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2016/07/16

記事 邦楽ロック

音楽ジャンル:邦楽ロックの記号化・ハイコンテクスト化し過ぎ問題とその最たる例のシナリオアートの新曲がマジでヤバい 後編:シナリオアートの解説

前編:音楽ジャンル:邦楽ロックの記号化・ハイコンテクスト化し過ぎ問題とその最たる例のシナリオアートの新曲がマジでヤバい 前編:記号化とは?ハイコンテクストの解説

シナリオアートの曲がやばい

さて、ここからが今回の記事の本題。
今までは今回の記事の前提条件である「記号化」と「ハイコンテクスト」についての説明ということである。

今回の音楽に関する「記号化」と「ハイコンテクスト」についての記事を書くにあたって、それらの特徴がハッキリとでた曲を探していたのだ。
理想を言えば、曲を構成するパートの全てが記号化された表現を用いており、さらに前提条件がなければ理解できない曲。

かれこれ1年近く探し続けてきたのだが、今回、このように記事が書かれているということは、それが見つかったということ。
その曲は最近プッシュされている売出し中のバンド、シナリオアートのナナヒツジという曲。
たまたま「すべてがFになる」アニメにて見つけることができた。出会いに感謝。

ということでだな、この曲がやばいってのが今回の記事のテーマである。


シナリオアート - ナナヒツジ

何がやばいって、曲を構成する全てのパートが記号化された表現の引用であり、さらにそれらがかなりハイコンテクストであるということ。
と、いうことで曲の頭から最後まで解説していきたいと思う。

記号化された表現使いまくり、ハイコンテクスト過ぎ

まずイントロ、一発目のバンドマン界隈で言うところの「ぶっ放し」とか「白玉」と呼ばれるパート。
どういった表現かを説明するのは野暮ではあるが、一応説明すると、まあ聞いたまんまだが飽和状態とか崩壊状態みたいな雰囲気の表現である。
その後にやってくるパートと合わせて「今からブッ飛ばすパートがくるんだぜ!」っていう記号となる。
これに関しては辿ればかなり古いところにたどり着くが、邦楽ロックにおいて、そしてこの曲においてでは、簡単にルーツがみつかる。
ご存知9ミリパラベラムバレットである。
私の観測していた限りでは彼らが「ぶっ放し」を効果的に用い、邦楽ロック内にその文化を広めた。
因みに「ナナヒツジ」の場合では半音でぶつけるフレーズをギターが弾いているが、これもかなりポピュラーな記号的表現。ルーツは「ぶっ放し」に比べるとイマイチハッキリしてないが、私の知る限りでは2000年代のメタルコアにルーツがあると思う。
因みにこの二つの表現が、飽和状態とか崩壊したように聞こえるのは、先駆者が開拓したからである。
80年代からタイムスリップしてきた人がコレを聞いたらまた違う印象を抱くか、演奏ミスとかその辺の類だと思うだろう。

続いてイントロ後半のパート。
7拍子の複雑なパートだが、このやりかたは敢えて言う必要もないが、マスロックからの引用である。
そしてコレはファンの方には申し訳ないが「なんちゃってマスロック」。
何故これがなんちゃってかって、本来マスロックでは文脈の中で楽曲全体のドミナント的な表現として必然的に、このような複雑なパートがやってくるのだが、彼らの場合そういった文脈を無視した形で複雑なパートに突入する。
マスロック風のフレーズを取り入れて「複雑だよ!」という雰囲気を表現したということである。要はマスロックの記号ということだ。
ちなみにこの流れに違和感を感じないのは、マスロック、ポストロックと邦楽ロックの融合を果たした、いわゆる残響系がひとしきり流行ったからである。このパートにはその前提条件が必要なのだ。

そしてAメロ。
いわゆる「男女ツインボーカル」というヤツですね。
これのルーツはちょっとややこしいことになっている。
私が観測している限りではこの「男女ツインボーカル」というやつ、同ジャンルのバンドが沢山いる状況で自然発生するのである。
そのプロセスなのだが、似たような音楽性のバンドが沢山いるシーンでは、他のバンドとの差別化、いわゆるバンドの”売り”が必要になる。
そこで(ある意味手っ取り早い方法として)「男女ツインボーカル」が生まれるのである。
逆に言えば「男女ツインボーカル」のバンドが現れたらシーンが煮詰まっているということだ。(ちなみに凛として時雨だけは例外で、全くシーンが存在しないところからやってきてナチュラルにツインボーカルのスタイルだった、アイツらはやべえ)

そしてBメロ。
イントロ、Aメロに引き続いて7拍子だが、リズムの取り方が3拍子系になる。(3拍子+3拍子+あまりの1拍子)
この「あまりの1拍子」というやりかた、またこれも引用。しかも残響系の引用。
私の記憶が正しければ確かシネマスタッフかピープルインザボックスがやり始めてからよく使われるようになった手法であると思う。
独特の字余り感が独特の雰囲気を醸し出すよね。

