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SuiseiNoboAzと、うみのてと、ナンバーガールの残像

 SuiseiNoboAzのライブを観に行った。

 きっかけは、ボアズのギタリスト。高野京介さんと会って話をするためだった。

 高野さんはたまにブログを書いていて、そのほとんどは取り留めのない内容なんだけれど読者を置き去りにするスピード感が抜群で「このサイトでもバンド関係の事とか書いてくれないかな。絶対面白いのに」と、そういったことを考えていた。あと普通に話したかった。もちろんライブも楽しみだったが、どちらかと言ったら興味の比重は後者にあった。

 SuiseiNoboAzのライブは昔観たことがあったのだ。

 ちょうど1stが出たころで「すごいバンドが現れた」「ナンバーガールの魂を受け継ぐバンドだ」なんていう風に騒がれていた。

 

 この容態。エンジニアとして向井秀徳も参加しており、当時高校生だった僕は「たしかにZAZENっぽいな~」くらいに彼らの音楽を受け止めていた。正直なところ、10代にはちょっと難しかった。

 当時観たライブも、確かにすごかった。「うめえ」その一言だった。逆に言えば、その時の僕にはそれしかわからなかった。

 僕の中でのボアズ像は一旦ここで終わっている。たぶん、そういう人多いんじゃないだろうか。向井プロデュースの字並びに沸きすぎた感じもした。

 いまさらながら今の10代にナンバーガールを簡単に説明すると、バンドやっている30才前後の人間にとっての現人神のような存在である。

 神と言うとなんだかチープだが、邦楽ロックオルタナ派閥の人たちにとっては揺らがぬ信仰の対象であり、とっくの大昔に解散しているのに、今だにファンの熱は冷める気配を知らない。去年の紅白歌合戦の時に、ちょろっと向井秀徳が顔を出しただけで諸兄が大騒ぎしていたでしょ。ナンバーガールはそういう存在なのだ。

 だからか「SuiseiNoboAz=ポストナンバガ」みたいなイメージが彼らの周囲に付きまとっていたように見えた。

 話は戻って高野さん。もう解散しちゃったけど、高野さんは以前"うみのて"というバンドでギターを弾いていた。

 

 久々に耳にしたけど、バカみたいにカッコイイな。

 うみのてもまた、ポストナンバガールギターのサウンドとか、メガネとか、そういう部分でたぶんポストナンバガと呼ばれていた。

 新しいバンドが過去の別のバンドに喩えられるのは自然な流れだ。だけど、過去のバンドの残像が新しいバンドに悪影響を及ぼしているとしたら、そりゃ良くないんじゃないの。って思うのだ。

ナンバーガールの残像

 ナンバーガールは、超かっこいいよ。でも彼らを待ち望み過ぎるのはどうなんだろう。悪ではないけど、どうなんだろうと悩ましい気持ちになる。

 ちょっとでもナンバーガールの要素があると「ナンバガの再来だ!」なんていう風に騒いで担ぎ上げたり下ろしたり、そういうことは実際に目の当たりにしたことがある。なんか、特殊な体質の子供連れてきて「神の再誕だ!」って騒ぐ邪教みたいな恐ろしさがある。

 きのこ帝国が出てきた時も、勝手にナンバーガールを彼女たちに被せて喜んで、そうあるのを望んで、そうでなくなったら「なんか違うよねこれは」なんていう意地悪なことを言う人もいた。気持ちはわかるけどなあ。

 ナンバーガールに限らず、解散してしまったバンドの役割を新しいバンドに求めるのは、歪じゃないか。そういう人は元彼女を新しい彼女に投影したりもするんだろうか。やめた方がいいと思う。真新しい視点でその子の良さを見てあげようよ。じゃなきゃフラれちゃうよ。

 

SuiseiNoboAz

 で、そんな高説を垂れながら、僕はナンバガと過去のライブを脳裏にチラつかせSuiseiNoboAzのライブを見に行ったのだ。

 

 どうかしているぐらいかっこよかった。その前のバンドも、演奏がとても上手なバンドだったがそういう域を超えていた。

 この感覚、どこかで、アレだ。アルマッケイのライブで黒人のおっさんたちが寸分の狂いもなく音の気持ちよさを追求した演奏をしていたのを聴いていた時のそれだ。

 

 なんというか、この人たちたぶん俺たちに見えてない何かが見えてるんだろう。リズムが合う合わないとかそういう話ではなく、聴く人の好き嫌いを超えて「気持ちいい」と思わせる何かがあったのだ。本質を見ているのかもしれない、そうも思った。そしてこれは日本人には絶対できないんだろうな。と考えていた。甘かった。できるヤツがいた。SuiseiNoboAzだ。絶対なんか見えている。

 メジャーに行って、メンバーがボーカル一人になって、今はサポートを入れて4人。少なくない変遷を経ての今の形だが、あの日のライブは以前のそれを遥かに超えた火力があった。「一回見たことあるし」そう思っていた自分が恥ずかしくなった。

 もう一度書くけれど、この人たちには絶対なんか見えてる。

 ライブ後、ナンバーガールの残像はすっかり消し飛んでいたし、期を見て高野さんに挨拶に行こうと思ってたのも忘れていた。酒飲んで帰った。

 ナンバーガールがきっかけで知るバンドがあってもいいし、それが聴くきっかけになるのはもっと良い。でも、その残像でいつまでもそのバンドを見ているのは勿体ないことなんじゃないか。強くは咎められないが、そうじゃない視点を持って別のバンドを観れたら。もっとすげえ良い。

 SuiseiNoboAzもう一回観に行こうっと。

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