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2016/07/16

記事 邦楽ロック

見世物じゃないガチの狂気 suzumoku

 鬱だとか心の傷だとかを売りにするミュージシャンは多い。

 たとえばセカオワ。もう、Fukaseすぐ昔の話するもんな。過去の経験をマイノリティとして宣っているが、セカオワに共感する人間の数がそのエピソードの普遍性の証明だ。現代の日本において学生時代に闇を一切抱えずにすごす方が圧倒的に難しい。

 血液型占いに「あ、当たってるかも」とか各々が思っちゃうように、人間はそもそも多面性でできている。普段明るい人だって、たまには憂鬱な顔もしてみたかったりだ。とにかく、憂鬱っていうのはどうやら万人の心にあり、ミュージシャンが憂鬱を唄うのも、そのテーマの共感されやすさが一因だろう。

 しかし、あんまり込み入った憂鬱は少数からの共感しか得られないらしく、リスナーにわかりやすくした結果か、もしくはもともと抱えていた憂鬱が単純であったためか、安っぽい三文芝居のような歌詞になるミュージシャンは少なくない。どうだろう、心当たりはないだろうか。

 と思えばだ、今回の記事の表題にあるsuzumokuという男。この人はもう本当に底冷えするような怖さがある。

 ベクトルは違うが、狂気で言えばこの方向。友川カズキのように唄がそもそも呪詛めいていて聴く人間をかなり選ぶ。故に売れない。だが響く人にはどこまでも響く火力一発を持ったシンガーだ。

 このサイトでは"売れる売れない"を中心に話題のミュージシャンを取り沙汰すことが多いが、こういう「一般受けから遠く離れているが、面白い」そんなアーティストが一部の奇人変人に届くことが本懐だ。

 全員にウケなくてもいいから、是非聴いてくれ。

 本当は、好きなミュージシャンを人に勧めるときは最も彼を代表するであろう曲を取り沙汰すべきかと思う所だが、あえてこの曲。こういう薄曇りな曲こそ彼らしさ。そう思うのだ。

 僕がそんな邪推をするのは、なんというか、彼はいちいち挙動が怖いのだ。ライブも何か虚ろで客じゃない方ばかり気にするし、ツイッターなんか

 なんでこんなことやろうと思ったかまったく見当がつかないが、どうやら適当に引いた線にただただ書き込みを入れているらしい。

 

 メンヘラアピールでこういうことするヤツ、たまにいるけれど、suzumokuが怖いのはある日から突然、毎日毎日これをずーっとこれをやっている点。ファンもそろそろ飽き飽きしているのにもうホントずぅーっとやっている。

 怖い。僕の言う底冷えは、こういう所から来る深さのしれぬ沼のような狂気。Fukaseなんかせいぜいキャリーと別れて数字並べるくらいが関の山よ。

 根から言動が冥いヤツは、いつだって損得から離れた行動をとる。

 僕が平気で夜道を歩けるのは「俺を刺したって、誰も得しない」とタカを括っているからだ。だから僕が本当に恐れるのはこういう人間。損得で動いてくれない人間は行動が一切予測が付かない。気まぐれで人を殺したり自身を殺したりする恐れがある。

 

 希望、とか言って、こんなに暗い歌はないよ。下向きな歌は下を向いてるからこそ底が見えるが、本当に暗い奴は前向きで、生活の延長に死がある。

ゴミ袋をあさる猫 横取りを狙うカラス
これとよく似た事を 今朝のニュースで見たな

 物の見方からして、淡々として。その淡々が恐ろしい。死ぬ死ぬ騒ぐ奴って、死なないでしょ。

 

 このsuzumokuという男。エピソードを上げればキリがない。

 たとえば、2000年代に入り若者にジャズブームを巻き起こしたバンド、PE'Zとの合体ユニットpe'zmokuの全国ツアー前日に失踪。数週間後徳之島でぼーっとしているところを捕獲され病名を携え本土へ帰投。本人は
「きがついたらそこにいた」
 と証言。オイ、いちいち怖いんだよ。その後企画はポシャり解散している。

 たまにこういう人間はいる。本当にごくたまに。そういう奴は決まって何かにアホほど熱中し、人が理解できないような、そいつがただ信じる芸術作品みたいなのを作って満足げにする。たぶん、その手合いだろう。

 それらの人種は商売に向かないのだ。人が何をしたら喜ぶのかてんでわかっていない。あの絵なんか、まさにそのいい例だ。

 しかし彼のような人が作る歌こそ、面白いなあと僕は思う。売れる歌、万人に好かれる歌なんてのはいつだってリスナーの方を向いているし、それはそれで素晴らしいが、打算も計算もできない不器用な人間の歌は自身の方ばかりを向いて、こっちのことなんかまるでお構いなしだ。そういう曲は、やっぱり面白い。

 声もろくに加工されず出せるぐらいの独特の伸びがあるいい声をしている。ライブでこそ人の耳に刺さる、機会があれば是非足を運んで見て欲しい。

 

 好き嫌い大いに別れると思うが、suzumokuを是非。

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