The pillows山中さわおがリミックスしたからArtTheaterGuildのEPがほしいわけじゃない
The Pillowsというバンドがいてだ。これを読んでるあなたが今年いくつになるかはわからないけれど、音楽が好きで特に邦楽が好きでしかもロックが良いなんて人ならいつか絶対に出くわすバンドだ。
「ピロウズ好き?」
と、人に訊くと、返ってくる返事は「好き」か「知らない」の2つだ。彼らの音楽を嫌う人間に会ったことがない。少なくとも僕は大好きで、iTunesをシャッフルしてるときにThe pillowsの文字が見えると無意識に指を止めている。
今の高校生にこの良さを説明する方法を今しがた30分ほど考えてみたんだけど、思い当たらない。食べ盛りの少年たちに芽キャベツのウマさを説くような困難だ。
ただ、わかってほしいのは僕らが高校生の時に流行ってたからその趣味を押し付けてるとか、「やれやれ最近の若者は」みたいな冷や水ではないということ。ピロウズの結成年に僕は生まれてないし全く世代ではない。けど、邦楽でロックで歌ものが好きなら数年後に「ピロウズいいじゃん」って結局なりがちで、純粋に良いものを「これ良いぜ」って勧めている感覚なのだ。親が子に「大学は出とけ」と言うような感じと近いのかもしれない。
これだけピロウズの話をしておいて難だけれど、今回の本題はピロウズではなく、まだ生まれたばかりの新しいバンド、ArtTheaterGuildのレコメンドだ。
さわお「全曲カバーしたい」
The pillowsのフロントマン、山中さわおが「ArtTheaterGuildの曲、全曲カバーしたい」と言ったらしい。で、全曲彼の手によってリミックスされて1stEPが再販。現在完売に次ぐ完売で入手困難な状況にある。
ここで「なんだ、ピロウズのネームバリューでCD売れてんのか」と思った人もいると思う。その前に一回曲を聴いてみてほしい。
すげえ好き。これアンチエイジングしたピロウズじゃん。
以前別のアーティストの記事で「ほかのアーティストの名前でゴリ押し宣伝するのはどうなのか」ということを書いたけれど、その不健全性の正体は"ビジネス感"にあるんじゃないか。その人である必要性すら危ぶまれる程のゴリゴリのタイアップとか、会社が透けて見えるくらいのプッシュアップとか。
そう考えた時に、山中さわおとArtTheaterGuildの関係にはそういう色が見えない。これこいつらお互いが好きでやってんな、という感じ。ごく主観なので人によってどう映るかは違ってくるとは思うけど、僕には「師匠が弟子に一子相伝の奥義を伝達してる」みたいな構図に見える。
2サビでオクターブ上げるのが白い夏と緑の自転車みたいで好き。
The pillowsのパクりと見るか、正当後継者と見るか、ピロウズファンの間でも意見が分かれそうだけれど、僕はなぜかすんなり受け入れてしまって、EPの予約を首を長くして待っている状況だ。
声もメロディセンスも音も構成も歌詞性も、酷似していて違いを探す方が難しいくらいなのに、嫌悪感を抱かない理由は何だろうか。
一つは山中さわお公認であるということ。人のふんどしでスモウを取るなんて言葉があるけれど、さわおが「いいよ」ってふんどしを手渡ししているならそこに窃盗性はない。本人が「真似しないでよ」って顔をしていたら、見方はもうちょっと変わっていたかも。
もう一つは彼らがピロウズと比べて全く劣化していないこと。パクりに対する嫌悪には一部「こいつ、俺の好きなバンドを真似して更にダサくしてやがる…」みたいな気持ちもある。アートシアターギルドは似すぎてそういう感情すら沸かない。これをピロウズの新曲といって聴かされても「へえ!中期みたいですげえいいじゃん!」と言ってたはずだ。すげえいいもんこれ。
"パクり"という言葉を使ったけれど、感覚的にはパクりと言うよりもピロウズの子孫が別のピロウズを見せてくれてる。そういうイメージ。歌舞伎とか落語とかの二代目が、なかなか先代に劣らぬ才気を見せている。そういうイメージ。
しかし彼らが全くピロウズと同じように変遷していって、ずっとピロウズのままでいるとは思えない。ピロウズとは違った変化、発展、独自性をここから開花させていってくれるんじゃないか。
そういう意味でこれからがとっても気になるバンドだし、お金を払わせてほしいバンドだ。さわおが絡んでいようがいまいが、このEPは欲しい。
ArtTheaterGuildと山中さわお。新鋭と先達のこういう関係性はとっても素敵だ。
もちろんピロウズからArtTheaterGuildへの集客はあるし、逆にArtTheaterGuildがこのまま頑張っていけば、そこで発掘した若年層のファンにピロウズを知るきっかけを提供することだってできる。
どうでしょうArtTheaterGuild。EPは入荷後即完売状態だ。手に入れたくても手に入らない状況。どっちが先に買えるか勝負だ。