ロックリストランテの凄腕料理人、the chef cooks me
居てくれてありがとう。
思わずそう言葉が漏れてしまうバンドが2015年のロックシーンにいる。
誰が聴いても「良い!」と言える普遍的な歌を奏でるポップミュージシャンを紹介したい。
兎にも角にも最高、それがthe chef cooks me
2003年、フロントマンのシモリョーこと下村亮介を中心に結成されたthe chef cooks me。
都内を中心に活動し、幾度かのメンバーチェンジを経て、2008年にメジャーデビュー。
キーボードを巧みに操るフロントマンが書き下ろす、ポップスのエッセンスたっぷりのロックサウンドで、デビュー当初、勢いだけじゃない珍しいタイプのパーティーロッカーとして頭角を現すかに見えたが・・・
しかし、ヒット作に恵まれず、インディーズに逆戻りし、メンバーの脱退を経て、2013年にとある人のプロデュースで再び表舞台に返り咲き、現在に至る稀代のポップマジシャンである。
誰もわからなかったシモリョーの活かし方
声良し、曲良し、しかしブレイクの兆しナシだったデビュー直後のシェフ。
しかし、正直な話、デビュー当時のバンドメンバーのアンサンブルでは、シモリョーのソングライティング力を十分に活かすことが出来なかった。
デビュー当初はこの5人。
この5人で鳴らす音楽がどんなものだったかと言うと・・・
とびきりポップなのに、サイケな雰囲気も感じるハードロックなパーティナンバーである。
正直、コレはコレで良い。
良い歌だ。
当時、彼らのようなタイプのバンドはあまりおらず、シーンのアクセントして新鮮に映った記憶がある。
ポップスを基調に、先の曲のようなサイケなナンバーから、踊りだしたくなるファンクなチューン、エレクトロだったり、パンクだったり、バラードだったりどんな曲調でもガッツリこなしていた。
幅広い音楽性を駆使しながらも、どれもまあまあ聴きやすくポップだったことから、男性版クラムボンでも狙ってるのかな?と思ったのを覚えている。
『本気で音楽を楽しんでいる』
そんな印象があるバンドだった。
だから、次々とメンバーが減っていくのがいつも驚きだった。
あんなに楽しそうにおもしろいことができるのに、イマイチ安定感がないというか決定打に欠ける当時のシェフは、早々にメジャーの契約が打ち切られ、メンバーの入れ替えを繰り返し、迷走状態に。
2010年頃には、完全に死に体のようになってしまった。
とある天才メガネの介入→才能爆発
そんなバンドの危機的状況に救いの手を差し伸べた人物がいた。
ギターロックシーンの牽引者であり、その当時押しも押されぬスターバンドとなっていたASIAN KUNG-FU GENERATIONの首謀者・後藤正文だ。
特に彼が気に入ったのがシモリョーの才能。
停滞するシェフで腐らせまいと、ロックの第一線の感覚を掴んでもらうべく、自身のバンドのサポートメンバーにシモリョーを抜擢した。
プレイヤーとしても素晴らしい才能があったシモリョーのキーボードはアジカンのロックの軽やかにネクストレベルへと押し上げるほどだった。
そして、その鍵盤スキルは、活動の窮地に立つ邦楽のビッグネームバンドを支えるまでになる。
盟友であるジャパニーズエモの代名詞的バンドCOMEBACK MY DAUGHTERSのサポート。
近年では、女子ギターロックの先駆けチャットモンチーのサポートも務めている。
双方とも、素晴らしさが証明済みの大御所だが、メンバー脱退と言う危機に瀕しているバンドであった。
シェフ自体の歩みは止まれども、彼のサポート活動により、邦楽ロック界に「the chef cooks me有」「シェフまだ死んでないよ」と方々に触れ回る結果となる。
でもその肝心のバンドはいつ動き出すのか?
このままサポートミュージシャンで終わるんじゃないか?と周囲の心配がピークに達した時、今まで見たことない姿でバンドが帰還する。
大御所ビッグバンドへの華麗な変化
ジャン!
こんな感じにいきなり出てこられて真っ先に思ったこと。
何人いるの!!??
