みんなリコチェットマイガールが売れるのを待っている
「このバンド、あと一歩で人気爆発すんな」
バンドはそう言われ始めてからが途轍もなく長い。俺の知っている人だともう7年くらいその状態を継続している人もいる。もう32歳である。後期高齢者である。いまさら人気爆発しても老衰だろ。
リコチェットマイガールもその"ブレイク寸前"に位置するバンドの一組だ。
そういったバンドのファン層はやっぱりなかなかに気合いが入っているタマが多く
「フェス参戦!キュウソ最高!」
みたいな気軽な楽しみ方をしている所から5〜6歩進んで、バイト代のほとんどを音楽につぎ込み単位も取らずに身近なライブハウスに通い詰める前のめりな学生が多い。そこらへんのバンドマンよりコアなバンド事情を知っており、バンドマン崩れとつき合っていてライブハウスの店員と浮気をしていたりする女たちである。タワレコのバイヤーなんかよりもよほど良いバンドを確保している。
要するに"ブレイク寸前"というのはそういう地獄沼のような場所で闘っている状態であり、上記のような熟練の客ばかりだからバンドの実力がダイレクトに反映される厳しい環境である。
しかし逆に言えばこの地帯で頑張っているバンドはもう本当に出来上がりつつあるのだ。
まさにライブハウスからの叩き上げてでここまで上り詰めたリコチェットマイガールは、スタイルも地盤も整っている。ライブに行けばメジャーバンドの半額近くのチケット代で倍は楽しませてくれる。
しかしここで留まり上を目指さないでいて正解のバンドなんかじゃ、もちろんない。音楽性的にも、もっともっと上を目指してこそ華のバンドだ。
ファンも同世代のバンドたちも、みんなリコチェットマイガールが売れるのを待っている。
リコチェットマイガールは曲じゃなくて唄
インディーズバンドっぽいラフなコンプ感の音源が映える一曲。たぶん、エスケープはリコチェットマイガールのキラーチューンだ。
この曲しかり、インディーズ1stから彼らのウリは徹底してVo稲荷直文のシンプルかつ耳に留まるメロディラインと、しゃべり声そのまんまの歌い声だ。
なんだかんだ言えどもやっぱり邦楽はボーカルが最重要。いくら楽器隊が上手くても弾かない人にとってはただの伴奏である。人口の8割はベースの音がどこか聞き分けられない説だってある。対して、代わりの効かない稲荷の独特な声質とピアノ弾きらしい安定感のあるメロディは卑怯なくらい彼らの強みとなっている。"曲"としてより"唄"として完成されていて、ベースもギターもドラムもちゃんとその方向を向いて楽曲が作られている。
そういう地の部分で闘えるからか、結構珍しいKeyVoという点なんかもいちいち個性としてアピールしてこない。アピールしなきゃいけない個性なんか、基礎がしっかりしていれば不要なのである。
平均点が高い
たしかタバコ吸わないのにMVで無理して吸っておる。
楽曲の平均点が高い。多分だれに聴かせても「良い歌じゃん」となる楽曲ばっかりだ。
しかし個人的には、それが彼らの一番の問題だと思う。優秀故に一点の突出がない。
このバンドがここから先に行くには、これ以上コツコツライブや実地の活動でファンを増やして行くだけじゃファンの流入出のレシオが1:1に傾いていってしまう。
ドカンと売れるようなバンドは、何かを犠牲にしてまで一点に特化する。ほら、ゆらゆらゆらゆら〜とか、今度会ったらセックスしよう、とかね。それらは陳腐な例ではあるけれども、やっぱり「音楽はインパクト勝負」というのは一つの真理らしい。
リコチェットマイガールは何も犠牲にしていない。オールラウンド、良い歌をただ歌うバンドだ。それの何が悪いかって、そりゃ何も悪くはないけども、売れる売れないは悲しいくらいに良いか悪いかなんかじゃないみたいだし、俺は彼らには売れて欲しいと思う。
紙一枚の厚みの先にブレイクがある
しかしだ、逆に言えばそうやって今まで積み重ねてきた流れで売れる事が出来れば、その後が強い。
たとえば急な方向転換から売れたバンドなんかは、既存のファン、一番コアなずっと応援してくれるはずの大事なファンが離れていってしまったり、新しいファンが過去曲をライブや音源で聴いて「何か違う…」となって居着かなかったり。
今のところリコチェットマイガールが今までリリースしてきた曲は純粋に良い曲で万人に好かれるものばかり、過去作を聴いて幻滅されたりする恐れはない。
この状況ならもう本当、リコチェットマイガールの既に持っている要素の中で、新規のファンに刺さるような、胸揺さぶるような歌詞とメロディ、あとMVなんか作って売り出せば一撃で売れてしまうはずだ。
彼らがライブでファンに対して
「もっと大きい舞台に連れて行きたいです」
と宣うのが嘘にならない為にも、その一発でちゃんと約束を果たす彼らを俺は見たいなと思うよ。なんならこの記事で発火したりしないかな。
早く売れてしまってくれよ、リコチェットマイガール。