ロック好きは全員観ろ!カート・コバーン新映画
ご機嫌よう。
この記事を書くべきか迷った。ただの安月給会社員が、趣味の延長で執筆しているだけなのに、カート・コバーンについて書こうなんてあまりにも生意気だと思ったからだ。
一足先にこの映画を観た結果、全てのロックファンに、特にバンドマンに、6月27日から一週間限定公開の”Cobain - Montage of Heck” を観て貰うきっかけになれればと思い執筆を決意した。
ネタバレしないように十分注意して書いてみたが、約束はできない。楽しみに取っておきたい諸君は、観終わった後にでも読んで頂きたい。
カートへの弔いの意味も込めて、今回はふざけた下ネタなしで真面目にいく。
オフィシャル・トレーラー
客層
驚くべき事に、10代〜20代という若い層が多かった印象だ。
1994年、カートの死から20年以上経った今も、彼は若者の心を掴んで離さない。
一緒に行った知人はリアルタイムでニルヴァーナを知る、カートと同じ年の30代後半だったが、知人も客層の若さに驚いていた。髪を赤や緑に染めて、革ジャケットを着たロック少年少女を見ると胸が熱くなってしまった。
監督のスピーチ
一週間の限定上映だったので見逃す訳に行かず、気合いを入れて前売り券を買って行った。
IFCシアターという、ドキュメンタリーで有名なミニシアターにて上映。
告知なしでほぼSold Out、入場前には長蛇の列が出来ていた。(IFCでこんなに並んだのは初めて)
ありがたいことに、監督のBrett Morgen氏が開演前、特別にスピーチしてくれた。
内容をかいつまんで、以下の通り。
「カートがこの映画の事を知ると、間違いなく『ファック•ユー』と言うだろう。
カートの秘密であり、恥ずかしい過去全てを、ありったけの媒体で映画化したんだから、当然だ。
何より、彼のサウンド•デザイン…『音の彫刻』にも耳を傾けて欲しい。」“Let’s hang out with our old friend, Kurt Cobain!"
「それでは、旧友のカート•コバーンと遊ぼうか!」
監督のこの一言で映画が始まった。
サウンドトラック
映画館で観て欲しい最大の理由と言っても過言ではない。
米国ではHBOというケーブルで放映されたが、あの臨場感は家では味わえない。
未発表曲を含む、全編カートとニルヴァーナの曲で構成されており、正直家のテレビで観るのはもったいない。
大スクリーンで観る映像カットと絶妙なタイミングで聴くSmells Like a Teen Spirit, Heart Shaped Boxは本当に贅沢だった。
発売予定のサントラにはニルヴァーナの曲は含まれず、カートの未発表曲のみとなりそうだ。
映像技術
家族と友人へのインタビュー、カートの幼い頃の写真や秘蔵映像はもちろんのこと、カートが遺した音声テープに合わせて上手にアニメーションが取り入れられている。また、彼の幼少期のアート作品や直筆の日記帳、家計簿やメモなどが迫力のあるサウンドと共に構成されていた。瞬きするのも惜しい位に良く出来ており、タイトル通りの”Montage”(モンタージュ)を極めた職人技の編集だ。ドキュメンタリーは退屈な作品も多くあるが、この映画は断じて違う。ドキュメンタリーであり、映像作品とも呼べる。まるでPVを観ているような気分で2時間飽きずに観れた。Morgen監督は天才だ、彼にしか作れなかった映像美が、この映画に集結している。
複雑な生い立ち
Wikipediaにもあるように、カートが幼い頃、両親が離婚した事により、彼の心の闇が深まったと言われているのは有名な話だ。子供の目線で考えると、オトナの事情で振り回されて十分な愛情を得られないなんてとんだ迷惑。しかし、オトナの目線で考えると、顔も見たくない相手と一緒に住んで人生を棒に振りたくない。夫婦は所詮他人なのだ。他人の家庭の事情に外野が口出すべきではない。誰が悪い訳でもないのだろう。
しかし、元々繊細だったカート少年は、両親の離婚で深く傷つき「拒否された」と感じたのではないか。彼は所々で ”Mom” 「お母さんが…」と発言している。彼は親の愛に飢えていたのだろう。この生い立ちがあってこそ、あの音楽が生まれたのは間違いない。
Don Cobain (カートの実父)は、カートの娘•フランシスと話し合った後、この映画で初めて公共の前に姿を現した。劇中では離婚に至った経緯や実父のカートへの思いなどが語られている。
Donだけでなく、カート実母、妹、義母、元彼女、親友、そして妻のコートニー•ラブも登場し、彼との関係を赤裸々に告白している。
中二病の闇
複雑な家庭で育ち、十代からバンドを始めて一気にスターダムを駆け上がり、27歳という若さで自らの命を絶ったという、絵に描いたようなロック人生だ。常人には真似出来ないカッコいい生涯である。
社会への抵抗、否定された自分、社会や自分自身への怒り、そんな十代特有の怒りや憤りを音楽に表現し、私達の代弁者となってくれた。その作品は、誰もが抱える孤独の琴線に触れている。否定され続けたカートの半生、彼は誰かに認めてもらいたかったのだろう。拒否され続け、芽生えた承認欲求を満たす為に音楽を作ったのではないか。彼にとっての自己肯定と逃げ道は、ドラッグと音楽だった様子だ。
変な話、ドラッグの魔の手には敵わなかったものの、反抗期に本格的なDQNになって路頭に迷う前に音楽に出会って良かったのかもしれない…。
カートを自殺に追い込んだ一因
「カートはマスメディアに殺された」は言い過ぎだが、マスメディアが彼を自殺に追い込んだ原因の一つと言っても過言ではないだろう。
カートはインタビューが大嫌いだった様子だ。
「ニルヴァーナの音楽は何を表現しているの?」の質問に、カートは「それは聴く人が決める事だから…。」と、ひたすら答えていた。くだらない質問ばかりするメディアは、いつだってミュージシャンの嫌われ者だ。
メディアが勝手に作り出す彼とバンドのイメージ、ドラッグ使用と愛妻コートニーへのバッシング、プライベート詮索のゴシップ…。繊細な彼は「恥をかかされる」のをとても嫌っていたと親友が語っていた。あまりにも有名になりすぎて、カート自身がその有名税をコントロールできなかったのかもしれない。
家族やネットワークの指示を一切得ず、Morgen監督独自に制作した作品である。
言い換えると誰にも媚を売ってないし、フィルターが掛かっていない「生」のカートが観れる。
ここまで徹底的に黒歴史を晒されながらも、「あ、私カートと似てる」と思わせる魅力を持つカート•コバーン。
あなたの心に住むカート•コバーンがえぐり出されて踊り出す。
ロック好き、音楽好き、いや、日本国民全員 ”Cobain - Montage of Heck” 、絶対観ろ!!