というワケで上の写真からサポートミュージシャンを引くと・・・
ジャジャン!!
少な!
ゴッチが立ち上げたプライベートレーベルからのリリース、およびゴッチ本人によるプロデュースということで特大の期待感の中の返ってきたシェフ。
ほぼ”再デビュー”と言っても過言ではない状況で、予想だにしない形態で帰ってきた。
だって10人近くの大所帯である。
元々5人組で、人数多いな、と思っていたら、徐々にメンバーが減り・・・絵的に寂しくなるなあ、と思わせておいて、まさかの実数3倍近い数でやってきたワケであるから、見た時の感想は驚き以外の何物でもなかった。
しかし、その大所帯の理由がリリースされた新しい音源で納得できた。
こんなバンドだったんだ。
こんな音楽がしたかったんだ、シェフって。
聴いたことがある気がするのに、全然新しい。
何よりも言葉がシッカリ入ってくる。
パーカッション、フルート、トランペット、女性コーラス・・・あんなにたくさんいる楽器隊の音が歌メロのために過剰に出しゃばることなく、それでいて絶妙にメロディを引きだたせるために鳴り響いて止まない。
あのサイケでパンキッシュだった以前のシェフから考えられないくらいわかりやすい音楽になっている。
さながら全盛期のサニーデイサービスのような、聴くだけで魔法がかけられたような幸福感を感じさせられるカラフルなのに透明感あるあの感じ。
要は素晴らしいポップロックなのだ。
the chef cooks me。素晴らしい、と、断言します。バンドなんて、一瞬の火花みたいなものです。見逃さないように。
by 後藤正文
プロデューサー、ゴッチのこの言葉通り。
彼のプロデュースの下、2013年作られた復帰作「回転体」は21世紀の名盤と言っても過言ではない出来である。
遂に覚醒したのだ。
ベンフォールズが日本人だったらこんな音楽になったのかな?
そんなことを思ってしまうくらいスケールがデカく、時代やジャンル関係なく、「良い曲」揃いのアルバムであった。
先述の『適当な闇』のリリカルでダンサブルな問答無用のポップナンバーを皮切りに、一緒に「イェーーーーーーイ」と言わずにいられない8ビート『song of sick』や、当に今のバンドに最も合うだろう合言葉『ケセラセラ』というポップマジックが詰まった玉手箱チューン。
アカペラで始まる「まちに」のゾクゾク感。
ゴッチにハスキン磯部にラップまでやらせている「環状線は僕らをのせて」。
1枚のアルバムでこんなにも色んなタイプの音色が聴けて、色んな景色が見えてくるなんて正直驚いた。
中村一義の『金字塔』を90年代に初めて聴いた時のような、そんな驚きが10年代に再び訪れたような感触がある。
やりたい音楽をノビノビやらせる→その結果名作が産まれる。
ゴッチPスゴイ。
そして、そんな才能隠し持ってたシェフ、もっとスゴイ。
終わらぬ受難を乗り越えて・・・
ようやく乗れた順風も、そう長く満帆とは行かず・・・
2015/3/31、11年連れ添ったドラム・イイジマタクヤが脱退を発表した。
今年の頭にリリースの新しいEPが素晴らしかっただけに残念で仕方ない。
今まで、多くのメンバーが入っては去って行ったが、今回ばかりは本当に残念で仕方ない。
しかし、天才は今回も前に進むと宣言した。
悔しかったと思う。
悲しかったと思う。
こんなに多幸感あふれる曲を書いていながら、なんでこんなに悲しいことが起こるんだろう。
こんなに情熱溢れる音楽家なのに、どうしてうまくいかないんだろう。
こんなに愛される音楽のはずなのに、なぜその本人が窮地に立たされなきゃいけないんだろう。
世紀の名盤は、通過点のはず。
もっとヤバイ音楽を。
もっと優しい音楽を。
止まらず鳴らし続けて欲しい。
それが、現在に音楽シーンにおいて、the chef cooks meが果たすべき役割なはずだから。
聴いたことのない人は、必ず聴いてください。
現代において一番完成されたポップネスthe chef cooks meを。
素晴らしい音楽を、素晴らしい日常に。
Let’s sing A song 4 ever.