退廃的ファンタジー Aysula
先日、FLAKE RECORDSを初めて訪れた。大阪府難波付近に存在する邦洋インディーズロックを主に取扱うCD・レコードショップだ。
他の店のように邦洋レコメンド棚はあっても、「あ~わ」行の棚が無くどこか雑多な印象がする。しかし、一つ一つの音源にコメントペーパーを添えた丁寧さに愛情を感じられ、大々的な区分けをされていない分、リスナー一人一人が様々な未知の音楽(関西では此処だけしか入手出来ない・ライブ会場限定のグッズも販売されている)を自由に探せるとても良い環境だ。個人的に楽しさのあまり1時間も長居してしまった。
是非、関西を訪れた際は立ち寄って欲しい。今回は手に入れた音源からビビッと来たバンドを紹介する。
重く冷たく
Aysula(アイスーラ)は2012年結成、名古屋を中心に活動している4人組バンド。バンド名の由来はアダム・イヴの39番目の(架空の)子孫、スーパーナチュラル(超自然的存在)から捩ったとのことだ。
のっけからガツンと来るグルーヴに心を奪われた者もいるだろう。Aysulaは70台以上のエフェクターを使用した重厚な音作りを得意としている。オルタナティブ・ニューウェイブ・シューゲイザーの影響を余すことなく受けたバンドサウンドは、今後より多くのリスナーにアピール出来る可能性がある。
このように書くと、「肝心のボーカルは?」と揚げ足取られそうだが、昨今流行りの所謂ハイトーンボイスではなく、それより少し低い陰鬱さを交えた独特な歌声だ。何処となくセクシーなので、激しめのロックが苦手な女性の方々も十分受け入れられるはずだ。
・・・しかし、ある明確な弱点がある。
不明瞭な歌詞
先程の曲を聴いた方々は曲の歌詞を聞き取れただろうか?
一聴して英語歌詞だと思った人も中にはいるだろう。しかし、実は日本語である。以下は37秒までの歌詞の一節だ。
愛を棄て あざとい理想へと届いた女性が
斜陽さえ欺く 凛としたシルエット
体温が奪われる 吐息は深黄緑色だ
一瞥以来へと重ねる 小粋なライオットを1st mini album『Release me』Track 4 “remark ” より
正直に述べさせてもらうと、歌詞の難解さも相まっているためか中々聞き取り辛い。特に「届いた女性が」と「深黄緑色だ」の箇所はそのまま歌わず、縮小または別の読み方に変換しているのではないか?と考えられる。
しかし、1つの曲だけではアーティストの全体像が見えないので、別の曲もトライしてみよう。次は1分10秒までの歌詞から先にご覧いただこう。
廻り出す干支四海
真綿の手乗り詩
逆さまを繰り返す
濃い雨を望むなら・・・イメージへ飛びたい
1st mini album『Release me』Track 2 “sphere ” より
こちらは歌詞通り歌っている。しかし、シューゲイザー色の濃い曲なので、ボーカルが轟音の中に埋もれておりこもっているように聞こえる。そのため、やはり不明瞭であり聞き取り辛い。
声自体と演奏はカッコいいのに、好みが分かれるポイントだ。しかし、それこそがAysulaの特徴または魅力に成り得る物だということを次の項目で見てみよう。
音から生み出される風景
例えば、ASIAN KUNG-FU GENERATIONは中村佑介、ストレイテナーは中山美六堂と絶対的なジャケットデザイナーが存在する。そして、Aysulaにもそれが当てはまる。
こちらがデザイナー河合真維によるAysulaの1st mini album『Release me』のジャケットデザインだ(この記事のトップ画像も同氏の作品だ)。この「退廃的なファンタジー」のジャケ絵がAysulaの音楽を最も端的に示した物かもしれない。
Aysulaにとって、歌詞はあくまでバンドが表現する轟音及び「退廃的なファンタジー」世界を形成していくための要素の一部、つまりパズルの1ピースに過ぎないのだろう。もちろん、歌詞に意味やメッセージ性が無いと言っているワケじゃない。しかし、曖昧や不明瞭に思われる歌の部分はリスナー一人一人に自由な解釈を与え、曲中の物語や背景を考えさせる、そのような趣を最も大切にしているのだ。
最後にインスト曲を。ポストロックのアプローチがされている6分の大作だ。言葉では表せない風景を見せてくれるバンド、それがAysulaである。