USカントリー事情。テイラーを見限ったらケイシー・マスグレイヴスをどうぞ。
カントリーミュージックというものは、人の心の深い部分にじんわりと染み渡っていく。
不思議なことに、異国の名前も知らないような場所に生まれたアーティストが紡ぐ音に、
僕たちはそれぞれの故郷の景色を思い描く。
ペンシルベニア?レディング?何それ食えんの?
そんな街に生まれた彼女、ご存知テイラー・スウィフトの音楽もそのうちのひとつ「だった」と思う。
テイラー・スウィフトの軌跡
もはや説明不要のミリオネアシンガーとなった彼女にも、新人時代はあったのだ。当たり前だ。
2006年10月発売のデビューシングル「Tim McGraw」
はじめの一弦から哀愁を匂わせるギター。声を荒げることなく儚げに歌い上げるメロディー。
良い意味で素朴な曲と楽器の構成が織り成す彼女のミュージックに、正統派カントリーを未来へと導く担い手が生まれたことを(独断で)確信していた。
彼女のその後について、孫の成長を見守るおじいちゃん気分で追っていこう。
2008年発売の「Love Story」この曲はビルボード100で5位、iTuens Storeで2位を売り上げるヒットナンバーとなった。まだカントリー。
2012年発売のアルバム「Red」から22。22歳。大人になったね。ちょっと都会っぽくなったね。
そして2014年。待望のニューアルバム「1989」を引っさげてテイラーがやってきた!!
・・・・・・え?
なんだろう。なんだろうこの感情は。なんだろうこのサムネイルから漂うゲテモノオーラは。
夏休みが明けたらいつの間にか髪を染めていたあの子のことや、都会の大学に進学して、病気と見紛うほどのチークをつけて突然変異レベルのまつ毛を生やしたあの子のことを思い出してしまう。
おじいちゃんは胸が痛い。
なんだこの電子音は。なんだこいつらは。なんでダボダボの服着てラジカセ持ってんだよ。あの哀愁を放つギターはどこ行った。もじもじ君がいるぞ。It's gonna be alrightじゃないよ。可愛いけど。
という風に、ティム・マックグロウがどうのこうのと歌っていたカントリー娘は、マックス・マーティンやシェルバックといったシティボーイなお兄さんたちによって世界的にセンセーショナルなバービードールに仕立て上げられてしまった。
彼女が今後どんな進化を遂げるのか、それもまあ楽しみではあるのだが、おそらくもう二度とジョージアの星空について歌うことはないのだろう。We are never ever getting back togetherなのだ。
そこで、そんな失意のどん底にいる全世界のおじいちゃんに、USカントリー界の秘密兵器である彼女を紹介しようと思う。
純カントリー娘、ケイシー・マスグレイヴス
テキサス?ゴールデン?何それ必殺技?
そんなクソ田舎に生まれた彼女、ケイシー・マスグレイヴスである。
自費製作やオーディション番組への出演を経て2012年にデビューした彼女は、早くも今年2014年のグラミー賞において、
ベスト・カントリー・アルバム部門とベスト・カントリー・ソング部門のダブル受賞を果たした。
まさしく正統派カントリーを未来へと導く担い手であろう(独断)。
百聞は一見にしかず。まずは聴いていただきたい。
爪弾かれるバンジョーに明確なカントリーミュージックのルーツを感じる。
浮遊感と幻想感を帯びたピアノとストリングスに、遠く子供の頃の記憶を引き起こされる。
退廃的な歌詞は、少しだけ不自由な田舎の暮らしを思い出させる。
最寄りのコンビニまで車で20分ってなんだよ。
こちらはよりシンプルで分かりやすいザ・カントリーミュージック。
ゆるーい曲かと思いきや、それなりにパンチのある歌詞である。(2曲ともに対訳を紹介しておられるブログがあるので、英語の分からない方はぜひ検索してみていただきたい)
そんな彼女に望むこと
教会に通う信心深い人をサノバビッチと言ってみたり、同性愛や大麻について言及してみたり、皮肉にしてはやりすぎじゃないかと思う部分も目立つ。
田舎ならではのしきたりや、古くからの慣わし、風潮(彼女の出身地テキサスを含む南アメリカでは、同性愛への弾圧が未だ激しい)に真っ向から立ち向かう言葉を伝統的サウンドに乗せて歌う彼女に、どこかロックの魂を感じたりもする。
過去と未来、伝統と革新のそれぞれをはらんで、彼女は歌う。
そんな彼女のこれからを、やはりおじいちゃん気分で見守っていたいと思う。
アラレちゃん眼鏡をかけたり、謎のバレエを踊ったりはして欲しくないなと、個人的には思っている。