シティポップはもう終わりだ。And Protectorがブチ込むカウンター
ここ数年のシティポップブームにはすごいものがある。やれヤマタツだ、やれサチモスだと。
ファッションやカルチャー面でのキャッチーさも相まって、その勢いは飛ぶ鳥を落とすどころか、衛星とかも落とせるほどだ。多分いつか被害者が出る。
ただ人間というのは欲深い生き物で、何か1つだけで満足し続けることは基本的にはないらしい。ガッキーを唯一神として信仰している僕だって、長澤まさみを目の前にしたら間違いないく体温上がるし、なんならお茶とかそれ以上したい思ってしまうものなのだ。
それとだいたい一緒で、どんなに大好きな音楽でも、一生これだけ聴けるか? と言われると、正直キツい。特にシティポップなんてのは、いまが流行の絶頂だ。多分あと1年もすれば下火になるだろう。盛者必衰っつって。
ここから先は完全に個人的な予測なんだけど、スカしたシティポップのアゴにカウンターパンチをブチ込むのはメロディックパンクとハードコアだと思ってる。誤解しないでほしいんだけど、メロコアのことではない。ハイスタは活動再開したし、もうフォーリミもWANIMAも流行ってる。床バンバン叩いて大喜びしてるディッキ族なんかはもう僕には蛮族か何かにしか見えないのだ。
僕がもうすぐクると思ってるのは、もっとこう、初期エモやグランジの流れを汲んだ濃厚なやつだ。
1つのジャンルが“カウンターカルチャー”に成り得るには、「いまの流行は感じさせてくれない何か」を持っていることが必須条件だと思う。
仮にシティポップを「誰が食べてもおいしいあっさり塩ラーメン」だとするならば、メロディックパンクやハードコアは二郎系だ。飲むカロリー的な。
考えてみてほしい。毎日あっさり塩ラーメンな生活を。朝はスマホから流れる塩ラーメンで目を覚まし、学校では、YouTubeやツイッターでディグった塩ラーメンの話で友達と盛り上がる。放課後は他校に通う大好きな塩ラーメンと駅で待ち合わせをし、最近話題の塩ラーメンへ。そして帰り道では、満員電車のストレスから逃れるように、塩ラーメンのボリュームをそっとあげる。何の話だ。
つまり、毎日塩ラーメンばっかり食べてたら、それがいくらツルンと食べやすくても飽きちゃうだろ。なんなら逆に今日はこってりドロドロの二郎系行っちゃおうかな、みたいになるでしょ。それがカウンターカルチャー。
ということで前段が非常に長くなってしまったけど、ここからが本題。
オシャレ感とモテ感を手軽に身にまとえるシティポップへのカウンターになり得る、極太麺で食べ応えのあるバンド、And Protectorを紹介したいと思う。(念のため言っておくけど、彼らはシティポップに対してなんの言及もしていないので、勘違いしないように)
聴けば聴くほどかっこいいバンド
シアンとマゼンタの効いた映像、そしてイントロのファジーなフィードバックが流れた瞬間に押し寄せてくる、台風直撃前夜のような胸騒ぎ。ブチ上がりマシマシ系。オシャレミュージックは、こういう気持ちにはさせてくれない。
この独特の歌い方は、"spoken word(スポークンワード)"という日本ではまだ市民権を得ていないスタイル。だから一瞬身構えちゃうかもしれないけど、大丈夫だ。MOROHAをはじめて聴いたときにちょっと引いたの一緒。すぐ慣れるから。いっぱい聴け。
いや、っていうのも、このバンドは歌詞がめちゃくちゃいいんだよ。
目眩いがするほどめまぐるしく飛び去っていく日常の中で生まれた小さな心の"ささくれ"をチクチクと刺激されて、ああもうやんなっちゃうな〜と。喧嘩して出て行ったきりもう数日連絡を取ってない彼女のこととか考えて、鉛でも食わされたような気分になる。まあ彼女居ないんだけどね。
話し始めるまで待つよ
窓を打つ雨粒
静かな部屋に響いて
すすり泣き
今と向き合い踠いた証
この残花という曲は、3:41秒分の歌詞を全て書き出してもたったこれだけ。1行ごとにどれだけの気持ちが入ってるのかと考えると、ゾッとする。エセラップを取り入れたり、意味のない言葉をただ羅列するだけのバンドとか、表現がめちゃくちゃで意味を成してない全曲フル英詞のバンドと比べると、一言の重みが全然違うよね。攻撃的なハードコアとは違って、もっと自分の内面にグッと入っていくような。
歌詞を読むと、「ああ、この人ってこういう人なんだな」というのがビシビシと伝わってきて、ジンワリとした何とも言えない気持ちになる。
このふたつは2014年に出た音源だけど、さっきの2曲とは打って変わって、けっこうメロディックな曲。守備範囲広いな〜。コーラスも粋でいい。めちゃくちゃエモい。
けっこうゴリゴリのハードコアっぽい歌い方なのにちゃんとキャッチーなのは、ギターのコードが絶妙に洒落てるというか、意識的にハズしてるからなんだろうな。まだ20代半ばの若手バンドなのに、いちいちセンスが良い。
ギターのコードとメロディに乗せて、「誰しもが一度は感じたことあるけど、あまりに一瞬のことで意識する前に消えていった刹那の感情」をキッチリ描ききることができる、数少ないバンドだと思う。例えるならば武蔵の心中の微かな変化をすべて描ききる井上雄彦。いま君が聴いているのは、そういうレベルの音楽。
いまはまだまだ売れているとは言えないけれど、The Wonder Years(USA), Me VS Hero(UK), Beasment(UK), Departures(UK), Citizen(USA)やその他大勢の、パンクキッズなら一度は聴いたことのある海外のビッグネームバンドのジャパンツアーに帯同したりもしていて、シーンからの期待も厚い。これから絶対やばいことになるから、いまからチェックしとこう。
最後にちょろっとライブ動画も。
冒頭でもボーカルが言ってるけど、彼らは静岡県の三島市出身。そういえば、全国あちこちでライブをしてる彼らだけど、どっかのインタビューで「バンドは週末の楽しみ」って言ってたのを読んだ。
この熱量のライブしてて週末の楽しみってマジか……って思ったけど、その分ものすごくピュアに音楽をしているってことなんだと思う。平日は普通に仕事してるからこそ、「全部捨ててバンド1本に人生懸けてます!」みたいなロックスタータイプのバンドには出せないある種のリアルさを感じるんだろうな。純粋とか、誠実、正直っていう言葉が個人的にすごくしっくりくる。
それにこのリアルさってのもポイントが高い。これは一部シティポップにも通づることだけど、良い意味で力が抜けているというか、地に足がついている人間味というのは、これからの音楽にとって重要な要素だと思う。少なくとも僕は、キラキラしすぎな夢とか、ファンタジックすぎるラブストーリーを歌った音楽にはもう感動しない。
YouTubeでMVを観るのもいいけど、bandcampなら僕がいちばん好きな「ライムグリーン」ってアルバムを全曲フルで試聴できるよ。
このアルバムを聴いた後は、台風が通り過ぎた後の燃えるような夕焼けを見ている気分になる。明日も頑張るぞって思える。だから毎日頑張ってる人は、ぜひ聴いてみてほしい。
こんなに硬派でかっこいいバンド、なかなかいないぜ。