次世代のエレクトロニカスター LASTorder
エレクトロニカというジャンル、成立が遅かったこともあるだろう、
日本のロックやジャズなどが西洋音楽の猿真似になっているのとは対照的に、
日本のエレクトロニカが世界でも最先端をいっていることもあるジャンルだ。
そんなジャパニーズエレクトロニカ界に信じられないくらいの才能を持った若者がやってきた。
それが今回紹介する、 LASTorderだ。
わ、若けぇ!!
では聴いていただこう。
2013年発売の1stアルバムから、Reindeerだ。
LASTorder - Reindeer
幾重にも重ねられた電子音とノイズ。
全体を支配する、優しいメロディがなんともいえない多幸感を演出している。
曲のクオリティも申し分なく、ジャパニーズエレクトロニカを牽引し、世界に勝負できる内容なのではないだろうか。
そして特筆すべきは、なんとこの曲を発表当時、彼は19才である。
すごい。
19才って一般的な大学生が上手く言っていればウェーイ!と謎の奇声を発しながら毎日飲んだくれるか、
失敗していれば、取れない単位の不安を埋めるように毎夜、毎夜ネットゲームに興じる。
そんな年齢だと思うのだが。
蛇足だが、一応書いておこう。
エレクトロニカというジャンルの音楽を作るのは非常に難しいのだ。
まず一つ目の障害は、DAWの操作をマスターしないと作れないということ。
DAWというのは、まあ要するにコンピュータで音楽を作るためのソフトのことなのだが、コレの操作をマスターするのは結構根気が要る。
例えば身近なもので置き換えるとするならエクセルの操作などがそれに近いだろう。
確かに簡単な操作なら誰でもすぐに覚えられるが、実務レベルで関数などに手を出し始めた途端にえげつなく難しくなる。
そりゃあもうエクセル専門の講座なんてのも必要になってくるわけだ。
で、DAWの操作も似たような側面があるのだが、
いかんせん、このエレクトロニカというジャンルは複雑に音を作りこむため、非常に沢山の操作を覚える必要がある。
二つ目の障害は、曲のフォーマットがないことだろう。
例えば一般的なバンドの音楽は
イントロ→Aメロ→Bメロ→サビ
といった構造がある。
しかもいってしまえば、それぞれのパートの役割なんかも基本的に決まっている。
ドラムはビートを刻むし、ベースはコードのルートをメインで鳴らす。
ギターはコードかリフかメロディ、ボーカルなんて歌うだけだ。
ここまで言えばわかるだろう、圧倒的に作曲のハードルが低いのだ。
じゃあエレクトロニカはどうか。
上の曲を例に挙げてみよう。
鳥のさえずり→ピアノ→パッド系のメロディ(ここまでビートなし)→ビート(電子音)
曲のセクションにいたっては、既存のもので言い表せない。
どのパート、セクションをとってみても、まったく既存のフォーマットが通用しない。
エレクトロニカの作曲はハードルが高いのだ。
三つ目の障害は金がかかることだ。
エレクトロニカは音色命の音楽だ。一人で全パート作るという点もヤバイ。
その、豊富な音色を作るためにはハード、ソフト問わず沢山の楽器が必要となってくる。
しかもどれもこれも、あまり売れないので高い。
ただひたすら”ビー”と音がなるだけのおもちゃみたいなものでも、現在の技術の結晶であるプレステ4が買えてしまう、なんてことはザラである。
エレクトロニカの苦労をザックリと挙げたが、そういう世界である。
大の大人でも厳しいようなこの条件、彼はたったの19才で乗り越えた上で素晴らしい作品に仕上げてきた。
これは事件だ。
新アルバムは、もう年齢とか気にするレベルじゃないぞ!
あの若さでヤバイヤバイといってきたが、最新アルバムはもっとやばいことになっていた。
ジャパニーズエレクトロニカの最大の名誉、名門レーベルPROGRESSIVE FOrMよりリリースされた2ndアルバムから"Temporary Sympathy feat. Piana"のMVだ。
LASTorder - Temporary Sympathy feat. Piana
うおおおおお
彼の持ち味である多幸感はそのままに、さらに世界観、ビート、サウンド、全てがスケールアップしている。
またエレクトロニカだけでなく、ポップスとしての完成度も非常に高いのも面白い点だろう。
サビ的な部分のコード進行の部分なんて特にヤバイ。
緊張と開放、途中のえげつない不協和音にも聞こえるようなドミナントコード。
このダイナミックなコード進行は特に日本のポップスの必殺技みたいなもので、なかなか真似できるような代物ではない。
しかも、これがエレクトロニカのなかに収まるっていうのも発明レベルだ。
というか色々御託を並べる必要なしに気持ちいいサウンドだ。
うむ。
散々、この若さでコレはヤバイと言ってきたが、前言撤回だ。
もう若さとか、名門レーベルとか、そういった枕詞なしに、純粋に音楽だけで素晴らしいアーティストである。
いまは残念なことに、まだあまり知名度はないが、彼がエレクトロニカの第一線、その先のエレクトロニカというジャンルを超えた場所。
そこまで来るのはそう遠くはないのではないだろうか。