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谷澤 千尋

2016/07/16

コラム 記事

宇多田ヒカルの才能が尋常じゃないことを解説する

「結婚してくれBBA」一昨年辺り前ぐらいにはネットの各地でよく見ることの出来た一種のスラング的なものである。
BBAとは要はババアということだが、どう見ても侮蔑的な意味でしかないようにみえるが、"BBA"なのにそれの結婚してくれという、ひねくれまくったネットの民の逆説的な賛辞。
出る杭を叩きまくるネット界ですら愛されまくる稀代の歌姫、宇多田ヒカル。

と、ネット民からの求愛を受けまくっていた宇多田ヒカルだが、2014年にはイタリア人と結婚してしまうし今年の7月には第一子を出産。めでたいことだ。
その頃の私はというと「このタイミングで死ねば宇多田の子供に転生できる!」と思い波が強い港に来ていた。
だってあの宇多田ヒカルの子供なら、とりあえずイタリア人ハーフの時点でのアドバンテージに、音楽的な才能も確実、その知名度をいかしてミュージシャンだけでなく、俳優や物書きになるのもいいだろう。最悪そういうのに全く縁が無かったとしても不思議な力で有名建築家とか新進気鋭の映像ディレクターとかになりそうだ。もうどれだけ転んだとしても確実に勝ち組が約束されているのだ。
ということでその宇多田の子供の座をいただく為に海にダイブしようと思ったのだが、黒光りする波を目の前にして急に冷静になり、「競争倍率が異常に高そうだから宇多田はやめとこう・・・」となり、Beautiful worldを聴きながらそそくさと帰った。

いたいけな少女が歌う濃厚過ぎるLOVE


宇多田ヒカル - Automatic

宇多田ヒカルのデビュー曲にして世間にその名を知らしめた名曲。エロティックな曲調。15歳に歌わせていることを踏まえると、今なら「不健全」と言われかねないほどムーディー。
曲の特徴として旧来の邦R&Bになかった本格的なグルーブ感と本家アメリカなどには無かった日本独自のアプローチを挙げることが出来るだろう。そのためか、98年のリリースにも関わらず今聴いても古臭さをあまり感じさせない。(MVの映像はかなり時代を感じるけど)

曲自体の良さだけでも特筆に価することが沢山あるが、ここでは宇多田ヒカルの才能、歌唱に関して言及したい。
まずデビュー作であることや、当時15歳だったことを全く感じさせないほど歌が安定している。
ピッチ感や声量、リズムなど一般的な歌唱の評価のポイントで計ったとしても、全く欠点らしい欠点が無いどころか、どこを切り口にしても完璧だと言わざるを得ない。

歌唱の隙のなさ具合も凄いが、特筆すべきはその表現力の高さ。
個人的にそれが一番感じられる部分は、1番と2番の間奏の間の"ah yeah, yaeh yeah"の部分。
絶妙なタイミング、息の抜き方、少し軽めに発音する奥ゆかさ、それら全てが相まって最高にエロい。
15歳ってまだまともな化粧の仕方も知らない年齢のいたいけな少女は普通ならこんなエロいフェイクは絶対に出すことができない。
歌だけをずっとやってきた女性が20代後半になり、人生の酸いも甘いもわかり始めた頃にやっとそれを理解して出せるようになるレベルだと思う。
ただの偶然か、何か先人のマネなのか、プロデューサーの指示なのか、15歳にしてクッソエロかったのか定かではないが、とにかく宇多田が15歳にリリースしたCDには既にR&B的色気のエッセンシャルを濃縮したような表現が入っているのだ。

 

言葉の重みを知った上でそれらを自由に使いこなす


宇多田ヒカル - 誰かの願いが叶うころ

誰かの願いが叶うころ あの子が泣いているよ

宇多田ヒカル - 誰かの願いが叶うころ 歌詞より引用

映画キャシャーンのテーマソングになった一曲。
世間での評判も最悪の映画キャシャーンだが、テーマソングだけは素晴らしく巷では「宇多田の歌の素晴らしさを再認識するための映画」なんて言われているほど。完全に宇多田ヒカルの一人勝ち状態だ。

