ロック好きもエレクトロで踊れ!食わず嫌い克服 LCD Soundsystem
ライブアルバムは基本的に好きじゃない。
これに賛同してくれる音楽ファンは少なくないはず。思いの他歌や演奏が下手だったり、観客の声がノイズに聞こえて癇に障ったり。しかし、ごく稀に奇跡的にカッコいいライブアルバムに出会う事もある。
LCD Soundsystem の解散ライブを収録した"The Long Goodbye"も稀な名作の一つだ。タイトルまでいちいち胸にぶっ刺さるフレーズってのも憎い。28曲みっちりとフルライブが収録されたボリュームのあるこのアルバム。
元々解散ドキュメンタリーが音源化されたものらしい。それにしても芸術品のような完成度。実際の解散ライブは4時間近くあったそうだ。
LCD Soundsystemって?
2002年、NY・ブルックリンでボーカルのJames Murphyを筆頭に結成。2011年に事実上解散したものの、2015年終盤辺りから活動再開。タイトル通り約5年に及ぶロング・グッバイだった。
今年も夏フェスのヘッドライナーを勤め上げた人気っぷり。このラストライブが収録されたMadison Square Gardenはバスケの試合会場で有名だが、ライブ時のキャパ1万8千+(横浜アリーナより少し多い位)が埋まると言えば、米国での知名度がお分かり頂けるだろう。
解散ライブのチケット販売はアクセスが殺到し、オンラインでバグが起こって大問題になったらしい。何度もグラミー賞にノミネートされている実力派。
厳選オススメ三選
Losing My Edge
ライブレコーディングでこのレベルの高さ!MCの煽りも演奏の一部に溶け込んでいて最高にカッコいい。
Losing My Edgeは意訳すると「かつての勢いを失っている」ボーカルがその理由をひたすら音楽に任せてブツブツ言ってるだけのなのに、何をどうすればここまで聴かせる曲になるのか。
しかし、解散ライブでこれを呟いていると考えると胸が苦しくなる。頂点に達した事のある者にしか分からない苦悩があるのだろう。日本語では真似出来ない、また英語でしか伝わらない何かを感じ取って頂けただろうか?
You Can't Hide (Shame On You)
米国人に今も昔もウケる音楽の条件の一つに「踊れるか否か」がある。余談だが、酔っ払ってこの曲を聴いていると無意識の間に踊っていた。
聴いてるだけで踊りだしたくなる音楽、踊り好きの米国人にウケない訳がない。近年の米国は、メジャーでもインディーズでもエレクトロが主流になりつつある。
このエレクトロブームを起こしたバンドの一つが他でもないLCDだ。後半で黒人ボーカルがブッ込んでくる節は、エレクトロに馴染みがなくても心掴まれる。
North American Scum
初めて聴いた時は全然好きじゃなく、オリジナル版の女性ボーカルがピーピーうるさくて、正直耳触りだったこの曲。
しかしながら、このライブ収録は全く別の生き物に仕上がっている。ボーカルの声のキレが良すぎるのだ。カクテルで例えるならソルティ・ドッグ、苦味があるけど少し慣れればまた飲みたくなって、一杯で酔いが回って病みつきになるアレとそっくりだ。
ロック好きは女性ボーカルが今一つ好きになれない人が多いはず。ゲスト収録で女性ボーカルが入ってたら「いらん事しやがって」とガッカリした経験はなかろうか。この曲だけでなく、アルバム全体に「いらん事」感がなくて男くさいのもロック好きも聴き入れる一つの魅力であろう。
いかがだっただろう。
ロック好きでもカッコいい!踊りたい!と聴き入ってしまう様、上手に料理してくれるLCD Soundsystem。去年に本格的に活動を再開した彼ら、現在ニューアルバムを製作中らしく、今後も目が離せない。