前提条件がないと理解できないと思う、この曲

次はサビ。
言いがかりみたいだが、このパートに関しても「サビ以外のパートは複雑だけど、サビだけは聴きやすい形にする」という手法が用いられている。
よくあるようで実はコレ、邦楽ロック特有の手法で、元々は恐らくエモ系がルーツのはず。
海外の複雑系のロックはサビまで全部複雑なまんまってのはよくある。つまりこの手法は「ここがサビだよ!盛り上がる部分だよ!」っていうサインであり、記号である。
そんであと、男女ツインボーカルってのも引き続きありますね。女歌う、男歌う、(大事なところは)二人でハモる!っていう流れ。まさにツインボーカルのお手本のような構成である。

続きましてインタールード、間奏の部分とCメロ部。
敢えていうなら、このパートだけ彼らのオリジナリティが感じられるな。
別にそれ以上言いたいことはないが、とにかくココだけは間違いなく彼らのオリジナル。

そして次がラップパート。
ラップと喋りの間中間くらいの独特な歌唱だが・・・コレどこかで聞いたことあるような、というかバックホーン。数年前から何故か突然ラップを取り入れはじめたバックホーンのソレに似ている。
別にココは記号化とかハイコンテクストとかは関係ないけど、バックホーンに似てる。

そして2回目のBメロ。
ここでは1番と変わって女性のほうがボーカルをとっている他、終わり方に変化があり、なんて説明すりゃいいかわからんが、アレ。声が裏返る感じのアレである。。
これもまた記号化とかハイコンテクストには関係ないが、まあついでだし書いておこう、この技、赤い公園の曲で同じ技を聞いたことがある。ランドリーという曲の2回目のサビ。

そしてまたサビがやってくる。
そういえば先ほどは書き忘れていたが、この曲のサビ、非常にステレオタイプなストリングスが入ってるよね。つまりアレだ、記号化された表現だよね。このストリングスの使い方は。

そしてサビの終わりにはまたしても(3拍子+3拍子+あまりの1拍子)のビートがやってくるが。ここのパートが非常に記号的。
この3拍子の使いかた、我々は「遊園地パート」と呼んでいるのだが、つまりだ、「ツータッター」のリズムが持っている遊園地的な雰囲気を曲に取り込む手法。音楽における記号化の最たる例である。
ようはなんちゃって遊園地をやって、メルヘン怪しい雰囲気を出そうということである。(1拍増えてるけど、基本的には一緒だろう。)

そして語りパート。
もはや説明不要だと思うが、これもまた記号化された表現の最たる例である。というか語りパートは記号化の権化。
かなり昔からある手法で、ルーツはどこから来てるのかイマイチわからんが、明確にルーツがあったら誰か知っている人いたら教えてください。

続いて3回目のサビ、邦楽ロックでは最後のサビは崩すのが定石。お手本どおりの崩しサビ。
「クライマックス感」の記号だね。

そして最後Dメロとアウトロ。
この辺は彼らのオリジナルかな。多分。そろそろ疲れた。

と、いうことである。お分かりいただけただろうか。このヤバみ。
殆ど全部のパートが二番煎じの引用によってなりたっているのだ。
さらになにがヤバイって引用元の殆どが直近の音楽ってのがヤバイ。

たまねぎ

この曲を聴いて昔聴かされたある童謡のことを思い出した。
「食いしん坊のゴリラ」というタイトルのものなのだが、「ゴリラがひたすら食べ物の皮をめくって食べる」というだけの非常にシュールな作品である。
記憶が正しければ確か最初はバナナから、皮をむいて食べる。”ゴリラと言えばバナナ”といったステレオタイプなゴリラ観が逆にシュール。
それから続いてみかんとかリンゴとか、皮をむいて食べる系のものを食べまくる。
そして一番最後、オチに使われるのはたまねぎ。
ゴリラは他の食べ物と同様にたまねぎも剥き始めるのだが、剥いても剥いてもずっと皮。
皮を全部剥き終わるということは即ち、何も残らないということである。
虚無になってしまったたまねぎに、ゴリラはただ泣くというお話。

いかがだっただろうか

さて、クソ長かったが、いかがだっただろうか。
人様の曲をたまねぎ呼ばわりした時点で何を言おうが、ディスであることには変わりないのだが、
別の観点から見るとこの曲は「記号化」や「ハイコンテクスト」といった技術を使った曲のマスターピースであるといえる。
色々曲は聴いてきたがここまでそれらを突き詰めた曲は初めてである。正直普通に凄いと思ってるよマジで。

ということでだな、今回はこの辺で勘弁してあげよう。(文量的な意味で)
ではまた次回の記事で!ステイメタル!

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