"アイドル"というフィルターで純化されたカルマ Maison book girl
ここ数年、音楽シーンにおいて俗に「アイドル戦国時代」という言葉があった。
2005年にAKBグループが登場して以降、手の届かない"偶像"的存在だったアイドルのイメージは多様化を始めた。
アイドル個人のパーソナリティーが前面に出されることで、アイドルはより身近なものとなり、ももいろクローバーZやでんぱ組.incなど、個性的なアイドルが大活躍。
その後に続こうと、ライブハウスやライブスペースでインディーズ的に活動する、いわゆる"地下アイドル"の存在も大きく目立ち始めた。
さらに個性派アイドルの台頭に対をなすように正統派アイドルのモーニング娘。'15を始めとするハロー!プロジェクトも勢いを再燃、地下アイドル達も勝ち上がっていくためにあの手この手と工夫を重ね、もはやインディーズ・バンド界隈よりもよっぽど競争が激しいように感じられる。
俺、この前テレビで鼻フックケツバットアイドルなんて見たよ。どうなってるの・・・。
先日、バンドマンの友達がこんなことを言っていた。
「こんだけアイドルが居るなら、マジでかっこいい音楽やってるアイドルとか出てこないのかよ」
いや、言っとくけど、アイドルの曲はかっこいいよ!?
嵐のA・RA・SHIなんかいま聴くとプログレだし、ハロプロの曲なんて聴いてたらつんく♂さんの作曲センスにお前なんか泡を吹いて失神だよ!?
・・・でもまあ言いたいことはわからんでもない。
つまり、いかにもアイドルらしいイメージのアイドルではなく、クールで"アーティスト"的なイメージのアイドルってことだろう。
よし、そんなお前らはMaison book girlを聴け。
無邪気さと静かな狂気をはらんだ世界観
彼女たちのことを全く知らない方もいると思うが、ユニットの概要の前にそれよりもまず、
つべこべ言わずにMVを観てみてくれ。
bath room - Maison book girl
snow irony - Maison book girl
超かっこよくないです!?
曲のまとまりを壊さない自然な変拍子と、アンビエントな雰囲気を醸し出す低温の音像に、非常に高いセンスを感じる。
実は筆者も元々詳しかった訳ではなかったが、何の気なしに動画をチェックしてみたところ、あまりのかっこよさに卒倒し、即座にタワレコにCDを買いに走り、Google先生とコンタクトを取りつつ調べつつ、こうして記事を書いているところだ。
やはりその音楽性は高く評価されているようで、1stアルバム『bath room』発売時には、
凛として時雨のピエール中野や大森靖子、NIGHTMAREのRUKA、Bo NingenのTaigen Kawabeといったミュージシャンから、漫画家の西島大介、電撃ネットワークのギュウゾウ氏まで、各所から著名なアーティストがコメントを寄せている。
Maison book girl 1st album 「bath room」 特設ページ
また曲のかっこよさもそうだが、無邪気さと静かな狂気をはらんだMVのクールな世界観にも胸を掴まれる。
ユニットの概要
Maison book girlとは、プロデューサーで作曲家、鬼才・サクライケンタのプロデュースによるアイドルユニットである。
メンバーは上の画像の左から、井上 唯・和田 輪・コショージ メグミ・矢川 葵の4人。アイキャッチ画像の一番左、宗本 花音里が2015年3月に脱退し、新たに和田が加入した。
サクライケンタは、アイドルユニット「プラニメ」でミズタマリとしても活動していた茉里のソロアイドルユニット「いずこねこ」の元プロデューサーで、彼の楽曲は現代音楽とアイドルポップスを融合させた「現音ポップ」と呼ばれている。
あとロリコンである。あ、この記事のタグの"変態"っていうのは彼のことです。
そんな彼の既存のアイドルソングとは一線を画す楽曲と、ロリコンのプロデュースにしては平均年齢の高い個性豊かなメンバーのパフォーマンスが魅力だ。
またファッションブランドとしても展開しており、音楽シーンのみならず、ファッション、アート、ストリートカルチャー面においても今後の活躍が期待される。
音楽シーンにおける"アイドル"の今後
アイドルがプロデュースされる場合、一般的にはアイドルのキャラクターやコンセプトが先にあり、それに沿った楽曲が用意されるのが基本だろう。
しかしMaison book girlはおそらく違う。
作曲家・サクライケンタが持つ楽曲の強い世界観を、アイドルというフィルターを通して表現するに最も適したメンバーが充てがわれている。
いわば"世界観先行"のアイドルだ。
そしてそれは作曲家本人の演奏でも、バンドでも描けない、アイドルという形だからこそなしえる、新しい表現の形だ。
笑顔で踊って歌うとか、自分にできないことをやってくれるので。それにより、自分の表現したいことがメンバーの力で増幅できたらとは思います。おっさんの僕にはできないので。
――Real Sound インタビュー「プロデューサー・サクライケンタが語る、Maison book girlの音楽的仕掛け」より
これはあくまで私の所感だが、元々アーティストの精神面や内面の表現手段としての色も強かった"バンド"は現在の音楽シーンにおいて、SEKAI NO OWARIやゲスの極み乙女。などを代表するように、音楽だけでなくそのキャラクター性までも含めた総合表現として、エンターテイメント化が進んでいる。
そして元々エンターテイメントとしての毛色が強かった"アイドル"は、でんぱ組.incなどを代表するように、むしろそのパーソナリティーや個性が前面に押し出され、アーティスト化が進んでいるように見受けられる。
そんな時代において、彼女達のような"世界観先行"型のアイドルが生まれたのは、むしろ自然なのかもしれない。
現代の最先端、いやそれどころか未来のアイドル・スタンダードの先駆けになるかもしれない彼女達と、そのプロデューサーであるサクライケンタ。
Maison book girlの今後の動向に大注目だ。