以前は河野圭氏らアレンジャーによる編曲だった宇多田ヒカルの曲だが、この曲が収録されたアルバム「ULTRA BLUE」の時期から宇多田ヒカル自身が作詞作曲、編曲まで自ら行うようになった。
河野圭氏がアレンジをしなくなったことでアルバムの売り上げが落ちたと評されることも多いが、全てを自ら手がけるようになったことで、より濃厚な宇多田ワールドが感じられるようになり、それはそれで非常に魅力的である。

そんな背景があるこの曲だが、制作にあたっては歌詞から先に書かれたという。
全体を通して重苦しい言葉が並んだ内容となっており、極めつけは「誰かの願いが叶うころ あの子が泣いているよ」というエゲつない言葉に集約される。

楽曲に関しては殆どピアノ弾き語りに近いシンプルなアレンジに、打ち込みのストリングスとアコースティックギターが控えめに入ってくるという構成。
一般的に言ってもかなり寂しいサウンドであり、元々音数の多いアレンジが多かった宇多田にしてみればさらにそうであると言える。

だが曲を一聴すれば、そのアレンジになった理由がすぐにわかるだろう。
リスナーが歌として発せられた言葉を咀嚼するのを邪魔しないアレンジ。言葉に重みがありすぎるが故に、アレンジを重厚にすればするほど逆に安っぽくなってしまうのである。
全てを一人で手がけることことによって可能になった「歌と言葉と音楽」全てが密接に絡んで一つになった作品であると思う。
既にポップソングの頂点の座を欲しいがままにした彼女が、文化芸術的な側面からも音楽的な側面からも一段階上のステップに上がったことを証明する一曲だ。

 

余談だが、個人的にも宇多田自身によるアレンジは歓迎であるのだが、R&B路線の曲に関しては特にリズム隊が昔の方がクオリティが高く、いい意味で棘があってよかったと思ってる。

 

もう誰にも止められない


宇多田ヒカル - Beautiful World

劇場版エヴァンゲリオンのテーマソングとして制作された、ダンスビートに合わせた分厚いコーラスとクセのあるメロディが特徴の一曲。
「エレクトロさにオーガニックさ、儚さと前向きさ、ダンスチューンであり聴かせる曲であり」と今までの宇多田ヒカルが作ってきた様々な要素が見て取れる。まさに集大成といっても過言ではないだろう。
"Beautiful world"というタイトルの曲は過去にも多くのアーティストによって制作されているが、この壮大で掴みどころのない曲は宇多田ヒカルの"Beautiful world"の解釈として捉えても非常に面白い。

アレンジも面に関しては、ハウスの王道的なアレンジにこれまた王道のコード進行が乗ったものとなっているのだが、実際に聴いてみるとそんなオーソドックスさは一切感じず、むしろ普遍性を強調するのに上手く使用されているようにさえ感じる。
この辺りになってくると一般的な音楽の技術では説明できないレベルになってきており”センスと才能によって良い曲になっている”としか説明できない。

そんな曲、"Beautiful world"だが、極めつけは「メロディやアレンジなどで言いたいことは言い切ってしまったため、歌詞は邪魔にならない程度の控えめなものにした」という歌詞。先ほど説明した「誰かの願いが叶うころ」の逆の発想によるものだ。
この曲に関してはもはや色々と卓越していると思う。カッケェよ・・・カッコよすぎるぜBBA・・・

 

新アルバムはどのようなものになるのだろうか・・・

もうずいぶん長いこと邦楽のトップに君臨している感じがするが、
異常に早い15歳のデビューということもあり、まだ32歳。BBA、BBAと言っていたがまだちょっとしたお姉さんくらいだ。
今の時代30代からキャリアをスタートさせるアーティストも珍しくないし、これからも音楽を続けて欲しい限りである。
2010年に「人間活動に専念する」とのことで活動を休止し、はや5年。
妊娠中に新アルバムを制作中とのことで、そろそろ来年か再来年あたりに復活するのではないだろうか。エヴァの新作と同時にまた新曲がでるかもしれないし。

今のところ新アルバムの手がかりとなっているのは休止中に特例でリリースされた、現在劇場版エヴァンゲリオンQの「桜流し」とツイッターで語られた仮タイトル「差し入れカプチーノ」あたり。
結婚、出産と幸せな日々を過ごしているだろうから、なんとなく明るい曲が多いだろうと予想されるが、思いの他シリアスな曲が入ってくるような気もする。
まあとにかく楽しみである。

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