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2015/09/07

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破天荒な27年の人生、エイミー・ワインハウス映画 "Amy"

才能に溢れたミュージシャンは、27歳で衝撃的に死ぬという噂がある。
27クラブ」とも言われており、もはや知らない人はいないカート・コバーンを始め、ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジム・モリソンなど、人気絶頂時に惜しまれながらも若くして亡くなってしまうミュージシャン達。
4年前、2011年7月23日にアルコールの過剰摂取で亡くなった、エイミー・ワインハウスもその一人だ。

Landmark Sunshine Cinemaにて

Landmark Sunshine Cinemaにて

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若い地下室読者にはあまり馴染みがないかもしれない。
彼女の生涯をまとめたドキュメンタリー映画"Amy"を観てきた。
スキャンダルの女王と言われていた彼女を紐解いた、映画のレビューを交えつつも紹介したいと思う。
(日本での公開に関してはまだ未定だが、ネタバレ要素を含んでいる事は、念のためにお伝えしておきたい。)

生い立ち

イギリスのミドルセックス州出身でユダヤ系の両親を持つ。
幼少期からR&Bやジャズの影響を受けたハスキーな歌声が評価されており、16歳にしてレコード会社との契約を結ぶ。カート•コバーンを引き合いに出してしまいがちであるが、エイミーもカートと同様、家庭環境が複雑で、両親の離婚が引き金になり、情緒不安定になってしまったように思える。
劇中で当時のマネージャーが

「エイミーは自分自身の事を歌にせずにはいられない。そこには、彼女自身と音楽との純粋な強い繋がりがある」

とコメントしていた。
自分で選べない家庭環境に育ち、空いてしまった心の隙間を埋めるかのように、彼女は自分自身を音楽に投影した。また、アルコールとドラッグに対する依存体質、そして長年悩まされていたという摂食障害も、この生い立ちが大きく影響していると思われる。

スターダムを駆け上がる


2003年にアルバム「フランク」でブレイクし、2006年にアルバム『バック・トゥ・ブラック』で全英トップの人気となる。(Wikipedia)
2008年にはグラミー賞を受賞するなど、世界的スターとなった。しかし、栄光の裏で彼女はドラッグとアルコール依存から抜け出せないでいた。皮肉な事に、このRehabはドラッグのリハビリ施設での療養について歌にしたものである。
エイミーは作曲に関して

「Top40などの流行の曲を聴いてみても、誰かに作って貰ったのを歌ってるだけじゃ薄っぺらく感じる。だから、私は自分で曲書いて歌いたいと思ったのよ」

と劇中でコメントしていた。
彼女は自分のリアルな経験を歌詞に書いて音楽に乗せる。
多くのミュージシャンがそうであるが、エイミーに関しては表現が生々しいと私は思う。
彼女のハスキーな歌声も手伝って、生き様が肌で感じ取れるようだ。

エイミーを破滅に導いた元夫・ブレイク・フィルダー・シビル

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ダメな男をなかなか切れないのは、年頃の女性の多くが経験済みだろう。
人に言われて、自分でもダメだと分かっているのに、好きなんだか情なんだか、よくわからない愛しさでついつい連絡を取ってしまう。恋は盲目、エイミーもまた恋に翻弄される女の子の一人だったのだ。
しかしながら、エイミーは相手が悪過ぎた。彼女を破滅に導いた一番の悪因と言っても過言でない、元夫•ブレイクは、ドラッグ中毒者だった。エイミーがドラッグを辞めようと試みるも、彼女にヘロインを打ち付けて病院に搬送される騒ぎになったりとめちゃくちゃである。エイミーの稼ぎに乗っかっている実質ヒモのドラッグ中毒という、誰がどう見てもクズとしか思えない相手に夢中になってしまっていたみたいだ。エイミー一人で行くべきだと周りに止められた、ドラッグのリハビリ施設へも強引に二人で入院する始末、結局退院後もブレイクの影響でドラッグを断ち切れないままでいた。

そんな中、ブレイクに離婚を切り出され、エイミーは再び情緒不安定に陥る。元々女癖の悪かったブレイクはエイミーとの離婚後、別の女性と再婚し子供を授かったみたいだ。一般の女性であれ、別れを告げられて間もなく相手が再婚して子供が出来たなんて聞かされると、しばらくは立ち直れないだろう。
元々感受性の強いエイミーは、これを機にアルコールへの依存と摂食障害の悪化に拍車が掛かった。
アルコールやドラッグのみならず、人に対しても依存体質だった事は、劇中から感じ取れた。
この依存体質が死を早めてしまう事になる。

"Amy was a girl that just wanted to be loved.”
「エイミーは、愛されたいとただ願う女の子だった」

カート•コバーン同様、彼女も愛に飢えていた。

"The fell in love with someone I will die for. “
「死んでもいいと思える相手と恋に落ちたわ」

ここまで心から愛していた夫に裏切られたエイミー。
その心の隙間を埋めてくれるのが、ドラッグやアルコールだったのかもしれない。

有名になりすぎた末路

またカート•コバーンとの類似点が挙げられるが、エイミーもまた有名税をコントロール出来ないでいた。
メディアは彼女をジョークのネタにする、プライベートもパパラッチに追いかけられて休まる暇もない。

“I’m not a girl, planned to be a star."
「スターになるつもりはなかったのよ」

ドラッグからのリハビリ療養を兼ねて活動を休止していたが、2011年6月にヨーロッパツアーを再開。

しかし、このセルビアでのコンサートで彼女は泥酔、もしくはドラッグがキマっていたかの状態で大幅に遅刻して登場し、マトモに歌えなかった。観客からは大ブーイングを受けて、以後のツアーは全て中止となった。

「彼女は歌う準備が全く出来ていなかったけど、やらざるを得なかった」

と身近な関係者がコメントしている。また、冒頭でも触れた

『音楽と彼女の純粋な繋がり』そのものが、この頃には既に失われていていた」

ともあった。

劇中では、彼女を死に追いやった決め手はメディアだと遠回しに表現していた。
メディアは発言に責任を持たない。私の印象では、上記の元夫との破局と、この有名税が重なって追い詰められたのではないか、と思っている。そして、このコンサートの約一ヶ月後に、アルコールの過剰摂取で息を引き取っているのが、イギリス•カムデンの自宅で発見された。


27歳という若さで亡くなるスターには、エイミーやカートのみならず、似た様な心の隙間があるみたいだ。
27クラブに挙げられるミュージシャン達もまた、有名になりすぎたものの私達同様の「普通の人」である一面を持ち合わせている。エイミーは才能に溢れている。一方、彼女もまた恋に翻弄されて有名税をコントロールできない「普通の女の子」だったのだろう。情緒不安定な時にゴシップで笑いのネタにして叩きまくっていたメディアは、エイミーが亡くなった途端に「私達の愛したエイミー」と、悲劇的な報道を始めるという無責任具合。
一方、映画 "Amy" はエイミー・ワインハウスがどのような生涯を過ごしたか、というのが、彼女の心情に近い内側から描かれている。エイミーを良く知る人のコメントが集められているので、彼女が何者であるかを深く知れる映画に仕上がっていた。
もし、日本で公開が決まれば、あまり馴染みのない人にも観て貰いたい作品だと思う。
エイミー・ワインハウスのぶっ飛んだ生涯の記録に、あなたの心も掴まれて離れなくなる事だろう。

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