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スピッツ草野マサムネに学ぶ、気になる女子の口説きかた

 本日は、スピッツの歌詞で女子の口説き方を学んでみたいと思います。作詞はご存知のとおり、ボーカル草野マサムネであります。われわれはこれから草野マサムネの歌詞を読み、女子を口説くための技術を学んでいくのであります。それでは始めます。

 ひとつめの教材は『大宮サンセット』です。『色々衣』というカップリング集に収録されています。この曲の冒頭の一行を見てほしいのですが、そこにあるのは最高の導入なのであります。

この街で俺以外 君のかわいさを知らない

 この一文で始まるのです。これがすごいのです。なぜか?

 一般に、男が女をほめるとき、「かわいいね」と言うのです。これを「口説きの平均値」としてみます。では、平均以下の口説き文句とは何か? それはたとえば「かわいいって言われない?」であり、「モテるでしょ?」なのです。これのなにが駄目かといえば、相手のことをほめるのに第三者の存在を利用しているところなのです。

 なぜこんな言い方をしてしまうかといえば、自分に自信がないからなのです。恐怖心がリスクを取りたくないという気持ちを生み、第三者を経由した口説き文句を生み出してしまうのです。「かわいいって言われない?」という言葉は、自分自身の気持ちに言及しないまま言えてしまう点がだめなのです。

 ここはやはり、「僕は君をかわいいと思った」と断言して、言葉の責任を引き受けるのがマナーなのであります。そうすることで、ようやく口説きの平均値に達することができるのです。拒絶される可能性におびえながらも、「僕と君」の世界に誘いこもうとする努力だけはするべきなのです。

 以上を踏まえて先ほどの歌詞をあらためて読んでほしいのですが、草野マサムネは平然とその先に進んでいるのです。

この街で俺以外 君のかわいさを知らない

「僕は君をかわいいと思った」どころの騒ぎではないのです。「この街で俺以外、君のかわいさを知らない」と言っているのです。第三者の存在を真逆のかたちで利用しているのです。これはもう、ギリギリの言葉であります。他のやつらは君のことを全然かわいいと思っていない。そんなニュアンスさえ漂っているのです。

 しかし草野マサムネの真髄は、すぐさま次のように続けるところにあるのです。

今のところ俺以外 君のかわいさを知らないはず

「知らないはず」と言い直し、唐突な断言に動揺している彼女をふわっとやさしく包みこむのです。さらに「今のところ」と付け足すことで、彼女の未来まで予感させているのです。すなわち、「やがて世界は君のかわいさを知りはじめるだろう」ということです。これは、愛の予言者としての言葉なのです。

「僕」と「俺」のバランス感覚

 ここで知ってほしいのは、草野マサムネが「僕」と「俺」のあいだで揺れる男だということです。おそらく世間的なイメージは「僕」の人なのです。その外見や声質から連想されるのは、「僕」としての草野マサムネでしょう。ここでいう「僕」とは、少年性であり、繊細さです。しかし草野マサムネというのは意外と「俺」成分も強い人なのです。「俺」とは男性性であり、一種の強引さと言ってもいいでしょう。

 そして、スピッツのシングル曲には「僕」の要素が多いのに対し、アルバム曲やカップリング曲では「俺」としての草野マサムネが全開になる曲が多く見られるのです。たとえば『俺のすべて』なんて曲も書いています。草野マサムネという人の不思議な魅力は、それが単純な「僕」ではなく、随所に混じる「俺」にこそあると私は考えるのです。

『涙がキラリ☆』の歌詞を見てみましょう。

君の記憶の片隅に 居座ることを今決めたから

 あくまでも君の記憶の「片隅」なのです。その控え目な表現に、繊細さや臆病さがあらわれています。しかし同時に草野マサムネは「居座る」とも言っているのです。ふしぎと強引で、押しの強いところもあるのです。「片隅」の直後に「居座る」という言葉が出てくるところに、いかにも草野マサムネ的な少年性と男性性のバランス感覚があるのです。

 ここでみなさんに知っておいてほしいのは、女子が魅力を感じるのは、「僕」だけの男でも、「俺」だけの男でもないということなのです。女子の胸がときめく瞬間は、「僕」だと思っていた男が不意に見せる「俺」や、「俺」だと思っていた男が二人きりのときにあらわにする「僕」にこそあるのです。


 

「品性」と「変態性」のバランス

 もうひとつ、別の曲を見てみましょう。『ラズベリー』です。

おかしいよと言われてもいい ただ君のヌードを
ちゃんと見るまでは僕は死ねない

 ここにあるのは、「品性」と「変態性」のバランスです。要するに、この人は相手の裸を見たがっているのです。ただそれだけのことなのです。しかし不思議と品がある。それは「ヌード」という言葉のえらびかたや、「おかしいよと言われてもいい」という丁寧な前置きによるのでしょう。

 しかし同時に、草野マサムネは「ちゃんと見る」という妙なこだわりかたも見せています。チラッと見るだけじゃだめなのです。君のヌードをちゃんと見たいと言っているのです。しかもちゃんと見るまで「僕は死ねない」のです。ここまで言われると変態性が漂ってくるでしょう。

 ここで知ってほしいのは、どれだけ付き合っても何の変態性も出てこない男のことを、女はあっさり「退屈でつまらない」と評することなのです。女は女で自己の内側に変態性を抱えて生きているわけで、ただひたすらに上品なだけの男が相手では、自身の変態性の持っていきどころがないのです。

 その意味で、変態性を持つことは異性を惹きつけるポイントではあるのですが、むろん、はじめてのデートに局部まるだしで登場すればいいわけではない。あくまでも求められるのは「品」なのです。ここでいう「品」とは、自分と相手の距離に敏感であることであり、自身の変態性とのあいだに適切な距離が取れていることと言ってもいいでしょう。

 草野マサムネは、少年性と男性性のあいだで揺れ、品性と変態性のあいだで揺れる人です。この揺れこそが魅力の秘密なのです。冒頭の『大宮サンセット』に戻れば、「この街で俺以外、君のかわいさを知らない」という力強い断言は男性性の迫力ですが、それが直後に「今のところ知らないはず」と言い直されるところで、少年性の繊細さがあらわれるのです。この微妙な揺れこそが、女子を夢中にさせているのです。
 

最後に

 以上、長々と読んでいただきありがとうございました。これで講義を終わります。みなさんも是非このバランス感覚を学び、草野マサムネ的なありかたをマスターすることで、意中の女子を口説いていただければと思います。

 ただ、最後の最後でハシゴを外す形になってしまい申し訳ないのですが、「こんなものは草野マサムネだから許される」という意見もチラホラあります。「真似できる類のものではない」という意見もあります。あなたが「この街で俺以外、君のかわいさを知らない」と言ったとき、女子の返答が「は???」である可能性もあるのです。その点、お気をつけください。それでは。

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