、僕が「いいな」と思うものを紹介して、一部の人に共感してもらえれば万々歳だとおもってこのサイトを運営している。が、そういうことを言うと
「じゃあ好きな音楽の記事だけ紹介すりゃいいじゃん。なんでわざわざ波風立つような記事書くんだよ」
と、いう声が必ず挙がる。
自分の中に回答は二つある。
まず一つは、手放しにあれこれ褒めてる奴の言う事なんかてんで信用ならないのだ。
昔テレビ番組で島田紳助が、出された料理に対して
「こんなクソマズいもの、俺はおいしいなんてとても言えない」
と、言って箸を置き、番組が異様な空気になった放送回を見た憶えがある。その場は磯野貴理子が人身御供となって事なきを得たが、とにかくちょっとした放送事故のようなワンシーンだった。
だが、島田紳助本人もそう意図したように「なんでも良い良いと手放しに評価する人間の"良い"なんて言葉に信憑性は一つも置けない。それは何も言っていないと等しい」という、"批判"を極端に嫌い、心ない行為だとして糾弾する日本人の国民性に対する反発として、意味のあるポーズだったと僕は思うのだ。
日本人は、何かを誹ることを、異常に嫌う。誹る(そしる)という言葉が一般的じゃないのでディスるなんて言葉が最近普及したが、これはそもそも批判するという概念が日本人に浸透してないことを証明するものの一つだと思う。批判することに対してこんなことを言う人がよくいる。
「悪くいったらそれが好きな人が傷つくじゃん!」
甘ったれんじゃねえ。お前らのケースワーカーじゃねえんだ。お前がそれを好きだとのたまうことを止める権利が誰にもないように、俺の嫌いだという意見を封殺する権利も誰にもない。ましてや、自分勝手なナイーブを盾にして人の発言の自由を奪おうとする卑怯者にあるわけがない。
海外だとピッチフォークを代表に、各アーティストの新リリースを片っ端からボロクソに扱き下ろすサイトが公然と市民権を得ているし、他分野で言えば、映画なんかよく監督の人格否定レベルで酷評するサイトなんかよくある。
日本人の、音楽における、批評アレルギーははっきり言って異常だ。理由はある程度見当がついているが、日本人は音楽を"作品"ではなく"崇拝対象"としてとらえている傾向が強い。簡単に言えば、宗教やアイドルのような楽しみ方だ。だから、批判されたときに「自分の人格を否定された」という風に錯覚する。そんなことは決してないから安心してほしい。
僕なんかは、好きなバンドが貶されようが、扱き下ろされようが、まったく何とも思わない。だって好きだもん。嫌いな理由を説明してもらうのも好きだ。というか、音楽の話なんてそれぐらいしかすることない。
話は戻る。良いものを良いとするために、良くないものを良くないと言うべきだ。絶対に。
どこぞの漫画で「愛とは差別であり、あなたが我が子を愛するのは、それ以外を愛さないという差別だ」なんてセリフがあったが、まさにその通りで、仮に全人類を平等に愛していたら、それは誰も愛していないのと同じことだ。"良いもの"とは"良くないもの"があって初めて発生する概念だ。
音楽に対しても同じことが言える。現在の音楽誌よろしく、ただお金を受け取ってそのバンドを褒める、のべつまくなし褒めまくる、という構造は業態としてフリーペーパーとか食べログの偽装ランキングみたいなものと全く変わらない。
たしかに商売としては正しい。金儲けは慈善事業である必要はない。が、それを真に受けて聴く音楽を選ぶ顧客側のことを考えれば、あまりに人情がなさすぎる商売だと僕は思う。ムゴすぎる。音楽に関わりたくてそういう仕事を選んだはずなのに、そういう業態の元働いてることに疑問はないのか?と。
だからば、俺は良いバンドを絶賛したときに、ちゃんと信用してもらうために良くないものを良くないと言わなくちゃならないと考えている。じゃなきゃ、何万と記事を書いたところで一つも意味をなさないのだ。
批判的な記事をたまに書くもう一つの理由は「人に良いものを聴いてほしい」という僕の押しつけがましいエゴだ。
人間にはなぜか、良い体験や良いコンテンツを見つけた時に
「みんなにこれを教えてあげたい!」
という気持ちが生まれる。そういう風にできてる。なぜか。
おいしいものを食べたら、友達に「あそこのお店美味しかったよ」って伝えたくなるし、面白いつぶやきがあったらリツイートしたくなる。人間は社会的動物なので、良いものなんか独り占めすりゃいいものを何故か人に勧めたくなる。教えてあげたくなる。人間にゃ珍しく、これは純粋な善意なんじゃないか。他の人にもできるだけ良い思いをしてほしい。損をしてほしくない、そういう純な優しさ。
