宇多田ヒカルの「Fantôme」全米6位が、どれくらいすごいのかわかりやすく説明する
当サイトを定期的に読んでくださっている方はお気づきであると思うが、最近やたら宇多田ヒカルの記事が多い。
その理由としてはもちろん、宇多田ヒカルの音楽の良さを広めたいというピュアなやつから、これだけのビッグネームなので読者のニーズがあるだろうという打算的なやつ、あと僕が普通にめっちゃファンなんて理由まで色々あるが、それ以上の理由があって、それは「今宇多田ヒカルに注目していないと(多分)おいてかれる」というやつだ。
先ほどとはちょっと被るが、宇多田のファン的な側面としては「あの宇多田ヒカルが8年ぶりにリリース」普通にお祭り状態。音楽の業界的な側面では「間違いなく莫大なセールスを挙げるニューアルバム」はどちらにせよ意識せざるを得ないし、ミュージシャン的な側面において今回の新作は「トップミュージシャンが発表した、次の時代の指針となり得る作品」つまりファッションでいうところのパリコレ。トップデザイナーが提示した次のシーズンのオシャレの基準。これはチェックせざるを得ないだろう。
ということで、良くも悪くも全方向から大注目の宇多田ヒカル新アルバム「Fantôme」ちょうど先日28日にリリースされた。個人的には「アルバムレビュー書くか!」と意気込んで聞いていたのだが、その矢先ヤバいニュースが飛び込んできた。
「宇多田ヒカル「Fantôme」全米チャートで6位を記録」(ちなみに最高3位まで上がった)
これはヤバい。事件ですよ。
USのiTunesで6位ですと!!??事件だ! kj RT @UBlog: #6. #Fantôme #UtadaHikaru @utadahikaru @hikki_staff https://t.co/JIVKeB4Zoi
— 宇多田ヒカルSTAFF (@hikki_staff) 2016年9月28日
— 宇多田ヒカル (@utadahikaru) 2016年9月28日
なんなら本人とスタッフまで驚いている始末。
さて、まあ今そんな状況であるわけですが、みなさん正直に言ってほしい。正直「全米チャート6位で事件って言われてもどれくらい凄いのかピンとこないな・・・」というアレでございます。
ということで今回は予定を繰り上げて、何がどうヤバくて何でみんな騒いでるのか説明していこうというワケである。あと最後にチョロっとなんで売れたか考察する。
時事ニュースやら社会問題について解説する池上彰的なニュアンスで見てもらえればと思う。
今まで沢山のミュージシャンが挑戦して失敗して帰ってきた、アメリカという魔境
みなさんアメリカという国についてどのようなイメージをお持ちだろうか?ピザ?ハンバーガー?デブ?戦争?銃社会?Apple社?
見る視点によって色々な側面があるのが国というやつで、一概にどういう国とは言い切れないものだ。
さて、では音楽業界という側面から見た時のアメリカ・・・みなさんどんなものだと思いますか?
答えは魔境。ハンターハンターで言えば暗黒大陸。一番強いやつが満を持して進出した結果その入り口だけみて絶望、尻尾を巻いて帰ってくる、全く持ってスケール違いの空間。
言い直すと「日本のミュージシャンがアメリカで成功するのはホントに難しい、というかむしろ普通に無理」ということ。
アメリカで成功するのが何故そうも難しいかは後述するが、今までにも沢山の名だたる邦楽ミュージシャンがアメリカに進出してはボロボロに負けて帰ってきている。
有名どころで言えばX JAPANもドリカムも倖田來未も赤西仁もアメリカのデカさの前に挫けた。
出ていく前は意気揚々に「全米進出するぞ!凄いぞ!」とニュースとかでバンバン流すものの、進出後の報告が全くないアレ。みなさんもこの現象覚えがないだろうか。
かくいう宇多田ヒカルも全米デビュー挑戦組の一人である。
全米デビュー用にUtada名義に変え、音楽性もかなりアメリカに寄せてつっくた「Exodus」というアルバムを引っ提げて進出。が、結果は思うように振るわなかった。
Utada - Devil Inside
こちらはアルバム「Exodus」のリードトラックDevil inside。今回は掘り下げないが彼女の紆余曲折を察する上で非常に重要なアルバムだ。良ければ聴いてみてほしい。
とまあアメリカはマジで魔境なワケである。唯一成功したといえば坂本九の「上を向いて歩こう」あちらでのタイトルは"Sukiyaki"。正直胸を張って成功したといえるのはこれだけ。
ということで次は何でこうまでアメリカ進出が難しいのか。説明していこう。
アメリカ進出が難しい理由
なぜアメリカ進出が難しいのか、一つめの理由は「アメリカ人は英語圏の音楽以外をあまり聞かない」というやつ。
日本と同じく自国の音楽が主流のアメリカだが、母国語以外の音楽への厳しさは日本以上。
データによると聴く音楽の9割以上が自国の音楽らしい。ちなみに日本の洋楽シェアは25%~30%ほど。自国の音楽以外を聴く文化がない人たちに”洋楽”を売り込むという時点で茨の道なワケである。日本人だってイスラム圏の音楽なんて滅多に聴きやしない。そういう風に置き換えて考えれば当然といえば当然である。
二つ目は「英語で歌っていないと何言ってるかわからない」つまり言葉の壁。
日本でも洋楽を聴かない・聴けない理由のトップに上がるが、元々洋楽を聴く文化があまりないアメリカ人にとってはさらに高いハードルになるんだそう。
「じゃあアメリカ向けに英語で歌ってリリースします!」と向こうに寄せていったらどうだろうか、と思うかもしれないが、そこにもまた壁があるのがアメリカが魔境たる理由なのだ。
