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2016/11/30

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星野源って、ふつーのオジサンじゃん。

「なんで紅白に出てるの?」

 大晦日の夜、悪気のない声色で言い放ったのは母だった。僕はその一言に背筋が伸びるようなショックを受けた。確かに。音楽的センスは間違いない彼だが、そんなこと知ったこっちゃない40代後半のオバサンからしたらば本当に本当にただの青年にしか見えないのだろう。

 物事は意外と、その最前線でバリバリ関わっている人間よりも、まったくの予備知識を持たない素人の方が斬新な発想を持ってくる。

 僕は音楽のプロでも玄人でもない。言うなればファン。ただ音楽がちょっと好きなだけの人。対して、うちの母のように「顔が好きだから」という理由で20年近くB'zのベストアルバムを聴き続ける人間からしたらば、星野源のバックボーンはもちろん、今音楽がどういう経緯をたどって彼の音楽が「最新鋭」という暗黙の合意に至ったのか、そんなことは知らんのである。360度回ってきて逆に新しいんだよ!なんて言っても、その過程を知らぬ人が見ればそれは0度、進歩ナシなのだ。

 僕らの脳ミソは本当にガバガバだ。敵は本能寺にあり。本当に信用ならない。最近聴いた話だとかき氷のシロップは全部同じ味で匂いと色しか変わらないらしい。嘘だろ。いままでイチゴ派をバカにしていた俺たちブルーハワイ過激派も同じ人間だったなんて…そんな気持ちだよ。

 だから、星野源なんかはスーパーで売られているエビ天よろしくもうそういう先入観の衣ゴテゴテの商品なんじゃないか、そう思ったのだ。

 今回はその衣を剥してエビのサイズを確かめたいと思う。

評論を読んでみた

 この手のミュージシャンは一種の教祖と化しているので、少しでも貶せば怒り狂った教信者に処刑されること必至。故にクリーンな音楽メディアでは間違っても「80年代の焼き増し、おニャン子クラブのリサイクル」なんていう風には書けないのだ。CINRAもナタリーも悪くねえ。殺すなら俺を殺せ。

 映画も面白いから是非見ようね。てっきりオマージュかと思っていたが、探せどそういう記事は見当たらない。この記事を読んで誰かが変に勢いづく前にいっておくと、もちろんパクりではない。しかし星野源のやりたい音楽はやはり「この時代の空気感の再現」というやつらしい。

 彼の功績はこのムーブメントを確固たるものにしたことか。一部の「メジャーも良い音楽なら聴く」ということをアイデンティティにしたサブカルたちにバカウケ。具体的に言えばくるり岸田とかが好きな30前後のメス。それに目敏いサカナクションがのっかたりでもう大騒ぎやでホンマ。

 さて、他のサイトを読むとどこも似たようなことが書いてある。
「J-POPの再編、ブラックミュージックのリズムを取り入れた歌謡曲」
 こんな具合だ。

 つくづく思っていたのだが、最近なんでもかんでもブラックミュージックブラックミュージック言っとけばいいみたいな風潮がある。何だい、僕の知らない所でそういう取り決めをしたいのかいみんな?「跳ねたり溜めたりするビート」とかわかりやすく言っちゃうと黒人に殺されたりするのかい?それ言えば偉くなれるってんなら言うぜ、俺もよ。

 件のそれは邦楽ロックにはあまり見られない要素だが、ポップスにおいてはそれはもう大昔からあったもんだと認識している。言葉だけが今更流行っているような、そんな感じ。これも星野氏にこびりつく衣の一種だと思う。

 そんなわけで僕の中では彼の音楽はやはり80s J-POPリバイバルで話にカタがつく。

 思えば「恋するフォーチュンクッキー」とかなんかもそういうことやってたが、あれはむしろうちの母みたいな人たちを向いた音楽だった。Uptown Funkとかと同じだ。ムーブメントみたいなものもそこから生まれたわけではなく単発の弾だ。いや撃った人もそれはそれでハンパじゃない。

 過ぎ去った流行りをまた引っ張ってきて「うわ!逆に新しい!」なんていう風に思わせるのは、一個人の膂力でできる範疇をはるかに超えている。それをやってのけたのが星野源の偉大さそのもの。あなたはファッション誌かね星野よ。

 

この地位に至るまで

 略歴は調べたらでてくるのでここでは誤解を生む表現でザックリ説明する。

「サブカル業全部に手を出したら細野晴臣とコネができて成り上がってaikoを捨てて二階堂ふみと付き合った。ハマケンは見捨てた」

 僕は母にこう説明した。誤解は生むし人を怒らせかねない説明だが、これで概ね正しい。

 これは音楽業界の常識なので覚えておいてほしい、YMOと鈴木慶一がお墨付きを押せば後は何やってもサブカルからべた褒め。僕も褒められたらロックの再編とか言いながら全裸でリコーダーカンカンやって歌ったりしたいぜ。

 今この瞬間の星野源に至るまでに、彼は本当に色々なことをやってる。「文才のある彼」「俳優もこなす彼」「トークもできる彼」その全てが彼の音楽に付加価値を与えているのだ。こんなサブカル王子様が作る音楽、悪い音楽なワケないわ!そういうことだと思う。そして者に構えて聴いても実際良い曲ばかりだから手が付けられない。

 それらの付加価値は足の短い垂れ目のオジサンを端正で知的なイケメンへと変貌させる。絶対身長盛ってるよ星野源よ。

 かき氷の味ぐらいなら脳の誤差に騙されても良いけれど、先入観に股を開くのはいささか問題だろう。バンドマン、およびバンドやってましたマンならだれでもカッコよく見えてしまうサブカル女子のみなさんには猛省を促したい。ええ僕も黒髪ボブで音楽が好きそうな女の子みんな好きです。脳が憎い。

 

良い曲、とは言ったが

 さきほど文中にて「実際良い曲ばかり」と言った。それに嘘はない。日本人好みのストレートなメロディとシンプルな展開。あとCメロの使い方がとても上手い。

 しかしね、ポップに寄りすぎて何か突出したものがない。他に作曲業を生業としている人たちの作る量産歌謡曲でも代用が利く、なんていったらひどすぎるか。唯一の個性である昭和感も、これから真似る人らが出てきちゃうことだろう。

 しかし星野氏もそこに留まる気は毛頭ないらしい。築いた地位でよりポップ層に食い込めと言わんばかりの姿勢だ。やっぱり聡いぜこの男。

 

 サブカル女たちを養分にすくすく育った星野くんは、サブカルを踏み台にメジャーで幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。なーんて、世の中そんなに上手くいくのだろうか。

もう彼は来るところまで来てしまった。本当の実力が試されるのはこれからだ。黙して見守りたい。

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