だから、例えばよ。修学旅行のお土産屋で木刀を買おうとしている中学生、聞いたこともないような事務所から地下アイドルデビューしようとする元カノ、島村楽器でCoolZを買わされそうになっている高校生。こういう人たちを見ると
「待て待て待て」
と、そういう気持ちになる。善意だ。
先ほど「ワシャ好きなもんをなんと貶されようと全く平気ジャイ」と嘯いたところだけれども、逆に、全然良くないものを大衆が褒めたたえているのは本当につらい。ストレス。レぺゼン地球のプレゼント企画を大好きな高校の先輩がリツイートしてたのを見て本当に胸が張り裂けそうになった。女が俺のPS4でフィッシャーズの動画を見出したとき、俺の中の小籔千豊がその女に吠えた。本当につらい。つらいのだ。
「そんなくだらないもので喜んでちゃダメ!!」
という、自分の価値観の押しつけからくる自分勝手な、ありがた迷惑な、善意が叫ぶのだ。お前は損をしているぞ!!というクソバアアじみた老婆心。人の価値観を一切尊重しない人間的な浅ましさからくるストレス。それはわかっている。人の価値観は人それぞれだ。それを頭ごなしに否定はできやしない。
だが、自分から見て、あまりに低俗すぎるものが流行っていると、とてつもない疎外感を感じると言うか
「え、こういうものが好きな人たちが大半を占める世の中で俺は生きていかなければならないの?」
という絶望感というか。なんというか。説明するにも恥ずかしくてつらい。僕らのような人間性がひん曲がったクソ野郎はやはり、なにか認められないものがあって、それが世間から一定の評価を得ていると心のどこからギシギシと軋むのだ。AKB48がオリコンチャートを独占していることに憤っている人が少なくないことを鑑みるに、みんなそういう気持ちをどこかで味わったことがあるはずだ。
いつもの倍、3000字ぐらい書いたところでやっと本題なんだけれど、僕はどうしても、できるだけ、みんなに良い音楽を聴いて過ごしてほしいと思う。
NO MUSIC NO LIFEとか大げさなことを言うつもりはないけれど、音楽は人生とって人が思うより大事なもので、思い出をしたためた写真アルバムみたいに、人生を切り取って保存する役割がある。そういう風に僕は思っている。
特に学生時代を彩る音楽は、その人にとって一生の宝物だ。その時聴いてた音楽を聴いて、夏休みのエアコンの匂いを思い出したり、好きな子と行ったカラオケボックスの間取りを思い出したり、自転車で登るのがキツかった通学路の坂道を思い出したり、写真とか動画とかとは違う形で思い出をパッケージングする役割があるのだ。
僕は学生の頃別に他に音楽好きな友達とかそんなにいなかったし、本当に手あたり次第なんでも聴いてみたりしたんだけど、悲しくも今20代になって思い出せない音楽がいっぱいある。手放してしまった音楽がたくさんある。
今思うとそれらは、音楽としての強度が弱かったというか、もっと簡単に言うなら「大人になっても聴けるような音楽じゃなかった」と、思う。
僕は正直、自分より年上の人間に向けて記事を書いていない。それよりかは、少年少女に向けて
「これを聴いていてくれたら、きっと後悔しないよ」
という音楽を勧めていきたいと思っている。
芸術音楽と商業音楽という区分は、たしかに存在して、白黒はっきり分かれるようなものでないにしろ、音楽を商売としている人間や会社がある以上
「まだモノの良し悪しもわからん子供を騙して金にしよう」
という(めちゃくちゃ悪く言えばだけど)考えの元音楽を売り出しているレコード会社はたしかにある。純粋な悪意じゃないにしろ
「正直くだらん音楽だけどこういうのが売れるんだよなあ」
とぐらいに、妥協と諦観から売り出されている音楽は確実にある。
そういうものに対して、ノーを唱える人間が少ないことに驚く、僕は。
もう一度言うけれど、少年時代に聴く音楽は一生の宝物だ。
だからは僕は今の十代に後悔のない音楽人生を送ってほしいと本当に思っている。だから、批判も、もちろん絶賛もする。
僕と音楽の趣味が全然違う人もいると思うし、その人から見れば僕の勧めるものこそナンセンスかもしれないけど、僕は僕の目線から良いと思ったものしか良いと言えない。
だからもっと、誰しもが「みんな、これ聴いてくれよ」とか「こんなんは良くないよ」とか、自由に批判したり絶賛したりするようになりゃ面白いのになと思う。本気で。
押しつけがましいかもしれないが、善意だ。
是非良い音楽、ずっと聴ける音楽を見つけてください。
それでは。