お前らがThe Smiths聴いてくれないなら僕はもう死ぬ。
音楽の趣味というのは、お互い人に押し付けがちである。
「こんなに素敵な曲、私だけのものにしておいていいわけが!」
という善意の分厚い建前のせいで本人の中ですら見失われがちだが
「こんな曲を知ってる俺はサブカルエリート」「圧倒的センスで優位に立ちてえ」
と、根底にくすぶる生臭い心理が善良な音楽ファンを悪徳趣味押し売り業者たらしめるのだ。そしてその悪臭がお互いを遠ざける。なんて理にかなったシステムなんだ。
そんな音楽押し売り業界の急先鋒の僕は、黙しながらも心の底でThe Smithsの流布を渇望している。頼む聴いてくれ。一部の日本人に局所的にスミスが流行したとして、僕には一銭の得もないのになぜだろう。アルバム一枚丸ごと聴いてくれるなら貸付の送料ぐらい僕持ちでもいいくらいだ。
入口からここまでの間で「なんだスミスか…」と過半数が脱落したことだろう。故に僕はあなたがた残存兵を大切に取り扱いたいと思っている。
好きだから言うが、正直言って古臭い音楽だ。BauhausやJOY DIVISIONよりは幾分かポップだがそれでも30年の時間は見えない大きな壁となって立ちはだかることだろう。前置きなしでいきなり聴いてもらっても「花束ホモ」で終わってしまいそうなので、聴く前にあなたがたの心境を適切な状態にまで整えたい。そう思うのだ。
まず、一旦今聴いている音楽を忘れて欲しい。言うなれば、現代の音楽はPS4やWiiUみたいなもんだ。今から聴くThe Smithsは良くてスーファミ、メガドライブだ。スプラトゥーンみたいなのは期待しないでほしい。
ゲームの面白さだって画質や下馬評に依らぬように、音楽の良さも音圧とか流行りだけじゃないのだ。マリオメーカーなんかニューウェーブリバイバルみたいなもんだろう。名作はどれだけ時間が経とうと風化しないのだ。そいうわけでこの名作「花束ホモ」をプレイしてみてほしい。
一時期邦楽で散見されたこのコーラス掛かったギターも最近じゃ時代遅れなのかめっきり見なくなった。どうしようもなく好きなのに。
音楽的な面で言うなら、主神モリッシーのしっかりしたメロディラインと副神ジョニーマーのギターワークがThe Smithsの核だろう。動きの多いアルペジオや軽快なカッティングが後ろ暗さを持った明るい響きで聴く者をなんとも言えない切ない気持ちにさせる。エモいって、こういうことじゃよ。
歌詞もなんだか薄暗い内容が多い。自分の精神性について疑ったり、人の幸せを妬んだり。ちなみにこの曲の歌詞は「金持ちのイケメンに振られるホモ」だ。僕が頑張って頑張ってオススメしてるのに、モリッシーめ。
サビで「もしかして僕は頭の病気まだ治ってねえんか?」と言いながら寝そべる斬新なパフォーマンスに注目だ。
この根暗さがこのバンドの、UKロックの醍醐味だ。日本と同じく国土を海に囲まれたイギリスはやはり島国根性という点で日本と距離感の近しい国である。そう思えばアメリカは遠い。あいつら何かあるとすぐU!S!A!だもん。分かり合えないよ。根暗な日本人のみなさま各位には是非これを機にUKロック沼にズブズブとはまって欲しい。
現代人の病んだ神経と近いところにある曲。気になった人は是非歌詞もどこかで調べて読んでみて欲しい。
毎日毎日ニュースを漁り何かしらの新譜を聴いていれば、毎日何かしら「あ、良いじゃん」という一曲が見つかる。しかしその中で一年後もまだ頭の中に残っているものは両手の指で数え終わる程度だ。自分にとってThe Smithsはそういうバンドだった。願わくばみなさんの御眼鏡にも叶えば、嬉しい。