インターネット時代ごった煮アーティストの先駆け KNOTS(ノッツ) から学ぶ尊いアマチュアの在り方
https://twitter.com/knotscream/status/497156617449000962/photo/1
https://twitter.com/knotscream/status/505861575933038592/photo/1
こんなイラストをインターネット上で見かけたことはないだろうか。
このイラストの作者こそ、現在(2015年8月)『コミックアース・スターONLINE』や『サウンド・デザイナー』で連載中のマンガ家、ノッツである。
「おいおい、突然マンガ家の紹介なんか始めてどうしたよ」
「地下室TIMESは“音楽、バンドをより楽しむ為のウェブマガジン”じゃなかったのかよ」
・・・そう思われた方もいらっしゃると思うが、実はこのノッツ氏、元々はマンガ家ではなく、音楽を中心に活動していたのだ!
しかもそのキャリアも10年以上と長く、楽曲のクオリティは非常に高い。動画サイトに投稿された自作PVの再生数は多いもので400,000越え。その腕前を見込まれ「J-POP界の無頼派」シンガーソングライター・ミドリカワ書房に、アマチュアながら楽曲のアレンジを依頼され、さらにイラストの腕も活かしてPVまで勝手に作ってしまうという始末だ(今回はKNOTSの記事のため、ミドリカワ書房の紹介はしないが、彼もまた素晴らしいアーティストなので是非YouTubeなどをご覧になっていただきたい)。
しかし音楽での成功を夢見て、30歳を過ぎた最近になってついに田舎から上京してきたはずなのに、すっかりマンガ家としての活動の方が板についてきているKNOTS(音楽家名義の際は英語表記)。
それでいいのかノッツさん!彼の音楽がこのまま埋もれていくのはあまりに勿体無さすぎるので、この記事では彼の音楽性と、その類まれなる表現性について紹介したい。
音楽性
まずは2011年発売のアルバム『クリーミービター』のクロスフェード動画で、軽く何曲か聴いていただこう。
KNOTS CD-R「クリーミービター」クロスフェード
KNOTSの音楽を形容するなら、「山崎まさよしを彷彿とさせる、アコースティックギターの音色を基調にした爽やかなポップサウンド」に「エッジの効いたエレキギターの煌びやかなバンドサウンド」、「スピッツなどを連想させる切ないメロディ」と「女性と間違えてしまいそうなほどに細く、透明感のある歌声」・・・こんなところだろう。
しかしここで私が注目してほしいのはサウンド面のみならず、「歌詞」「イラスト」まで含めた世界観だ。
年越しセックス - KNOTS
まず歌詞なのだが、「コミカルでいて、ときに胸をグッと抉るような鋭さ」がKNOTSの持ち味だ。上のPVなんかまず曲のタイトルが「年越しセックス」である。どんなもんじゃい、と思って聴いてみたら、何?この胸を締め付ける切なさ・・・。
ちなみにこの楽曲、実はかつてKNOTS(ノッツ)自らが描いた「マフラーマン」というマンガをテーマにした作品なのである(ちなみにこのマンガ「マフラーマン」自体も、スピッツの楽曲「マフラーマン」のオマージュ作品)。
マフラーマン - ノッツ
他人に提供した楽曲をセルフカバーするミュージシャンは数居れど、自分で描いたマンガを自分で曲にしちゃった人は数少ないだろう・・・。
創作に対する価値観
ガールミーツボーイ - KNOTS
KNOTSは楽曲の世界観を、自ら作ったPVによって更に膨ませることができる。自分の描いたマンガの世界観を膨らませるために、楽曲を作ることができる。これは音楽「だけ」で勝負したい・勝負してきたミュージシャン達にとっては、ある意味「反則」と捉えられるかもしれない。
だがKNOTSの作品からは、音楽・マンガ・イラスト・・・そのどれもに分離することのない、一貫したテーマのようなものを感じられる。もしノッツ氏からこのどれか一つでも取り上げていたら、KNOTSの音楽が、今の形にはなっていなかったかも知れない。
そんなKNOTS(ノッツ)の創作に対する価値観について、私が想像や推論で語る以上に、本人のブログにとても印象的な文があったので引用させていただく。
思えば昔からなんでも、
自分が思いついたことを表現できるのなら
手段はどうでもよくって、
音楽だったりマンガだったり、
その都度、手を変え品を変えやっている。
その、田舎に住んでいることによる疎外感は、
創作物を楽しんでいる時にもよく味わった。
「これいい唄だなー」と知らない唄を初めて聴いていても、
歌詞に「新宿」とか東京の地名が出てきた瞬間に
あ…少なくとも田舎に住む僕とは距離のある
唄なんだな…と、すこし虚しくなってしまう。
だけど僕は新曲の歌詞に、
東京の地名は登場させたくないし、
「東京」というタイトルの曲もなんだか作りたくない。
ここまで田舎で長い間、
東京へ対して妬みに近い捻くれた複雑な感情を
ずっと温めつづけていた僕が、
「東京」というタイトルの曲を作ったとして、
いい曲になるわけがないし、
「東京」というタイトルの曲は名曲があまりに多すぎて、
確実に見劣りしてしまいそうだ。逆に、
「『東京』というタイトルの曲は絶対作りたくない」
というタイトルの曲ならなんか作れそうだな、と思っている。
山口(ノッツの出身地)は、僕に何もしてくれなかったなあ、と思う。
でも、何も邪魔しないでもくれた。田舎ならではの一軒家で毎日ギターを弾き狂って
大声で歌わなかったら音楽は続けていなかっただろうし
そんな田舎の大学で知り合った友人たちと
なにもない町で同じ時間を食べあっていた時期がなければ、
あんなに濃密で大切で儚い想い出は積めなかっただろう。――ブログ「あの頃の僕は駄目だった今も駄目だけど」より
KNOTSは自らの範疇を大切にしている。自分の過ごしてきた環境を重んじ、自分の手の届かないようなものには無理に背伸びをしない。逆に言うと、自分の出来ること・やりたいことには貪欲に、楽しむことを忘れずにコツコツと続けてきた。単にその結果として、彼にしか作れない、彼独自の世界観が生まれた。それは短期間に、大多数の人に受け入れてもらわなければならない「プロ音楽」とは別の在り方だ。
10年以上音楽を続けてきて、彼が初めて全国流通盤を発表できたのは28歳の年(ちなみにマンガ家デビューは31歳の年)。そのほんの1年前にはまだ、ネットにあげた音源の再生数は200程度だったらしい(そのうち50は自分自身らしい)。人生いつ何が起こるかわからない。若いうちに一発当てて名前を売ることだけが音楽じゃない。
今後、彼のようなアーティストが次々と生まれ、「創作」というもののハードルが下がり、プロの音楽と並行して、「アマチュアにしか作れないタイプ」の素晴らしい作品が次々と世の中に生み出され続けてくれたら、それは最高だ。
ゴリゴリ売れたいミュージシャンも、社会人やりながらアーティストも、いま自分に出来ることをひとつひとつ、出来るだけ楽しみながら、続けていってほしい。彼のように。
そんな彼の現状は
仕事した! 俺はソニーミュージックと仕事したぞォォオオ!(イラスト仕事)
— ノッツ@たくろくガールズ単行本発売中 (@knotscream) February 1, 2014
音楽の仕事はゼロです
――ブログ「ノツレポ」より
誰かノッツさんに音楽の仕事をあげてください。