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ヒグチアイと、音楽における共感の重要性

 最近ふっと思ったのだが、ピアノの語り弾きシンガーってめっきり見かけなくなった気がしません?

 今朝のニュースでアンジェラアキ先生が2年振りに活動を再開!

 と大きな見出しでデカデカと報じられていたが、正直活動休止していたことすら知らなかった。ファンの方いたら申し訳ない。手紙、いい曲だよね。

 今の流行りはもっぱらEDMやヒップホップ勢。この世相の中で、シンプルな構造をとる弾き語りシンガーは苦戦を強いられてる印象だ。たとえEDMじゃなくとも、何かしら特殊な要素を取り入れなければ音楽業界で生き残れない構図が出来上がってしまっているのではないか、とさえも思う。

 この人、ヒグチアイも弾き語りシンガーに枠組みされるアーティスト。音楽性の逆境で戦っているミュージシャンの一人だ。

 そんな彼女の武器、上で言う特殊要素は"共感"なんじゃないかと。

 歌声と歌詞を重視する邦楽では40年以上も前からあらゆるアーティストに使われてきた一番古典的かつ強力な個性だ。

 ヒグチアイの共感力は、音楽性の不利を押し返してしまうほどだ。きっとEDMで耳がキティちゃんのサンダルみたいになったみなさんにも刺さるはず。ちょっと彼女について紹介させて欲しい。

 皆さんこの曲を聴いて何を思いましたか?

 楽曲のテーマはずばり失恋、万人が経験しているであろうこのイベントは実に扱いやすい表題だ、恐らくほぼ全ての人類が通ってきた道のはずだ。え、はずだよね?

  この失恋ソングとやらは非常にたちが悪く、失恋したばかりの時に少しでも耳に入るとピタリと共感を引き起こしてしまう。失恋なんてそうバリエーションのあるものでもないし、普段の精神状態じゃとても受け付けないような西野カナの歌詞にも失恋直後は「イエス、震える…」となってしまうよね。

 人間は集団で同調しながら生活を営む生き物だ。失恋だけに限った話ではなく、何か悩みがあれば誰かに相談したくなってしまうあの現象、あれこそがまさしく他人から共感を求める自己救済行動だ。人も同じ悩みを抱えていることを確認して安心を得ようとするらしい。

 ようするに強い「共感」を用意する事によって音楽は一つの役割をもつようになるのだけれど、共感を得ることはそんなに簡単な事ではなくそれなりに高いハードルがある。そうやすやすと心を開くほどリスナーも簡単にはできていない。

 共感が重要だ、なんてことは僕でも気がつくようなことなので当然ミュージシャンのみなさんは共感を迫るような歌詞を世に出している。ここ孤独の国、日本には共感できそうな歌だらけである。共感に迫られすぎてリスナーは共感ソムリエ状態になりつつある。

 かくして会いたい会いたくないでは共感を得られない程にリスナーの耳は厳しくなってしまった今、何故ヒグチアイが描く恋模様にここまで惹かれるのか。

 一度じっくりと歌詞を見て欲しい。そこに氾濫しきった失恋ソングとは少し違った風景が見て取れる。

ココロジェリーフィッシュ つながった気持ちは いつも最短距離を走るの
でも今は届かない 聞こえない 君の鼓動さえも
海の中 ゆらゆらと揺れては 闇をベッドに星を仰いで
会えるなら会いたい 素直な気持ち

-ココロジェリーフィッシュ

 心が揺れ動く感情をクラゲの泳ぐ様で比喩し、不安ながらも次の一歩を踏み出すストーリー調の歌詞、同じ「会いたい」でもかなり印象は違う。本筋の気持ちを表すにあたってほんの少しだけ遠回りしているからか、ラブソングにありがちな甘ったるさを微塵も感じない。

 このほんの少しの遠回り、絶妙なニュアンスこそが、我々の心にするするっと入り込んでくる要素になっている。

 俗に言う、インディーズと呼ばれるアーティストを好んで聞く人は大抵素直な性格はしていない。私なんかも至極捻くれ者で、ストレートな表現はどこか嘘っぽさを感じてしまう。

 ようするにちょっと恥ずかしいのだ。アイラブユーだとか好きだとか、等身大のセリフについていくことができない。その羞恥心を取っ払ってくれる力が、彼女の詩には含まれている。それを描き出す感性が、ヒグチアイの最大の武器だ。

 

ライブだともっと凄い

 さきほど懇々と彼女の詩について語ったが、真価はその感情を削ぐことなく出せる演奏力。ライブ映像を見るだけでも一目瞭然、一音一音に込めている情報量が半端じゃない。

 歌い出しから格の違いが見て取れる。仮にヒグチアイを全く知らず対バンのゲストのノリで聞いていたとすれば、間違いなく「おっ、これ良くないか?」と興味を惹きつける存在感ある歌声。

 自らを"自分のうたを自分の声でうたっている人"と表現してるところを見るに、自身のアイデンティティを良く理解しているのだろう。その存在感を余すことなくぶつけにきている。

 そしてどうしても触れておきたいのが、サポートアクトの豪華さ。

 ベースはSchool Food Punishmentの山崎英明、ドラムに東京事変で活躍した畑利樹とまさに鬼に金棒状態。

 この二人を見るためだけでもお金を払いたくなるほど豪華なメンツ、彼女に対する売り出し側の本気も見えてくる編成だ。

 

これからの行く末

 いかがだっただろうか皆さん、今回の記事でいかに共感性が重要なのかがわかっていただけたでしょうか。

 ヒグチアイの描く世界観や演奏力、その一つ一つの挙動が綿密に作用し合い、我々の内面に響いてくる。

 そして今年の秋にメジャーデビューが決まり、これからより多くの人々にヒグチアイという文字、歌が認知されていくだろうと予測される。

 そんな大きな節目となるニューアルバムが果たしてどのような形となって世に放たれるのだろうか。彼女が次に放つ一音は、一体どんな音なのだろうか。期待を膨らませながら待つとしよう。それでは。

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