こんな世界でも「明日はきっといい日になる」、高橋優
個人的な意見になるけれど、音楽において歌詞は重要視されてない。
そりゃ当然の話だ。だって音を楽しむことこそが音楽の命題であって、そこから外れていなければ歌詞なんてなんだっていいんだから。あのタモさんだって言っている――「意味がない方が、気が楽でいい」と。一理ある。歌詞が左翼的だったりすると、なんとなく気軽に再生しづらくなるものだ。……つまりキュウソ最高ということ? メガシャキ~メガシャキ~、踊れば~!
と、話が脱線した。僕が今回言いたいのは、そういうことではなく――だからといって、歌詞をないがしろにしているアーティストばかりでもない、ということだ。ちゃんと日本語で「今」を歌う素敵なアーティストが、この国にもちゃんといる(amazarashi、スピッツ、ミスチル等々)
そんなアーティストの中で今回紹介したいのが、高橋優という男である。
日本生まれ日本育ちのくせに、英語で歌うインディーバンドの皆さん。無理すんなよ。日本語でだって素敵なロックを奏でられる。そこを、高橋優からもう一度確認していこう。
01
まずは知らない人のためにざっと紹介を――と言っても、もう既に有名なアーティストだ。『福笑い』とか、最近では『明日はきっといい日になる』という曲が、テレビなんかから流れているのを耳にしたことがあるだろう。
でも、それではダメだ。高橋優の良さは、自室で一人、CDプレイヤーの前で歌詞カードとにらめっこしながら聞いた時にこそ、わかるものなのだから。
J-Lyric 『明日はきっといい日になる』
(↑リンクを張ったので歌詞を見ながら聞いて欲しい)
思い通りの 人生じゃないとしても それも幸せと 選ぶことは出来る
(中略)
明日はきっといい日になる いい日になる いい日になるのさ《明日はきっといい日になる》
どうしてだろう、これだけの綺麗事を歌われながら「うるせえ!」と思わないのは。
多分これ、ナオ●インティラ●ミあたりが「イェイイェイイェイ! 明日はきっといい日になるイェイ!」みたいな歌をリリースしたら、張り倒したくなると思うんだけど……これは言葉だけ見てしまえば、それくらいの綺麗事だと思う。
じゃあどうして、このような綺麗事が、するりとリスナーの心に入ってくるのか。
それはきっと、高橋優は……明日が良い日になるかはわからないことを理解したうえで、それでも歌う意味があることを信じて、「明日はきっといい日になる」と歌っているからでないかと思う。
「別にいじめたくていじめていたわけじゃないけど、やらなきゃ今度は僕がやられる気がしたんだ」と
泣きながら語る少年に全てを擦り付け あげ足取りたがりのチャンネルが正義を語る
(中略)
まだ歩くことはできるかい? 転んでも起き上がれるかい?
そこから覗いてる景色は天国でも地獄でもない先進途上国
(中略)
きっと世界は素晴らしい《素晴らしき日常》
高橋優の言葉になぜ力があるのか――その理由の一端として、高橋優が世界・世間に対してフラットな目線を持っていることだと思う。
核問題。痴漢。イジメ。虐待。本当にこの世界は腐っててしょうがないことを、彼は理解している。そしてそのことを、包み隠さず歌に乗せたあとで、彼はこう締めるのだ――「きっと世界は素晴らしい」。
つまるところ、高橋優の歌は祈りなのだ。まず前提として世界が素晴らしくないことをわかったうえで、祈りの声として「世界は素晴らしい」と叫ぶ。だからこそ、リスナーはその声に撃たれるのだろう。
高橋「言霊じゃないですけど、『明日はきっといい日になる』って、いろんな人が口ずさんでくれたら、本当にいい日がやってくるんじゃないかと僕は思います。」
《ベストアルバム『笑う約束』 歌詞カードより引用》
02
この世の悪意から目を逸らすことなく、それでも希望を歌う高橋優。彼の歌詞の魅力は、それにとどまらない。もう一つ特筆すべきは、ふとした日常を切り取るのがすごく上手い、という点である。
…………音源がこれしかなかった。と、ともかく、歌詞を見てくれ!
コンビニを出ようとしたとき すれ違う子供がいたから
ふいに扉が閉まるのを 去り際の手でおさえたのさ子供の後ろの母さんが 「ありがとう」って僕に微笑んだ
ほんの2秒くらいの出来事だけど なんか晴れ渡るような気分嬉しいことも嫌なことも どっちつかずで格好悪い日も
一緒に食べて笑えればいいのさ 塩っ辛い毎日サンドイッチ《サンドイッチ》
素敵やん?(謎の関西弁)
どうだろう、地下室TIMESを見ている諸君にも、こういう経験はないだろうか。他人との関わりで、少しだけ憂鬱な気分にさせられた日。他人との関わりで、少しだけ愉快な気分になれた日。意外とこういう小さな事で、その日の気分が決まったりするものだ。……にしても、レジ前で小銭を出すのにテンパっちゃうあの現象、ホントなんなんだろう。お蔭で僕のサイフはいつも小銭がパンパンなんですけど。
話を戻して――このように、高橋優は誰しもにある日常を歌に昇華するのがホントうまい。日々の生活にある小さな苛立ち、喜びの感情まで楽曲にパッケージできるのは彼の強みだろう。
もう一曲。残念ながらベストには収録されなかった、高橋優屈指の名曲を聴いてみよう。
「バッタリ喧嘩に遭遇なう」右手で文字を操りながら
実際の表情はさて置いて顔文字に感情を込めながら
通り行く人々にその声はどれくらい届いていたんだろう?
「パパ大丈夫?」「パパ大丈夫?」と涙するあどけない声
(中略)
「君の将来希望で満ちてる」と液晶のシンガーは唄う
それを真っ直ぐに受け取れない心がポッケを彷徨ってる
(中略)
愛し合いながら憎しみ合い 助け合える手で陥れ合って
信じ合える瞳で疑い 付き合ったり遠ざけ合ってみたり
それ以上でもそれ以下でもない 僕らの道は明日へと続く
なけなしの愛情を振り絞り それぞれのゴールを目指して《雑踏の片隅で》
本当に言葉の力が強いアーティストだと、そう思う。
こういう嫌なことがある世界だと、そこを高橋優は包み隠さない。だけど、それを一面的に描くのではなく、リスナーに考えさせる――確かに、お気楽に聞ける音楽ではないのだろう。けれど、リスナーに問い掛ける力を持っている音楽だ。彼の楽曲には、聞く者を殴る意思がある。届けたい想いが込められている。
終わりに
いかがだっただろうか。少しでも、アーティスト高橋優について興味を持ってもらうことが、できただろうか。
正直な話、彼に関してはもう一定の成功を収めてるアーティストで、わざわざ僕が記事にすることもなかったんだけど――先月リリースされたベストアルバムがあまりに良かったんで、勢い書いてしまった。この機会に、気になってるけどちゃんと聴いたことはない、という人にも触れてもらえたら幸いだ。――具体的には、『高橋優 CANDY』とかで動画検索してもらいたい。そして「お、おう……」となってもらいたい。高橋優は綺麗事ばっか歌ってる人じゃないよ!
リアルタイムシンガーソングライター、高橋優。
あなたも日本人であるなら、彼が日本語で歌う「今」に、目と耳を傾けてみてはどうだろうか?