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2016/09/02

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バンドは儲からない バンドマンなら"絶対に"知っておくべき音楽経済学

バンドで飯を食う、と口に出すと誰の口からも決まり文句のように返ってくるのが
「バンドは儲からないよ」
という台詞だ、確かにそうだろう

バンドは儲からない、食べていけるのは氷山の一角だ、というのは音楽を作ったり演奏したりする人間から、まったく音楽に興味のない人間まで一貫して共通した認識である。しかしその認識、漠然としすぎてはいないだろうか。

音楽と趣味の範疇で関わっていく人たちならそれでも良いが、"音楽で飯を食おう、音楽で身を立てよう"という志を持っているのにも関わらず、渦中の本人たちが今の音楽業界の経済状況を良く理解できていないのは大変深刻な問題である。"バンドは儲からない"という認識があまりに漠然としすぎている為、本来感じるべき危機感が麻痺し、ひたむきに頑張ればなんとかなる!という発想に行きつきがちだ。
例えるなら
「東大に入るのは難しい!でも頑張ればなんとかなる!」
と自分の偏差値も必要科目も知らないまま勉強に勤しむのと全く同義である。

いっそ言い切るが、現状では努力して運のある賢い奴以外はバンドで大成はできない。少なくとも今売れているバンド達のほとんどが卑怯なくらい賢い。ひたむきに頑張っても頑張るベクトルを間違えればただのドンキホーテだ。

「別にお金の為に音楽やってねえし!」
と勘違いされないために先にこの話の主題を決めておく。メジャー契約から安定した収益を得るのがいかに困難か理解した上で、より多くのバンドがバンドで生活できる程度の収入を得られるようにするためにはどうすれば良いのか。という事を考えてゆきたい。

枕が長くなったが、渦中のみなさんがこの現状を対岸の火事のように考えていることの危険性を理解した上で、良く噛み砕いて慎重に以下の内容を読んでいって欲しい。かく言う僕もしっかりと考える機会がなく、長い間"バンドは儲からない"とうわ言のように口から垂れ流すだけで理解したような気になっていた。音楽は聴く側だ、関係ないね、という人にもこれは是非知っていてほしい、邦楽シーンの音楽性にも深く関わってくる内容なのでむしろリスナー側が知ってこその話でもある。
というわけで本編だ。

 

市場規模

まず既存の収入源を把握しよう、と言いたいところだが、先にしなければならない話がある。日本と言う小さな島国の市場規模だ。ご存じ日本は世界第三位の経済大国、市場規模は小さくないだろ、と思われがちだが音楽においては必ずしもその限りではない。その大きな要因は言葉の壁だ。

イギリスやアメリカを想像して欲しい、マーケットを共有できている。好例としてThe Strokesはアメリカのロックバンドだが、EPがイギリスで反響を呼び1stで人気が爆発し、アメリカでの成功につながった。これはUS-UK間に限った話でなくヨーロッパのバンドの多くは英語で唄い、世界中を市場として捉えている。

かたや日本の人気バンドが音楽が海外で評価を受ける例はあまり見ない、クリープハイプは日本語だから、日本の風土だから売れたが、海外の人たちには言語も情緒も理解できないだろう。日本のレコード店には洋楽邦楽のコーナーがあるが海外には邦楽(日本の音楽を指す)コーナーはない。

音楽性自体が通用しないわけではない、Bo Ningen等海外で成功した日本人はたくさんいるし、インディーズには先進的なサウンドを奏でるバンドは多数存在する。しかし日本のメジャーレーベルはその経済危機からいわゆる"売れ線"と呼ばれるバンドを中心に担ぎ上げ広告を打ち、ムーブメントを起こして似たようなバンドを量産している。誤解を恐れずに言えばバンドというよりもアイドルに近いと言える。こういったメジャーシーンの意向によって尖った音楽性を持つバンドが育たず、何と呼称するのが適切かわからないが所謂"耳の肥えた音楽ファン"といったような人たちは邦楽のメジャーシーンから離れてゆき、どんどん日本の音楽はガラパゴス化していってしまっている。そしてそれによって縮小する経済規模からメジャーシーンの売れ線一辺倒の傾向が強まり取り返しがつかないほど悪循環が進んでいる。一つの記事にしてしまうとあまりにも長くなるのでこの"邦楽ロック画一化問題"は後日詳しく書きたいと思う。今回はいかに小さなマーケットで戦わなければならないのか、という点についてのみに終始したい。

 

主な収入源

メジャーレーベル所属を想定する。

・CD
・ライブ
・グッズ
・ダウンロード
・カラオケ
・レンタル
・メディア出演料

その他細やかな物はさて置きこれらが主な収入源だ。一つ一つがいかにお金にならないかを見てゆこう。

・CD
これが本当に儲からない。複雑な計算が必要なので詳細は省くが、著作権印税・アーティスト印税を合計して売り上げの3%程が作詞作曲者の手元に入る計算で、残りのほとんどは経費と契約を結んだ各会社(詳しくは後述する)の利益に流れ込む。CD一発でその年の年収を叩き出せる自信、おありだろうか。まったく恐ろしい話だ。

