普段ジャズを聴かない人にこそ聴いてほしい Robert Glasper Experiment - Black Radio
現在世界で最も権威のある音楽賞、グラミー賞。今回紹介するアルバムはアルバム”Black Radio”は2013年のグラミー賞、ベストR&Bアルバムを受賞した作品。
”新世代ジャズの革命児”の異名を持つ男、ロバートグラスパー。知名度・実力ともに現代のジャズシーンのトップを走りながらもジャズの新しい可能性、どうしても保守的になりやすい”ジャズ”というシーンに自ら風穴を開けて新しい流れを作り出す男。
このサイトをやっていてもヒシヒシと感じるが、特に若い世代の人には顕著だが”ジャズ”と聞くとなかなかどうしても身構えてしまうようだ。
ロバートグラスパー本人も同様のことを語っており、このアルバムのコンセプトの一つは”いわゆるジャズリスナー”ではない音楽ファン達へのアプローチ。
もちろんそれはこのアルバムを構成する一つの要素でしかないのだが、私自身が彼の主張に共感する一人として、そういった側面からこのアルバムを紹介しようと思う次第である。
聴きやすい
Robert Glasper Experiment - Cherish The Day (Feat. Lalah Hathaway)
”ジャズを聴くぞ!”という気持ちでこの曲を聴いたならば、ちょっと肩透かしをくらってしまうと思う。ジャズをよく知らない人でもこれはジャズじゃないなと思うはず。敢えてジャンル分けするならばR&Bか洒落たポップスくらいのニュアンスになるだろう。
これを聴いて”良いな”と思った人は、是非楽器の演奏に耳を向けて聴いてほしい。特にピアノがわかりやすいが、超セクシー。リラックスする音と緊張する音との移り変わりの具合、私はこれを”呼吸”だと思うのだが、この呼吸の具合がとんでもなくエロい。
今回のではなくて世間一般が言うところのジャズは、歌もないしずっとソロばかり弾いていて、何を聴けばいいのかわからないといった具合で敷居を高く感じると思うが、つまるところはここなのである。呼吸のエロさ。
このアルバムは、フォーマット自体はR&Bやポップス的な聴きやすいものになっているのだが、その中にジャズの一番オイシイところ、エッセンスを惜しげもなく盛り込んだ作品なのである。
”ジャズ”に風穴を開けたアルバム
ジャズをあまり知らない人にとっては、あまり馴染みのない文化だと思うが、ジャズというジャンルはかなりの頻度で”カバー曲”演奏することが多い。
ただ、カバーと言うとちょっと語弊がある表現になってしまうのだが、いわゆる”カバー”というよりは料理のレシピくらいに思った方がニュアンスが近い。同じレシピのチャーハンでも一般人の作るそれとプロの料理人が作るそれとでは出来上がるものが全然違う、そんなニュアンスである。
そのレシピのことがいわゆる”スタンダード”と呼ばれる曲たちである。
今回のアルバム、先ほども書いたが普通のR&B・ポップス的なニュアンスで聴くことも出来るサウンドに作られているが、それと同時に”ジャズ的な聴き方・楽しみ方”ができるようになっているのだ。
Robert Glasper Experiment - Afro Blue (Feat. Erykah Badu)
こちらの曲はジャズが好きであったら、逆に知らずに生きていく方が難しいほど良く知られた名曲"アフロブルー"のカバーである。
この曲、知らずに聞くとやっぱり普通の踊れるR&Bくらいに聞こえると思うのだが、実はとんでもない一曲で、将来のジャズ史の教科書には絶対に乗るであろうほどの名曲である。
原曲はモンゴサンタマリア作曲、一般的にはジョンコルトレーンのバージョンが良く知られている、このAfro blueという曲、是非原曲やジョンコルトレーンバージョンと、今回のロバートグラスパーのアレンジとで聴き比べて見て欲しい。
もはや同じ曲を元に演奏しているとは思えないほどの大胆アレンジであるが、この斬新なアプローチこそが彼、ロバートグラスパーの真骨頂なのである。
今回紹介している"ブラックレディオ”というアルバムのテーマ、時代の流れによって分断されてしまった、ジャズ・R&B・ヒップホップ・ソウル…等々の黒人由来の音楽、それらを再び一つの音楽としてしまおうという試み。ロバートグラスパーのアフロブルーはそのコンセプトを体現する一曲なのである。
Robert Glasper Experiment - Smells Like Teen Spirit
最後にもう一曲紹介したいのがコチラの曲、まさかのニルバーナのあの曲、スメルズ・ライク・ティーンスピリットのカバー。ロバートグラスパー曰く「カートコバーンが曲に込めた意味、そのすべてがスピリチュアルだ」だそう。
聴きなれた曲だからこその、曲に対するそれぞれのプレイヤーのアプローチ、このアルバムでは殆どの曲を1テイクで録り終えてしまったらしいが、そういった即興性まで含めた、トップミュージシャン達の巧みな演奏を堪能できる。
保守的なジャズの視点からでは、ある種一番遠いところにあるスメルズ・ライク・ティーンスピリットという曲。それを敢えてカバーするという意味まで含めて彼の「既存のジャズの概念を飛び越えて次のステージへと進もう」という主張なのだろう。
いかがだっただろうか?
説明するためにそれなしではわかりにくくなってしまうのでジャズだ、ジャズじゃないだの書いたが、この作品のテーマ同様、細かいことは置いておいてとりあえずこの作品を楽しんでもらえたらと思う。
グラミー賞のお墨付きもあるし間違いなく聴いておいて損はない作品だ。
では今回はこのあたりで。