何が壁になるかというと発音。やたら厳しいらしい。
フリーダム!イコーリティ!と声高にいう割には意外とムラ社会的なところがありやがるのがアメリカという国で、学校でもオーストラリアなまりだったりと、発音が完璧でも英語になまりあるだけでイジメのターゲットになるらしい。
なので生粋の日本人が覚えたての英語で歌ったところで鼻で笑われてハイ終了、といった感じになるらしい。なんか別にアメリカに何かされたわけでもないのにちょっと腹立ってきたぞ…
宇多田ヒカルはNY生まれだし、発音も完璧でアメリカ進出していったが、このあたりは要は”スタートラインに立つために必要なこと”程度というワケだ。
ということで、アメリカが魔境な理由がおわかりいただけただろうか。さらに言うと上のに加えて「見た目がドギツクないと売れない」という文化的な理由や、「宣伝広告費のスケールが全然違う」という金銭的、国家的スケールのお話まで色々と絡んでくる。
改めて書いてみて思うが、マジで誰も得しないし、傷を負って帰ってくるだけなのでアメリカ進出はもうやめたほうがいいんじゃないのかと思う。
売りに行ったというか「売れちゃった」という感じ
宇多田ヒカル - 真夏の通り雨
アメリカが如何に魔境かおわかりいただけただろうか。そんな魔境でチャート入りする宇多田ヤバい!とみんな騒いでいるわけなのだが、今回はもう一つヤバい理由がある。
今回のアルバム、アルバム「Exodus」のようにアメリカ進出を意識して、マーケティングして、プロモーションして…みたいなアルバムではないのだ。
今回のアルバム、収録曲のほとんどが日本語詞であるし、宇多田ヒカル本人も「日本語の“唄”を歌いたかった」と発言するように、日本人の日本人のためのアルバムという感じなのである。
一応海外でも販売しといたら予想以上に売れちゃってる。みたいな状態なのである。本人とスタッフが驚いてるのもそれが理由だろう。
なんで売れたのか
ではなんで売れたのか。もう正直本人らも驚いてるぐらいなのでアウトサイダーの私がビシっとその理由を答えられるはずもないのだが、考えられる理由を挙げていきたいと思う。
・プロモーション
経済というか商売というか、その類のものはある種正直なとこがあって「どんな商品でも、それが良かろうと悪かろうと、金を掛ければ掛けたなりに売れる」ものである。
宇多田の今回のアルバムも、ただ金を沢山かけてプロモーションしたから売れただけでじゃないのかという説である。
ということで当サイトのニューヨーク支部担当の上田さやか氏にアメリカでの宇多田のプロモーション具合を聴いてみたのだが、彼女曰く「特別金が掛かってはいないと思う」のだそう。
ということはつまりプロモーション説は間違い、他に売れた理由があるというワケだ。
・クールジャパン、アニメタイアップ
最近海外で売れているアーティストのパターンの一つがコレ。クールジャパンとアニメタイアップ。
そりゃあもう国を上げて取り組んでいるのだがから、その効果はデカくて「海外でアニメがヒット → ついでに主題歌歌ってるやつもファンゲット」みたいな現象が起きている。
では今回の場合はどうだろうか。
宇多田ヒカルはエヴァの主題歌を歌ってはいるし、エヴァは海外でも結構人気ある。
恐らくエヴァ経由で宇多田ファンになった人も少なくないと予想される。ただ、確かにこの理由もあったにせよ、どこか決定打に掛けるように感じる。売れた理由の中の一つという具合だろう。
・チャートの集計方法
統計やら数字やらのカラクリ・・・こういった数字的なヤツは一部分だけ切り取ったり、都合のいい部分だけ使用することによって印象を操作することができる。
身近なところでいえば、中古で買ったブランド物の時計を「これ20万円するんだ(新品販売価格だと)」といって金持ってそうに見せるのとかそういった類のアレ。数字なんてのは見方によって簡単に印象が操作できるのだ。みんなもマスコミが言う数字を簡単に信じちゃだめだよ。
では今回の場合はどうだろうか。
今回3位まで上がったチャートはiTunes Store内のアルバムチャート。割と頻繁に更新されるという特徴がある、いわば瞬間風力を反映したチャートと言えるだろう。とりあえずこのあたりでは誤魔化しが利かなさそうだ。瞬間風力とは言え魔境アメリカでここまで上がるのは並大抵のことではない。
さらにツッコんで考えてみると、「聴き放題サービスでは宇多田ヒカルの曲が聴けない」なので販売チャート上で伸びた。という理由も考えられるが、もちろんあっちにも聞き放題で聴けないアーティストが結構いる。それが理由で売れるってワケでもないだろう。
そしてこの説自体、裏返してみれば「買ってでも聴きたいという関心の高いファンがいる」という根拠になる。
売れたのは音楽が評価されたから
宇多田ヒカル - 花束を君に
さて、売れた理由についてあり得そうな理由を色々と考えてみたが、どうも決定的なものがない。
逆説的な導き方になってしまったが、残る最後の理由は「音楽が評価されたから売れた」というやつ。国の壁、言葉の壁やら様々な壁を乗り越えて、それでもなお「良い音楽だ!」と思われ売れた、ということだろう。
当サイトで何度も宇多田ヒカルの才能・音楽が凄い、と書いてきたが、特に復活後の彼女はされにもう一つ上のステップまでのぼりつめているように感じる。
キッカケさえあれば言葉の壁を乗り越えて海外で爆発しても全くおかしくない圧倒的クオリティだ。
今回はその音楽性が評価された結果としての全米チャート6位という数字ではないかと思う。
ということで、今回はアメリカチャートで6位入りの凄さと、売れた理由についての考察でした。
今回のアルバム、必聴です。是非!