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2017/04/15

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THEE MICHELLE GUN ELEPHANTになりたくてハイネケンばかり飲んでた

 十年前、私はハイネケンばかり飲んでいた。ビールを飲むならハイネケンだった。ミッシェルガンエレファントになりたかったからだ。

 ミッシェルガンエレファント(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)は四人組のロックバンド。1991年に結成された。2000年にはブランキージェットシティとともに、日本のバンドとして初めてフジロックのヘッドライナーをつとめた。2003年に解散。名実ともに、1990年代を代表するバンドと言っていいと思う。

 この記事では、ミッシェルガンエレファントおよびボーカルのチバユウスケのその後について書く。はじめに言っておくと、評論やレビューというよりは、ゆるいエッセイみたいなもんである。そのへんよろしく。

ミッシェルガンエレファントとコメツキバッタのはざまで

 なぜ、十年前の自分はハイネケンばかり飲んでいたのか。

 理由は単純である。ライブ後の楽屋で、ミッシェルの四人がハイネケンで乾杯していたからである。その映像を見た瞬間、ハイネケンはかっこいいビールの代名詞となり、ハイネケンを飲むたびに自分の中のミッシェルガンエレファント度数が上昇するしくみが採用されたのである。

 当時の自分にとって、カッコイイものの代表はミッシェルガンエレファントであり、カッコ悪いものの代表はコメツキバッタだった。コメツキバッタというのは私が子供の頃によく見たバッタである。普段は地面でジッとしているが、驚くとピョーンと真上に飛び跳ねる。そのさまが最高にダサい。飛びはねる角度、妙にもったりした速度、身体のペラペラ感、なにもかもがダサい。

 よって、ミッシェルのライブにおいてギターのアベが直立不動でギターを弾いているときのカッコよさを「1」とし、おどろいたコメツキバッタが垂直に飛び跳ねたときのカッコよさを「マイナス1」とすれば、カッコよさの数直線が完成する。

 男というのはこの数直線上を左右に移動する生き物のことであり、ハイネケンを飲むことは、数直線上をミッシェル方向に進むことだったのだ。

 しかし、深夜三時にアパートのせまい部屋で生玉子のかかった牛丼を食べていたら腹の調子がおかしくなって屁が出そうになりイライラしながら肛門に力をいれたらそのまま脱糞する(実話)などの経験をした場合、一気にコメツキ側に引き戻される。いかにしてコメツキ要素のある行動をせずにミッシェル要素のある行動をするか、それが重要だった。

 参考までに、ミッシェルの解散ライブの動画を載せておく。当時、私はDVDでこの映像をアホほど観た。いま観てもしびれる。アベが直立不動でギターを弾いている。これがカッコよさの「1」である。だが、アベは2009年に死んでしまった。

ミッシェルガンエレファントをどう呼ぶか問題

 ミッシェルガンエレファントをどう呼ぶかには派閥があった。私は「ミッシェル」だった。これは多数派である。しかし「ミッシェルガン」と呼んでいる人間もいて、これは大抵、ツウっぽい奴だった。私は「ガンいらなくね?」と思ってたが、言えなかった。ツウ丸出しの顔で言われたから。

 じゃあブランキージェットシティはブランキージェットかよと思ったが、そこは普通にブランキーのようだった。いまだによくわからない。もしかしたら、他のミッシェルと区別するために「ガン」を付けていたのか。音楽に詳しくなるほど、さまざまなミッシェルを知るものだから。

 頭文字を取って「TMGE」と書くパターンもあった。文章じゃなく実際に会話の中で使っている奴を一人だけ見たことがある。これは単純に「大変そうだな」と思った。「ティーエムジーイーが」と言ってたから。噛みそう。

 

ROSSOの『アウトサイダー』

 2003年、ミッシェル解散。ボーカルのチバユウスケはサイドプロジェクトだったROSSOの活動を本格化させた。私はROSSOの活動を熱心に追った。活動再開一発目のツインシングル「1000のタンバリン/アウトサイダー」を発売日に買ったのを覚えている。紙ジャケだった。二曲ともよかったが、とくに『アウトサイダー』が最高。

 

 さて、『アウトサイダー』にはこんな歌詞がある。

 この星にメロディーを
 あの子にキスを
 君にロックン・ロールを
 それだけで生きてけんのは
 ちっとも不思議じゃねえよ

 これは正直に言って、ものすごく微妙な歌詞である。真正面からカッコイイ歌詞かと問われれば、口ごもる。というのは、ふつうの男がこれを言うと、ほぼ確実に「なに言ってんだ?」となるからである。

 当時、同じくチバ好きの友人と二人でカラオケに行った。そいつはさっそく『アウトサイダー』を入れて歌い始めると、曲のピークで私に向かって「君にロックンロールを!」と叫んだ。

「それだけで生きてけんのは、ちっとも不思議じゃねえよ」

 得意気にキメていたが、歌い始める前、そいつはずっと大学の単位がやばいという話をしていた。全然、ロックンロールがあれば生きていけてない。単位がないと生きていけていない。そんなやつに「君にロックンロールを!」と言われても困る。そのロックンロールは返品したい。

「俺に単位を!」

 どっちかといえばそんな感じ。

 しかし、この歌詞をチバユウスケが歌うと違和感がない。「この星にメロディーを!」というロマンティストぶりまで含めて、「完全にチバじゃねーか!」と嬉しくなる。私はチバのことを骨太な乙女だと思っている。

 つまり、「それだけで生きてけんのはちっとも不思議じゃねえよ」という言葉に説得力を持たせるのはむちゃくちゃ大変だということで、素人がカラオケで歌うのを見たことで、あらためてチバユウスケの凄さを知った。歌声・表情・たたずまい、つまりは「存在感」によって言葉に説得力を持たせられるかを問われるのが、ロックバンドのボーカルなのである。

 

The Birthdayの『なぜか今日は』

 ROSSOは2006年に活動休止。ちなみに、最後のアルバムである『Emissions』は重くて渋くて最高に良い。

 その後のチバユウスケは The Birthday というバンドで活動している。最近の曲だと『なぜか今日は』が最高。シンプルにカッコイイ。そして、シンプルにカッコよいものを聴いたときは、何も言うことが浮かばない。シンプルにカッコイイだけのものに何を言えばいいのか。「ウオー!」とかか。

 ということで黙ります。あとは聴いてください。

 

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