ベーシスト・ドラマー諸君は「あれれ?」と思ったに違いない。そうだ3%というのは作詞作曲者の話だ。作詞作曲に携わっていないメンバーはその10分の1程度の収入となっている。言いづらいが、まぁ、その、0.3%だ…。地味だしモテないし0.3%、ベーシストのみなさんには頑張ってほしい限りである。

・ライブ、グッズ
ここにも各種会社が介入しており、一概には言えないがCDよりはマシと言える。実際音楽業界はCD不況によってライブで収益を立てる方向にシフトしつつある。しかしそれでも大部分は中間マージンに持っていかれてしまう。しかもこれは埋まる・売れる前提での話だ。実際はメジャーレーベルに移籍したバンドでも十分な集客を見込めるのは一部となっている。

・ダウンロード販売
メジャーレーベルの場合CDと概ね同じだ。相違点としては経費が省かれる代わりに単価が安くなっている点と、日本人は本当にインターネットでお金を払わないという点か。

一度外出すれば平気で万単位のお金を支払う人も、なぜかネットにおいては100円のアプリの支払いをためらったりする。これは日本のネット黎明期にあった"ネットでお金を稼ぐのは悪!"みたいな意識によるものなのか、果たしてわからないがダウンロード販売はいまいち普及しきっていないのが現状だ。

・カラオケ
意外と無視できないのがカラオケでの収益だ、ご存じの方はご存しだろうが、カラオケで誰かが1曲歌うたびにJASRACと音楽出版社を介して作詞作曲者に5円前後支払われている。なんだかアフィリエイトみたいな話になってきたがまさにそんな感じだ。しかしバンドの方向性によっては歌いづらい曲ばかり、なんてことも少なくない。作曲者のみなさんは歌いやすい曲を作った方がいいのかもしれない。

・レンタル
ここに詳しくあるので引用しよう

◇CDレンタル1回あたりの使用料
・作詞・作曲家:アルバム<70円> シングル<15円>
・実演家:アルバム<50円> シングル<15円>
・レコード製作者:アルバム<50円> シングル<15円>

意外と良心的な設定となっている。ちなみにこのレンタルCDの制度は日本独自の物らしい。

・メディア出演料
雑誌、TV出演、インタビュー、各種メディア出演料だが、相当大物アーティストでもない限り出演料というものはほとんど発生しないそうだ。というのもメディアに露出するということはバンドにとっても宣伝効果が見込める為タダ同然で出演するそうだ。場合によってはアーティスト側からお金を支払って雑誌に掲載してもらうなんてことも少なくないらしい。

 

闇に消える収益

こう見ると各収入源からバンドの取り分がずいぶんと少ないが、残りの収益はどこへ消えるのだろうか。
まとめてみた。以下の通りである。

・レコード会社  レコーディング、広告などを請け負う。
・プロダクション会社  スケジュール管理、給与支払いなどを請け負う。
・音楽出版社  著作権をアーティストから受け取り、著作権の管理と広告を請け負う。
・JASRAC  著作権をアーティストまたは音楽出版社から受け取り著作権の管理を行う。

メジャーレーベルと契約した。とよく耳にするが実際はこのように複数の会社と契約を結ぶ大変複雑な体制となっており、これがアーティストに支払われる金額の不透明さに直接つながっている。

上記のように書いたが、各会社によって業務内容のカバー範囲が異なるので必ずしもこの限りではないが、要するに複数の会社を経由することで多大な中間マージンが発生してしまうという事だ。もっとネガティブに解釈するのであれば、メジャー契約をすると大人がたくさん現れて著作権と収益をごっそり持っていかれる、という感じか。この中でも特に曲者なのがメジャーレーベルと呼ばれるレコード会社と音楽出版社である。これらの会社は著作権と原盤の権利を持っていくばかりか、バンドの方向性にまで介入してくる。

広告費、レコーディング代、その他人件費諸々に見合う売り上げを立てれなかった場合は遅かれ早かれメジャー契約解除、インディーズに逆戻りというわけである。

 

今回はバンドで身を立てる厳しさばかりを訴えたが、次回以降は現状の問題点と具体的な打開策を掘り下げてゆこうと思う。
予定としては

・インディーズレーベルのすゝめ
・インターネットは音楽にとって是か非か
・邦楽ロック画一化による悪循環
・これからのバンドの収益化方法

タイトルは実際文章にまとめたのちに変更されるだろうが、きっとこんなところである。

音楽業界は右肩下がりと言われて久しいが全く絶望的というわけでもない。インターネットによって窓口が押し広げられた今がまさに変革期と言えるだろう。地下室TIMESはその窓口の一端を担えたらいいなと思っている。それではまた。

 

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